村上春樹『海辺のカフカ』あらすじ|運命の呪縛に、どう生き抜くか。

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おまえは父親を殺し母親と交わる。呪縛から逃れるためカフカ少年は四国に向かうが、運命はつきまとう。一方、記憶を失ったナカタさんは、自分を取り戻そうと入り口の石を探す。二つの物語が融合し結末が訪れる。エディプス王の神話を下敷きにメタフォリカルに進行する15歳の成長物語。

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登場人物

僕(田村カフカ)
父の運命の予言から逃れようと家出し、四国で様々な人々との出会いを経験し成長する。

カラスと呼ばれる少年
カフカにだけ見える分身のような存在で、いろいろなアドバイスや状況を読者に説明する。

佐伯さえきさん
甲村記念図書館の50過ぎの上品で知的で美しい女性館長。恋人が大学紛争の巻き添えで死ぬ。

大島おしまさん
甲村記念図書館の司書で21歳。血友病で性同一障害、カフカの良き相談相手となる。

さくら
カフカが夜行バスで高松に行く途中のサービスエリアで知り合った若い女性美容師。

ナカタ サトル
中野区に住む60代の知的障害者で、猫と話せる。幼いころ山での出来事で記憶を失う。

星野ホシノさん
優しかった祖父に似たナカタさんと一緒に、四国に行く20代半ばの正直者のトラック運転手。

ジョニー・ウォーカー
カフカの父に乗り移った悪霊がウィスキーのラベルに扮する。猫を殺し魂を笛にする。

カーネル・サンダース
ケンタッキー・フライドチキンの人形に扮した霊魂で、星野さんに入り口の石の場所を教える。

あらすじ

思春期を通過する田村カフカ少年の成長物語としての奇数の章と、奇妙な運命で歪められたナカタさんが自分を取り戻す物語としての偶数の章とで構成される。1995年以降、未曽有の阪神淡路大震災や社会の闇の部分が表出したオウム事件が発生。そして狂乱のバブル崩壊後、喪失感のなか起こった残忍な神戸連続児童殺傷事件で犯人が少年だったことに人々は震撼した。感受性や想像力を失った社会は子供たちの心を歪め、彼らは暴発していく。

当時の日本は大きくバランスを崩し始める。とくに少年犯罪は大きな社会問題となっていった。そんな時代のなかギリシャ悲劇のエディプス王の物語を下敷きに、父から「お前はいつかその手で父親を殺し、いつか母親と交わることになる」と予言されたカフカ少年が、その呪縛から逃れるために四国に向かう話。もうひとつは戦争や暴力など絶対悪の連続性のなか国民小学校の頃の事故ですべての記憶を失くしたナカタ老人が元の自分に戻るために「入り口の石」を求め四国に向かう話。2つの物語がパラレルに進行し途中から融合する。

カフカは家出をする。夜行バスで四国に向かい、途中、若い美容師のさくらと知りあい姉ではないかと思う。辿り着いた高松で、由緒ある私設の甲村図書館で時間をつぶすうちに、そこで寝泊まりする部屋を与えられる。その部屋に飾ってある絵と、50代の美しい館長の佐伯さんが19歳のときに作った「海辺のカフカ」の音楽の中、カフカは時空間を超えて現れた15歳の少女に恋しながら、少女の霊が乗り移った佐伯さんと性的に結ばれてしまう。そしてカフカは佐伯さんが本当の母親ではないかと思う、死んだ恋人の思い出に生きる佐伯さんはカフカと出会い、カフカのなかに恋人を感じたことで、全ての記憶を捨て去り、死のときを受け入れて命を絶つ。

一方、知能に障害を持つナカタさんは生活保護を受けながら中野区で暮らす。ナカタさんは猫と話すことができ、迷い猫を探すことを請け負い、猫との会話を楽しみながら静かに生きていたが、猫殺しのジョニー・ウォーカーの残酷な行為に耐えかねて、彼を殺してしまいナカタさんもあるべき姿に戻るために導かれて四国へ向かう。途中、トラック運転手の星野さんと出会い、行動を共にする。星野さんはナカタさんに、不良時代の自分を可愛がってくれた死んだ爺ちゃんを思い親しみを感じる。ナカタさんの目的である<入り口の石>を探し、カーネル・サンダースに扮した霊魂に案内され見つけ出すことができる。やがてナカタさんは甲村図書館へ自身と佐伯さんに死のときを知らせに訪れる。そして彼女に頼まれて3冊の記憶のノートを河原で燃やし灰にする。

そんな中、カフカの父親が何者かに殺され警察の事情聴取が及び、カフカは大島さんの所有する高知の山中のキャビンに身を寄せるが、そこで禁じられていた森の奥へと向かい二人の兵隊から異界へ案内され小さな町に辿り着く。小屋には15歳の少女が現れ、そこは時間も記憶もない世界だった。やがて佐伯さんがやってくる。佐伯さんは、カフカに元の世界に戻るように諭し、部屋にある絵と共にいつまでも私を記憶に残してほしいと言って去る。カフカは佐伯さんとの約束を果たすために森を出ていく。

そしてカフカは、現実に戻り甲村図書館に行くが、佐伯さんが亡くなったことを大島さんから聞く。形見として「海辺のカフカ」の絵を譲り受ける。一方、「入り口の石」を開いたナカタさんも役割を終え普通に戻ることができ静かに息をひきとる。残された星野青年はナカタさんの口から出てきた邪悪を退治する。こうして開かれた「入り口の石」は、あるべき姿に閉じられる。カフカは東京に戻ることを決める。<カラスと呼ばれる少年>は、カフカを「世界でいちばんタフな少年だといい、新しい世界の一部になった」と言い、物語が閉じられる。

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※ブログ文中の章の表記は、新潮社<海辺のカフカ>から