村上春樹『パン屋再襲撃』解説|非現実的で不思議な、襲撃の結末は。

僕と妻は、耐えがたいほどの空腹感に同時に襲われる。その理由は、僕が昔、相棒とパン屋を襲撃したときの呪いが、かかったままだからだと妻が言う。結婚したての二人に訪れた都合よく行かない問題と修復のための共同作業。心理療法のような村上春樹の世界。

あらすじ

僕は、28歳で法律事務所に勤めている。妻は、僕よりも2年8か月年下、デザインスクールで事務の仕事をしている。

夜中の二時前に僕と妻は、二人とも同時に目を覚まして強烈な空腹感に見舞われる。

僕は妻に外で食事をしようと提案するが、妻から 「夜十二時過ぎに食事のために、外出するなんて間違っている」 と古風なことを言われ、それが何かの啓示のように耳に響く。夜の終夜レストランなんかで便宜的に充たされるべきではない特殊な飢餓だと感じられた。僕らは結婚してまだ二週間で、お互いの食生活の共同認識が無い。

妻はかつて経験のしたことの無いこの空腹感は、僕との結婚が原因ではないかと思っている。僕が「この気持ちは10年前のパン屋襲撃のときと同じだ」と話すと、妻が何のことかと訊ねるので、僕はパン屋襲撃の話をする。ここで一作目の「パン屋襲撃」の話が妻に語られます。

それは貧乏な青春時代に相棒と二人でパン屋を刃物で襲った話です。そのときクラシック音楽が好きな店主は僕らにある条件を提示します。その条件とは「ワグナーを聞いてくれたら、好きなだけパンを差し上げる」というのです。

僕らはその提案に従いワグナーを聞き、好きなだけパンを食べる。結局、僕らは「襲撃ではなく、交換を行うことで、うまくいった」と思っていた。けれどもずっと “ ワグナーとパンの相関 ” について悩み続けていて、<ワグナーのプロパガンダができたこと>の引き換えに<腹いっぱいパンを食べることができた>ことに重大な間違いが存在していると僕らは感じた。そしてその誤謬が解明されず僕と相棒の生活に暗い影を落とした。そんな昔話でした。

妻は「この空腹感はきっとその時の呪いがかかった状態のままだからだ」と言います。そして妻は、結婚生活にも「その呪いの状態を感じている」と言い、今すぐ二人で力を合わせこの呪いを解くべきだといいます。

そして、呪いを解くためには、パン屋を再襲撃しなければならないというのです。

深夜の街を探しますが結局、パン屋はみつかりません。妻はマクドナルドを見つけます。僕は、「マクドナルドはパン屋じゃない」と言いましたが、結局、妻と僕は、そこを襲撃することにしました。

散弾銃で店員を脅し「金は要らない、ビッグマック30個」と要求します。

「灯かりを消しシャッターを閉めろ」との指示に、店員は、「そんなことを勝手にやれば、本部に叱られて罰則となる」と応え、「また30個を無料で渡すとレジ会計が面倒臭くなるから、お金を渡す」と言います。それでも脅して、何とか30個を袋に詰めて持ち帰ります。

店員が「ビッグマックを30個食べて、それが何の役に立つの?」と聞くので、「悪いと思うけれど、パン屋が開いていなかったのよ」と妻が説明します。そして、我々は心ゆくまでハンバーガーを食べました、僕は6個、妻は4個。

こんなことをする必要があったのだろうか?」と訊ねる僕に、「もちろんよ」と彼女は答えます。そして、妻は眠りにつきました。

一人きりになってしまうと、僕はボートから身を乗り出して海の底を覗きこんで見たが、そこにはもう海底火山の姿は見えませんでした。

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