太宰治『斜陽』あらすじ|恋と革命に生きる、新しい女性の姿。

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「戦闘開始!人間は、恋と革命のために生まれてきたのだ」裕福な家系に生まれ戦後の没落する貴族階級のなか、母の死を見とどけ、かず子の道徳革命が始まります。変化する社会の中、シングルマザーとして逞しく生きる決意をする女性の生き方を描きます。

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登場人物

かず子
離婚、死産を経て、母と暮らしながら新しい価値に目覚める主人公。

かず子の母親
夫を亡くし母子三人。古き良き華族の時代を生きた最後の貴婦人。

直治
かず子の弟。戦地から帰還するが、麻薬中毒で精神を病んでいる。

上原二郎
直治の尊敬する妻子持ちで、東京で暮らすデカダンな小説家。

和田の叔父様
かず子の母親の弟、かず子の一家のお世話をしてくれている。

あらすじ

貴族の母と私は、落ちぶれることに耐え伊豆への引っ越す。

母はとても優雅で、その所作こそはほんものの貴族でした。かず子から見ても、これ以上の上品さはなく可愛らしく微笑ましいものでした。

しかし、その暮らしは戦争の終結とともに変わってしまいます。

父を亡くし和田の叔父様に世話を受けていましたが、経済的にも行き詰まってしまい、母子は伊豆の山荘で静かな暮らしを送ることを決断します。

かず子と弟直治のために、母は贅沢な暮らしを続け、お金は底をついてしまいます。

母はこのまま東京で死にたい気持ちですが、かず子と戦地から帰ってくると信じている弟の直治のために、落ちぶれても皆で一緒に生きることを決意します。

かず子はお金が無くなることは、なんと恐ろしくみじめで救いのない地獄かと思うのです。

母の衰弱を心配しながら、かず子には逞しい感覚が芽生え始める。

昨年末に伊豆に来て、空気がよく海が見え花の綺麗な山荘で暮らしを始めます。

母の体は良くありませんが、小康状態のなか四月を迎えます。母娘の二人は蘇ったような暮らしぶりですが、かず子は “この山荘の安穏はいつわりで、見せかけに過ぎない” と思っています。

母は幸福を装いながらも日々に衰え、かず子の胸には、まむしがやどり、だんだんと太っていきます。

かず子はある日、薪の不始末から風呂場で火を出してしまいます。

近隣の助けもあり何とか大事に至らずに済みます。周囲は同情をしてくれますが、前の家だけは “あんたたちのままごとあそびのような暮らしをはらはらしてみていた”と苦情を言われてしまいます。

かず子はこれを機に、戦時中に駆り出されたヨイトマケの経験もあり逞しくなっていきます。

胸に住む意地悪のまむしに加えて、赤黒い血となり、野性の田舎者になっていく気分になります。

直治は深い悩みを持つが、かず子は一人で生きることを決意する。

“蛇の卵を焼いた” ことと “この火事” のこと以来、日に日に弱っていく母と粗野で下品な女になっていくかず子は対照的です。

あるとき母は、直治は生きていて阿片中毒になっていることをかず子に告げます。

そしてついに和田の叔父様の援助も限界になり、この機にかず子にお嫁入り先を捜すか、宮様への奉公に出ることを薦めます。かず子は母を思い寄り添ってきたのに、弟の帰還で自分が邪魔者扱いされることに納得できず、“ひめごと” があると告げて家を出ていこうとします。

お金が無い苦労、直治の静養、かず子の気持ちを思い悩み、母は和田の叔父様の意見に背き、持ち物を質に入れてお金に換え、ぜいたくを続けながら親子三人で暮らしていくことを決意します。

南方から直治が帰ってきますが、さっそく文学の師匠の上原へ会いに東京に出ていきます。直治は上原二郎のもとで麻薬を続け、荒れ果てた生活を送ります。

ある時、かず子は直治が麻薬中毒のことを綴った「夕顔日記」をみつけます。 そこには、切々と直治の苦悩が記されていました。

“学問とは、虚栄の別名であり、人間が人間でなくなろうとする努力である”

“自分は、人から尊敬されようとは思わぬ人たちと遊びたい” などと綴ってありました。

六年前のかず子の離婚の原因と、かず子が持つ上原との「ひめごと」。

麻薬を止めるために、貯まった薬屋の借金返済を無心する直治に、山木の家に嫁いで間もないころのかず子は気づかれぬように自分の持ちものを質に入れ金に換え、直治に渡していました。

