宮沢賢治『銀河鉄道の夜』あらすじ|ほんとうの幸いのために、生きて死ぬ。

スポンサーリンク

概要>ジョバンニは、母の病気の看病と遠洋に出ている父を待ちバイトで貧しい生活を支える。遊びや勉強の時間もない孤独な日々。そんなとき丘の上から銀河鉄道の旅に出る。親友のカンパネラと旅で知り会う人々と「ほんとうの幸い」とは何かを知る。

スポンサーリンク

登場人物

ジョバンニ
母は体が弱く、朝と午后のバイトで生活を支えている、空想好きでカムパネルラは親友。
カムパネルラ
ジョバンニとは、幼馴染の親友で父親同士も友達、裕福な家庭に育っている。
ザネリ
ジョバンニとカンパネルラたちの同級生で、クラスのいじめっ子。
先生
ジョバンニたちの学校の先生で、銀河のお祭りの日に天の川の授業をする。
ジョバンニの母親
病気のため家で臥していて、ジョバンニのバイト生活の理由になっている。
大学士(学者)
学説を証明するために、牛の祖先であるボスの化石を発掘している。
鳥捕り
銀河鉄道の乗客で、鳥を捕まえて押し葉にして売る商売をしている。
燈台看守(燈台守)
銀河鉄道の乗客で、灯台の灯りを規則通りに点滅させる仕事をしている。
女の子(かおる子)、男の子(タダシ)、青年
姉弟と家庭教師で、タイタニックの座礁事故のあと銀河鉄道に乗ってきた。
マルソ
鳥瓜を川に流しに行く仲間で、カンパネルラのことをジョバンニに伝える。
カムパネルラの父(博士)
父親で博士、カムパネルラを通じジョバンニ親子とは古くからの知り会い。

銀河鉄道の夜 DVD プラネタリウム版
Amazon.co.jp: 銀河鉄道の夜 DVD プラネタリウム版: 桑島法子, KAGAYA, KAGAYA, 桑島法子: DVD

あらすじ(ネタバレあり)

一.午后の授業

「ではみなさんは、川だといわれたり、乳の流れた跡だといわれたりするこのぼんやりと白いものが何かご承知ですか」先生が、天の川について生徒に問いかけます。

ジョバンニは、手を上げようとしますがやめました。あれが全部、星だといつか雑誌で読んだのですが、このごろは毎日が眠く、本を読む暇も読む本も無いので、なんだかどんなこともよくわからない気持がしています。

先生から「ジョバンニさん、わかっているでしょ」と云われ、ジョバンニは立ち上がるのですが、はっきりと答えることができません。「銀河はいったい何でしょう」と先生が云い、ジョバンニは、やっぱり星だと思いましたが答えることができませんでした。

ザネリが、ジョバンニを見てクスッと笑いました。

先生は、「では、カンパネルラさん」と云うと、あんなに元気に手を挙げていたカンパネルラも立ったまま、もじもじして答えません。

しかたなく先生は、星図を差しながら「天の川は、この白い銀河でたくさんの小さな星なのです」と説明をします。

ジョバンニは、目にいっぱいに涙を浮かべながら、自分は知っていたこと。そしてカンパネルラもお父さんのうちで一緒に読んだ雑誌で知っていたこと。それなのに、近頃、ぼくが朝にも午后にも仕事が辛く、学校でもみんなとも遊ばず、カンパネルラともあまり話をしなくなっているのを気の毒がって、わざと答えなかったのです。

そう考えると自分もカンパネルラも憐れなような気がしました。

先生は「今日は、銀河のお祭りだからよく空をごらんなさい」と云って授業を終えます。

二.活版所

放課後になってカンパネルラと仲間たちは、今夜の星祭に川に流す烏瓜からすうりを取りに行く相談をしています。歩いていると、家々では星祭の飾りつけをしていました。

ジョバンニは、午后は活版所で活字拾いのアルバイトをしています。小さなピンセットで粟粒くらいの小さな活字を目を拭いながら拾います。仕事場の人たちに「虫めがね君」とからかわれますが、仕事を終わると、小さな銀貨をひとつ貰えます。

するとジョバンニは、その銀貨でパン屋に寄ってパンの塊を一つと角砂糖を一袋買って一目散に家に急ぎます。

三.家

「お母さん、いま帰ったよ。具合悪くなかったの」ジョバンニの母親は、体が弱く寝ています。「お母さん。今日は角砂糖を買ってきたよ。牛乳に入れてあげようと思って」と云いながら、病気の具合や、さっき来た姉さんのこと、お父さんのことなどを話します。

父親は、北方に漁に出ていると思っているジョバンニですが、密漁で監獄に入っているという噂を聞き、ジョバンニは、朗らかに父親が漁で学校に寄贈した蟹の標本のことなどを話し自慢します。皆は、父さんはラッコの密漁をしていると冷やかすけれど、カンパネルラはそんなことは言わないし、そんな時は、ぼくを気の毒そうに見ていることを話します。

ジョバンニとカンパネルラの父親同士も友達で、ジョバンニは昔、カンパネルラの家でアルコールランプで走る汽車で遊んだことや、近頃は、朝、新聞配達に行き早いから会えないこと、飼っているザウエルという犬がどこまでもついてくることなどを話します。

そしてまだ来ていない牛乳を取りに行くついでに銀河のお祭りを見てくると言って家を出て行きました。

四.ケンタウル祭の夜

町の坂を下りていくとザネリと会います。「ジョバンニ、お父さんから、らっこの上着が来るよ。」と云われ、ジョバンニは胸が冷たくなりながら、すっかり飾られた街を通っていきました。

