サン=テグジュペリ『星の王子さま』あらすじ|大切なものは、目には見えないんだ。

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解説

旅に出た王子さまが見聞したものは、どれも変なもの。

王子さまは、自分より少し大きいくらいの小さな星に住んでいます。ある日、どこからかやってきた種子を育てます。やがて一輪の大きなバラになり、王子さまはその美しく眩しいどこにも咲いていない花を大切にします。

ところがバラは気むずかしい見栄っぱりで、やれ朝食はまだかとか、トラが恐いとか、寒いので覆いを作ってほしいとか、我儘ばかり。そんなバラと喧嘩をして、見聞を広げるために旅に出ます。王子さまはあまりに小さかったからバラを愛するということが分かりません。

そして6つの小さな惑星をめぐります。

そこは、力を誇示して威張る人、うぬぼれ屋さん、飲んだくれの怠けもの、お金に貪欲な人、時間に忙殺される人、頭でっかちな人。出会った人たちは、それぞれに権力、人気、快楽、財産、労働、研究と皆、自分の姿を正当化するけれど、王子さまから見たらどれも変でつまらない生き方だと思います。

そしてそれを大きくしたような地球に着きます。

どの小惑星も、王子さまには理解ができない大人の生き方の象徴ですが、その小惑星のひとつひとつが、とてつもなく大きくなったのが地球です。その地球には、6つの小惑星のような人々がたくさんいるところでした。

目の前にあるものではない、ほんとうに大切なものを探す。

王子さまが、何より落胆し心が傷ついたのはバラの庭でした。自分の星で愛した一輪のバラは、宇宙にたったひとつしかないと思っていたのに、庭に5,000本ものバラがあったのです。たったひとつと思っていたものが、実はありきたりのどこにでもあるバラを1本持っていただけという不幸な気持ちになったのです。

小さな王子さまは、賢者のキツネと会います。そして「なつく」ということ。つまり時間をかけてお互いを知り、絆を結びあうことの大切さと素晴らしさを知ります。

一緒に過ごした時間の大切さを胸に、もう一度、バラ園に戻ってみると5,000本のバラは、ただそれだけで、王子さまの愛した一輪のバラとは全くに違うことを知ります。

それは、王子さまがバラに水をやり、虫をとり、我儘をしながらすきま風をしのぐ覆いをかぶせてあげるという絆づくりの時間のかけがえのなさを知ります。

キツネは、王子さまと「なつく」ことを求めますが、王子さまは行かなくてはなりません。王子さまは、少ししか仲良くできなかったことを申し訳なくキツネに言いますが、キツネは喜んでいます。

キツネは、それまでは麦畑を何の意識もなく見ていたけれど、王子さまと出会ったことで、これからは小麦色の麦畑は王子さまの金髪を思い出し、ひいては、王子さまと過ごした時間を思い出すという幸せをもらったことを喜びます。

気難しくて我儘で弱いバラだからこそ、きちんと向き合うということ。

小さな星に残したバラとの時間を育むことの大切さに気づいた王子さまは、約束された1年後に不思議な井戸の水で祝福し、最初に出会ったヘビに咬んでもらい星に戻ります。

ヘビに咬まれることは死を意味しますが、死よりも永遠の時の大切さを王子さまは飛行士に話します。

祝福の水の御礼に、星に帰る王子さまは小さくてどの星なのか分からない星から飛行士に微笑むといいます。夜空を見上げると笑う星を、王子さまは飛行士に贈り物にします。

小さな星の王子さまは、人生の見聞を探しにやって来て、そして貴重なことを学んで星に帰ります。

そして王子さまと仲良くなった飛行士に、かけがえのない時を過ごしたお礼をします。

星は大切な輝きを持ちます。旅する人に、学者に、実業家に。そして飛行士にとっての星は、王子さまとの出会いを思い浮かべながら微笑む対象となりました。

王子さまの欲しがったヒツジに口輪を描いた絵を渡しましたが、飛行士はうっかりして、ヒツジをつなぐ皮ひもの絵を忘れました。ヒツジが花を食べはしないかと心配する飛行士ですが、それでも、それだからこそ、もっと星を見上げるとどうしているのかなと王子さまを思えると納得します。そしてきっと王子さまはうまくやっていると想像できます。