直治の依頼で、かず子は小説家の上原宛にお金を届けさせていましたが、一向に直治の中毒癖は治らず、かず子は自ら上原を訪ねてみます。

突然の訪問に、上原は仕方なくかず子を飲み屋に連れ出し酒をすすめ、かず子と語らいます。

帰り際、店を出る階段で、かず子は上原にキスをされます。

かず子は上原を好きではなかったが、不思議に透明な気分で「ひめごと」ができてしまいます。

そして嫁ぎ先の山木では、気まずい会話の時に “私には恋人がいるの” と、当時、憧れていた画家の細田のことを冗談で口走ったことで誤解され、お腹の子どもまで疑われてしまいます。

それが原因で実家に戻り、やがて離縁されお腹の子どもも死産してしまうのでした。

上原に宛てた三通の手紙に、かず子の相談と心情が吐露される。

その「ひめごと」から、かず子は上原に手紙を送ることを決心します。

一通目の手紙では、

これまでの「女大学」の観点からは、ずるくてけがらわしいでしょうが、今のままで終わりたくない。私の生きる道は、あなたの愛人として暮らすことだと思っている。

六年前のこと以来、私の胸にあざやかな色彩の虹となっている。

あなたの気持ちをお聞かせください。と綴られ、

二通目の手紙では、

生活を助けてほしい、お金が欲しいだけではない。そんな対象だけなら他にもたくさん相手はいる。

私はあなたの赤ちゃんが欲しい。そして妾になって生きていきたいのだ。

好きなのか、嫌いなのか、何ともないのか、そのことをはっきりしてほしい。と綴られ、

三通目の手紙では、

芸術家は好きだが、偉そうぶった人格者は嫌い。

私は札つきの不良が好き、そして自分も札つきの不良になりたい。

世間があなたを攻撃しているから、ますます私はあなたを好きになりました。

私の胸の虹は炎の橋です。港の外は嵐でも帆をあげたいのです。

はばむ道徳を押しのけられませんか。と綴られていました。

最期の貴族として死んだ母と、恋と道徳の革命家を目指すかず子。

しかし、ついに手紙の返事は来ませんでした。

上京して直接、話をしようと思ったときに、母の病状が悪化します、それは肺結核でした。

容態が悪くなる母を悲しみ、同時に、直治の書棚から社会革命の本に興味を持ちはじめます。

そこには「破壊は、哀れで悲しく、そして美しいものだ」と書かれていました。

かず子は、“人間は恋と革命のために生まれてきたのだ”と確信します。

やがて母が亡くなります。その顔はピエタのマリアに似た顔つきでした。母は最期の貴族として、時代を生きたのでした。

戦闘開始! 新しい倫理のため、かず子は上原と結ばれ胸がときめく。

母の密葬と本葬をすまし、上原に会いに行きますが、妻子のみが在宅でした。やがて奥様と子どもは、私を憎むことになると思いながらも、上原の居場所を伺い会いに行きます。

良い奥さんで、綺麗なお嬢さんだが、私は上原が本当に好きなのだから仕方がないと思います。

神の審判の台に立たされても、やましいとは思わないかず子でした。

六年ぶりの上原は違う人になっていました。一匹の老猿が背中を丸くして座っている感じでした。貴族は嫌いだと言う上原ですが “しくじった。惚れちゃった”と言って笑います。

そして “行くところまで行くか”とかず子に言います。

二人は結ばれ、かず子は上原が喀血かっけつしていることを知りました。

上原は何もかもつまらない世を憂い、死ぬ気で飲んでいると言います。明け方に、かず子のそばで眠る上原の顔を眺めると死ぬ人のような顔をしていました。

この世にまたと無い美しい顔に思われ、恋が新たによみがえり胸がときめきました。

直治は自殺しかず子は子を宿し、恋に成就し未来に誓う。

直治はその朝に自殺します、遺書に残された直治のほんとうの思い。それは、なぜ生きていかなければならないかがわからない、 死ぬ権利もあると思うというものでした。

下品になりたくて麻薬や阿片もやり半狂乱にもなってみた。家を忘れ、父に反抗し、母の優しさを拒否し、姉に冷たくしなければ民衆の仲間になれないと思った。でも結局は半分しかなれなかった。

人間はみな平等だと言うのは、ほんとうなのだろうか。

悩み戦い苦しんだ直治の結論は、貴族として死ぬ道を選ぶことでした。

かず子は望みどおりに、上原の赤ちゃんができたことを幸せに思います。

マリヤが夫の子でない子を産んでも、輝く誇りがあれば聖母子になる。

あなたも私も道徳の過渡期の犠牲者だから、あなたはデカダンな悪徳生活を続けてほしいと願い、恋しい人の子を産み育てることが、私の道徳革命だと高らかに宣言します。

私の胸に革命の虹を、生きる目標を、与えてくれたあなたを誇りにしている。

恋の冒険に成就し未来に誓います。古い道徳と戦い、太陽のように生きようと考えるのでした。

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