村上春樹『蜂蜜パイ』あらすじ|愛する人々が、新たな故郷になる。

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小説家の淳平には学生時代からの仲の良い三人グループがいる。淳平は昔から小夜子が好きだったが、高槻が先を越し小夜子と結婚、やがて二人は離婚した。娘の沙羅が4歳の時、神戸の地震が起こる。淳平は沙羅に「熊のまさきち」の童話を語りながら小夜子と一緒に生き、新しい愛の物語を書こうと思う。

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登場人物

淳平(主人公)
36歳、神戸生まれで小説家を目指す。人見知りで内省的な性格だが高槻と小夜子は大学からの親友。

高槻(カンちゃん)
長野の出身で淳平より一つ年上。背が高く肩幅が広くて人なつっこい性格でリーダーシップがある。

小夜子
高槻の妻。浅草生まれの美しい髪と知的な目をもつ女性で、学生時代は淳平の方に好意を抱いていた。

沙羅
小夜子の4歳の愛娘で感受性が強く、神戸の地震のTVニュース映像で情緒不安定になって眠れない。

あらすじ

淳平は小夜子の4歳になる娘の沙羅がうまく眠れずに起きて来たので「熊のまさきち」の即席の童話を聞かせます。 沙羅はいろいろと鋭い質問を淳平にしますが、淳平はひとつひとつ丁寧に答えます。

沙羅が眠りにつくと、小夜子は淳平に御礼を言いながらくつろぎます。沙羅はこのところ毎日、真夜中過ぎにヒステリーを起こしてとび起きて、震えが止まらず泣きじゃくっています。

小夜子は「神戸の震災のニュースを見すぎたせいだと思う」と言います。地震男がやってきて、沙羅を小さな箱に入れようと手を引っ張り、関節をぽきぽき折るみたいにむりに押し込める。そこで悲鳴を上げて目を覚ますというのです。

淳平と高槻と小夜子は、大学時代からの仲の良い三人でした。

淳平は人見知りで友達が作れないが、人なつっこく現実的で決断力とリーダーシップを発揮する高槻とは、なぜか馬が合い心を許し合える仲で、そこに小夜子も加わり三人のグループができます。

淳平は小夜子のことを好きでしたが、高槻に先を越されて二人は付き合い始めます。

そのことを知った淳平は、茫然と喪失感のなかで過ごします。卒業後、小夜子と高槻は結婚します。高槻は一流の新聞社に、小夜子は大学院に進み、淳平は小説家を志し短編を出していました。

小夜子が30歳の時に沙羅が生まれますが、この頃、高槻には別の恋人がいて、沙羅が2歳の時には既に破局を迎えており、ついに二人は合意の上で離婚します。

淳平は学生時代からの仲良しの付き合いがずっと続いていますが、神戸の地震後、4歳の沙羅は情緒不安定になり、淳平は「熊のまさきち」の即席の童話で沙羅を寝かせるために、小夜子のマンションを訪れているのでした。

『蜂蜜パイ』の物語は、男二人、女一人という学生時代の甘酸っぱい恋愛の記憶を引きずり生きてきた淳平に、神戸の震災によって起こった人間の内面性の変化を捉えます。

大地震という惨劇の後で4歳の沙羅がPTSDの障害に似た症状となり、学生時代に自意識の強い小夜子に告白できなかったことは、自分の自信の無さや臆病さの結果だと引き受け、淳平は強く生きていこうとします。

そんな過去を引きずる淳平の心象を、即席の童話の「熊のまさきち」が集めた蜂蜜で、「熊のとんきち」が美味しい蜂蜜パイを作り、淳平は小夜子と沙耶と一緒に暮らす決心をするという幸せな結末で、心温まるファンタジーに包み込みます。

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※ブログ文中の表記は、新潮社<神の子どもたちはみな踊る>から