大切なものを感じるには、こころで見なければならない。

サン=テグジュペリの『星の王子さま』。それは小さな子供たちの想像力。あるいは子供を持つ親、そして見守る社会が受け入れる心の有り様かもしれません。

恋人たちの過ごす少し不器用な時間や、夫婦として流れる幾久しい年月の成熟かもしれません。もっと大きくいえば民族や国家間との永い歴史にも広げて喩えることができるかもしれません。

時間をかけて根気よく語りかけて話し理解しあうこと。そしてある時は、相手の我儘にも耳を傾けて、傷つけられそうな言葉にも時には気にしすぎないこと。

言葉でなく目の前に見えるものでもなく、ほんとうに大切なものは、心で探さなければならないことが分かる。

人間はもう取り返しのつかないところまできているとキツネは言います。

多分、飛行士が幼いころにボアの絵を描いて、大人から分かってもらえなかったように、この『星の王子さま』の物語のことを話すと、大人たちはそんなことより、お金を稼ぐことや、出世をすることや、損をしない生き方を優先することを薦めるでしょう。

どうしようもない現実がそこにあるのかもしれません。だからキツネは人間を諦めています。

でも大人ではない子どもの心、大切なものは心で見なければならないことを教えることで、きっと、大人たちも心で見ることを忘れなくなるでしょう。

世界中で愛され、読み返され、読み継がれる理由がここにあります。

作品の背景

「いちばんたいせつなことは、目に見えない」 アントワーヌ・ド・サン=テグジュペリは、作家としてだけでなく飛行士としても生きた人です。1900年、リヨンでフランスの由緒正しい貴族の長男として生まれます。金髪のアントワーヌは「太陽王」として可愛がられます。金髪の王子さまは彼の分身です。

20歳を過ぎ、憧れて婚約したが破談となった自由奔放な女性ルイーズ、そして25歳の時、大空が大好きだった彼は紆余曲折を経て郵便輸送の路線パイロットになります。モロッコ南西部にあるジュビーの飛行場長時代には砂漠に囲まれた場所で周辺の遊牧民と交渉を重ねていたころ耳の長いキツネを飼っていたとのこと。そして飛行場長の任を終えて29歳の時に南米ブエノスアイレスに現地法人の支配人として赴任します。

ここで黒い髪、黒い瞳の運命のスペイン系女性コンスエロと出会い翌年、反対を押し切って結婚。喘息のため隙間風を嫌がり気難しくて見栄っぱりだが、おしゃれで芸術家肌の女性。その後、会社を離れフリーとなり35歳の時に、飛行中にリビア砂漠に不時着、生死の間を彷徨います。

39歳の時に第2次世界大戦がはじまり偵察飛行隊に入ります。除隊後、出版社からアメリカに招かれ子供向けの本の依頼を受けて書いたのが本書 “Le Petit Prince”。彼の人生の経験や、さまざまな出会いが、バラやキツネや飛行操縦士として登場します。

その後、連合軍の所属部隊に復帰。そして勇敢な飛行士は、44歳の時に大戦の空に消息を絶ちます。大地は万巻の書より多くを教える、自分を確立するため真実や本質を見抜かなければならない。そのために人と心を通じ思慮を巡らす必要がある。目に見えるものではなく自ら行動することが大切であることを自ら示した人生でした。

発表時期

本作品は、1943年4月にニューヨークの「レイナル&ヒッチコック社」から英語版 (『The Little Prince』) で出版された。フランス本国では没後の1945年11月に「ガリマール社」から出版。世界300以上の国と地域で翻訳出版され、総販売部数1億5000万部以上。発表の時期は、まさに世界が二度目の大戦で総力戦の中にありファシズムやコミュニズムが人間の感情や人生を寸断し殺し合い虐待するという悲劇の運命に翻弄された時代でもありました。