太宰治『お伽草紙/舌切り雀』あらすじ|あれには、苦労をかけました。

主題を解説!

舌切り雀は、苦労のかけどおしの女房のおかげで宰相までなった話。

舌切り雀のお話は、かなり絵本の世界を飛びだしています。

寧ろ太宰の作家生活をお爺さんにみたて、妻をお婆さんにみたて、小雀を、ふらり酒場へ足を向ける度に出会う女性たちを思わせ、自身の作家人生にみたてているようです。

突然、小雀が二尺のお人形に変わり、舌を切られて歌えず寝たままのお照さんと、親友のお鈴さん。お鈴さんが酒肴をもち、ひと口のお酒とひとくちの筍を食べ、土産に葛籠ではなくお照さんの簪を稲穂に変えて持ち帰り、それに嫉妬したお婆さんが欲をかいて雀の宿を訪れ大きな葛籠を持ち帰ります。

ところが、重すぎて倒れて凍死、そして葛籠の中には燦然たる金貨があり、そのお金で士官になり宰相までになり、往年の雀に対する愛情の結実と世間に言われると女房のおかげです、ほんとうに、あれには苦労をかけましたという話。

4つのお話の中では最も絵本とかけ離れるようですが、冒頭に桃太郎のような日本一どころか、日本で最低の男との前置きをして、この心情を書き上げてしまう太宰のユーモアかおもしろい。

防空壕で子供に絵本を読み聞かせながら書かれた新説、お伽噺。

冒頭の前書きに、

物語を創作するというまことに奇異なる術を体得しているのだ。
ムカシ ムカシノオ話ヨなどと、間の抜けたような妙な声で絵本を読んでやりながらも、その胸中には、またおのづから別個の物語が醞醸せられているのである。

当時、日本の敗戦は色濃く、容赦なく傷痍爆弾が落とされ、日本人は安全を求めて逃げ惑っていました。太宰は、この「お伽草子」を防空壕の中で、子どもたちを守りながら原稿を握りしめていました。

生命の危険に晒されながらも、子どもたちには絵本を読み聞かせ、胸中では太宰流に、日本古来の昔話に新解釈を加えている。

それは、戦争という極限の有事の中にあってもひるむことなく、大人たちへ向けての風刺に満ちた創作活動を続ける太宰の気概でもありました。

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作品の背景

太宰晩年の作品にあたります。昭和20年3月に「前書き」と「瘤取り」の執筆にかかりますが、東京大空襲となります。その後、甲府市の妻の実家へ疎開を決断し、5月から「浦島さん」「カチカチ山」、6月から「舌切り雀」が書かれます。7月7日未明、ついに疎開先も焼夷弾攻撃をうけ、妻の実家も全焼。知人宅に身を寄せ、28日、妻子をつれて東京を経由して津軽に向かいます。31日、津軽金木町の太宰の生家に着きます。『お伽草紙』の巻頭にも記されている通り、太宰はこの話を防空壕の中で子どもをあやしながら書き上げていきます。

発表時期

1945(昭和20)年10月、筑摩書房から刊行。短編小説集として「瘤取り」「浦島さん」「カチカチ山」「舌切り雀」の4編を収める。太宰治は、36歳。まさに戦火が熾烈を極めるなかでの創作活動です。空襲が激しくなり、物資の欠乏から作品発表の場が制約されていく中、これほどの創作活動を展開した文学者は文壇にはいませんでした。