村上春樹『ねじまき鳥クロニクル』あらすじ|時空を繋ぐ、人間の邪悪との闘い。

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概要>『ねじまき鳥クロニクル』は三部構成となっている。猫が消え、何の前触れもなく突然、失踪し行方不明になってしまった妻のクミコを、主人公である夫の岡田亨(僕)が探し続け、様々な人々と出会い、そこに隠された謎を解き明かしながら、悪の根源の綿谷ノボルと闘う物語。

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登場人物

僕(岡田亨/オカダトオル)
30歳。現在は無職、以前は法律事務所で事務員として働く。世田谷に住み妻と猫がいる。
クミコ(岡田久美子)
僕の妻。旧姓は綿谷で編集事務所で働く。孤独な幼少時代だったが結婚して幸せになれた。
綿谷ノボル(綿谷昇)
クミコの兄。東京大学卒の優秀なエリートで、叔父の地盤を引き継ぎ政界に進出を図る。
笠原メイ
僕の近所に住む16歳の女子高校生。バイク事故で学校を休んでおり、裏の空地を観察する。
電話の女
「僕」に電話をかけてくる謎の女性。僕の行動を熟知しており、性的な挑発を続ける。

クミコが大切にする猫で、二人の結婚生活の象徴的な存在だったが突然、消えてしまう。
加納マルタ
水を媒介とする占い師。マルタ島で修行をして、水の組成が人間の存在を支配すると考える。
加納クレタ(加納節子)
マルタの妹。60年代の髪型をする。完璧ではないが姉と同じような資質を持つ。
本田さん(本田伍長)
綿谷家が高く評価する戦争経験のある神がかりな霊能者、彼の後押しで僕とクミコは結婚する。
間宮中尉(間宮徳太郎)
戦地で本田さんと会い、予言通り生還する。本田さんの死後、形見分けを代行し僕と知り合う。
赤坂ナツメグ
満州国新京育ち。満州を脱出し終戦を迎える。ファッションデザイナーとして有名になる。
赤坂シナモン
ナツメグの息子。六歳の時に声を失う。顔の表情と手話でコミュニケーションを完璧にする。
牛河
綿谷家の議員秘書のひとり。裏のいかがわしい仕事を専門とし、綿谷ノボルと僕を繋ぐ。
※ブログ文中の部と章の表記は、新潮社<ねじまき鳥クロニクル>から

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あらすじ(ネタバレあり)

法律事務所を辞めて失業保険を得ながら主夫生活を送る岡田亨(オカダトオル/僕)と雑誌編集事務所に勤める妻のクミコ(岡田久美子/旧姓は綿谷)は、平穏な生活から、ふいと猫がいなくなって一週間が経つ。それからある日、突然、妻が失踪してしまう。結婚までのいきさつや、お互いの信頼感を積み上げた結婚生活だったが脆くも崩れたことに僕は強いショックを受ける。と同時に、僕はこれまで相手のことを一体、どのくらい知っていたのだろうという気持ちになる。

この失踪には実兄の綿谷ノボルが深くかかわり、その鍵を握っているようだ。トオルは大嫌いなノボルと向き合うことになる。物語は、失踪したクミコを探すべくトオルが悪の根源である綿谷ノボルと繰り広げる闘いの展開となる。トオル、クミコ、ノボルが主要な三人の登場人物である。

そして村上文学のテーマである心の表層と深層の<こちら側>と<あちら側>で、迷路を彷徨い往還しながら、真実に辿りついていく。

その異界との交信場所として<井戸>がある。現在と過去がパラレルに展開しノモンハン事件を中心とする日本と満州、蒙古とソ連の国境戦争と繋がり、その時代の記憶とも交差していく。

閉ざされた空地にぽつんと佇む<涸れた井戸>が象徴的で、この<井戸の底>で沈思し<壁抜け>で現実と異界を往来して、失踪した妻のクミコの謎を解きながら探し出していく。

異界への案内役として水の組成が人間を支配すると考える「加納マルタ」や満州国新京育ちで父の記憶と繋がる「ナツメグ」、さらに過去から現在に連なる証人としての「本田さん」などが霊能者として登場する。

また主要な三人の登場人物の投影や分身として数人が描かれる。妻は多重人格障害の精神疾患を血筋から有しており、「謎の電話の女」でもある。この女はクミコとは明らかに異なる声で性的な挑発を行い、決して姿を見せない分身の役割をしている。さらにマルタの妹の「加納クレタ」もクミコの分身としての位置づけである。クミコもクレタも「綿谷ノボル」に汚されることで邪悪な闇の部分を露わに晒される。クレタはクミコの影として、トオルを異界から脱出させクレタ島にいくことを提案する。綿谷ノボルの分身は、札幌で会い新宿で再会した「黒いギターケースを持った男」である。この男の記憶は、戦時中に捕虜を「バットで一撃し殺した男」でもある。同時にまた、208号へ案内する「顔のない男」は、主人公の僕(トオル)の影でもある。

整理すると、主要な三人の人物、トオル、クミコ、綿谷ノボル。その投影として、電話の女、加納クレタ、黒いギターの男。顔のない男。さらに異界への案内役が、加納マルタ、ナツメグ、本田さんとなる。

過去の記憶には、悲惨で残虐なノモンハン事件を鮮烈に描く。皮剥ぎボリスの悪の系譜を引き継いだものとして綿谷家があり、現在に繋がる系譜として根本の邪悪の象徴として、長男の綿谷ノボルに受け継がれる。優秀だが一貫した考えを持たず、マス・メディアを通して世論誘導のカメレオン型の為政者として描かれている。

物語を俯瞰的に伝える人々として、歴史の口承人として本田さんの戦友の間宮中尉(間宮徳太郎)は、過去から現在という時間の流れの目撃者であり証人である。ナツメグの息子のシナモンは、言葉を発しないがコンピューターに正確なねじまき鳥のクロニクルをデータにして保存していく。クミコの最後の手紙はシナモンの作品#17となっている。さらに思春期のただなかにあり死への好奇心を強く抱く不登校の十六歳の少女、笠原メイは彼女の生を確かめながら、同時にトオル(僕)の唯一の味方で意味深な啓示を与える相手となっている。その笠原メイに、僕は静かなこの世界のためにねじを巻く「ねじまき鳥」と名乗っている。

この複雑な構成のなかで、歴史の記憶と連続性のなかに現在を置き、主人公のトオル(僕)は、人間に潜む残虐性や血筋からの人格の異常性がもたらす精神の交錯など、人間の生は死の傍にあり善悪の場所も不正確で脆く危ういことを伝えながらも、綿谷ノボル的な悪の系譜を全力で退けて、人々が平穏な日々を送るために闘うことの尊さを問いかけている。

そして、静かで生命に満ちた世界を維持し続けるために、姿は見えないけれど、いつもどこかで、ねじを巻き続ける「ねじまき鳥」たちの存在の大切さを問いかける。