村上春樹『海辺のカフカ』あらすじ|運命の呪縛に、どう生き抜くか。

スポンサーリンク
スポンサーリンク

作品の背景

『海辺のカフカ』は、村上春樹の10作目の長編小説。父親からカフカにかけられた予言をギリシャ悲劇のエディプス王の父殺しの神話をベースとしたり、佐伯さんが生き霊として15歳のときの自分に憑依する場面では、源氏物語や雨月文語など日本古来からの霊魂の考え方をベースにしています。

ふたつの物語からなり、奇数章は、15歳の誕生日に家を出て四国に向かい様々な人々と出会い自身の深層意識と向き合いながら自分探しをする物語。偶数章は、記憶を全て失くしたナカタさんが星野さんの手伝いを受けて、あるべき姿に戻るべく<入口の石>を探す物語。

ふたつが重なり合い全体が明らかになる。現実と非現実を往還するが、非現実の場所として、今回は森の奥深い場所での時空間を超えた歪みが異界となっている。またサリン事件を取材した作品『アンダ―グランド』でのインタビュー形式がアメリカ陸軍情報部(MIS)報告書や、佐伯さんの落雷に打たれ助かった人の取材の場面に表れている。

テーマとして『羊をめぐる冒険』や『ねじまき鳥クロニクル』の邪悪が継承され、その呪縛と向き合い、悪を退け、いかに成長をしていくかという流れとなっており、「絶対悪」「戦争」「暴力」などに対して、「森」「入り口の石」を通じて異界を訪れ自身の「影」や「潜在意識」との葛藤を体験し、これを乗り越えて、自由な自我を得て生きていくことの試練と正当性を問いかける。呪縛を祓うものは愛情であるとメッセージしている。

発表時期

2002年(平成14年)9月、新潮社より上下二分冊で刊行された。2005年3月、新潮文庫として文庫化。村上春樹は当時53歳。「ニューヨーク・タイムズ」紙で年間の「ベストブック10冊」及び世界幻想文学大賞に選出された。