ジョバンニは時計屋の店先に飾ってある“ 星座早見表 ”を見つけます。それは、日と時間を合わせて盤を回すと、その時の空が現れるようになっていて、真ん中には、上から下へ銀河がぼうっと煙ったような帯になっています。

後ろには三脚の望遠鏡があり、壁には星座をふしぎな獣や蛇や魚や瓶の形にした図がかかっていました。ジョバンニは、こんな中をどこまでも歩いてみたいと思いました。

ジョバンニは、牛乳のことを思い出し、牛乳屋のほうへ急ぎます。通りでは子供たちは星めぐりの口笛を吹いたり「ケンタウルス、露をふらせ」と叫んで走っていました。子供たちのはしゃぐ声を聞きながら牧場の牛乳屋で「今日、牛乳が来てなかったので貰いに上がったのです」と言うと、出てきた老婆から「いま誰もいないので」と言われ、ジョバンニは、もう少しして行くことにしました。

町の角を曲がろうとしたら、烏瓜からすうり燈火とうかをめいめい持った六七人の同級の子供たちと会いました。「川へ行くの」とジョバンニが云おうとしたときに、「ジョバンニ、ラッコの上着が来るよ」とザネリがまた叫び、声をあわせて皆も続けて叫びました。ジョバンニは、まっ赤になり行き過ぎようとしたところに、カンパネルラが気の毒そうに見ていました。

ジョバンニは、何とも云えず寂しくなって黒い丘のほうへ急ぎました。

五.天気輪の柱

ジョバンニは、どんどん上っていきました。

草や藪のしげみの中には、ぴかぴか青光りをだす虫もいて、烏瓜の灯りのようでした。真っ黒な林を越えると天の川が南から北へわたっているのが見え、天気輪てんきりんの柱も見えました。ジョバンニは体を草の上に投げ出します。

町の灯りは海の底のように、子供たちの歌声や口笛もかすかに聞こえてきます。遠くに汽車の音が聞こえ、列車の窓が一列に小さく赤く見えそこに旅人がいると思うと何ともいえず悲しくなってきます。

空を見ると、先生は天の川は小さな星というのですが、ジョバンニには、見れば見るほどに林や牧場や野原のように考えられます。ジョバンニはひとり寂しく孤独を感じます。

六.銀河ステーション

すると天気輪の柱が、三角標さんかくひょうの形になってしばらく消えたり灯ったりしていましたが、はっきりして青い剛のように野原に立ちました。そして、どこかで不思議な「銀河ステーション」「銀河ステーション」という声がして、目の前がぱっと明るくなりました。

気がついてみるとジョバンニは小さな列車に乗って走り続けているのでした。ジョバンニは、窓から外を見ながら座っていたのです。すぐ目の前にカンパネルラがいました。

ジョバンニが「カンパネルラ、きみは前からここに居たの」と云おうとしたときに、

カンパネルラは「みんなはずいぶん走ったけれど遅れてしまったよ」と言い、ジョバンニが「どこかで待っていようか。」と云うと、カンパネルラは「ザネリはもう帰ったよ。お父さんが迎えにきたんだ」と少し顔色を青ざめて苦しそうでした。

カンパネルラは、それから窓から外をのぞきながら元気になりました。次は白鳥の停車場だといいます。そして地図を回しながら、天の川の左の岸にそって鉄道線路が南へ南へ行きます。

河の遠くを白鳥が飛び、青白く光る銀河の岸に、銀色のススキがさらさらとゆられて動いています。野原には、あちこちに燐光りんこうの三角標が美しく立っています。

「ぼくはすっかり天の野原に来た、この汽車、石炭をたいていないねぇ」とジョバンニが云います。すると「アルコールか電気だろう」とカンパネルラが云います。線路のヘリには紫のりんどうの花が咲いていました。

七.北十字とプリオシン海岸

「おっかさんは、ぼくをゆるして下さるだろうか」いきなりカンパネルラが思い切ったように少しどもりながらせき込んで云いました。カンパネルラは、「おっかさんが本当に幸せになることだったら何でもする、けれども、どんなことがおっかさんの一番の幸せなんだろう」と言います。「ぼくはわからない。けれども、誰だって、ほんとうにいいことをしたら、いちばん幸せなんだねぇ。だから、おっかさんは、ぼくをゆるして下さると思う」とカンパネルラは、何か決心しているように見えました。

俄かに車の中が、ぱっと白く明るくなり銀河に一つの島が見え、その頂に白い十字架が立って金色の円光えんこうをいただき、静かに永久に立っていました。

「ハレルヤ、ハレルヤ」車室の中の旅人たちはバイブルを胸にあてたり、水晶の数珠をかけたり、どの人も指を組み合わせ祈っているのでした。島と十字架は後ろに移っていきました。向こうの岸でも、ススキとりんどうの花が見えます。

そして十一時きっかりに白鳥の駅に着きます。二十分停車と書いてあり、「下りよう」と二人はドアを飛び出して改札口にかけていきます。停車場の前から幅の広い道が、まっすぐに銀河の青光の中へ通っていました。そして河原に出ました。

カンパネルラは、きれいな砂をつまみ「この砂は水晶だ。中で小さな火が燃えている」と云います。ジョバンニが水に手を浸すと、銀河の水は透きとおっていました。

川上のほうをみると、白い岩が川に沿って出ていて、そこに五六人の人が何かを掘っているようでした。そっちのほうへ行くと入り口に[プリオシン海岸]という標札があります。

カンパネルラは、黒い細長い先の尖ったくるみの実のようなものを拾いました。

近くにいくとそこでは、大きな青白い獣の骨が掘り出されていました。

大学士のような人が、眼鏡をきらっと光らせて「くるみのようなものがあったろう、ざっと百二十万年くらい前のものだよ、この獣はボスといって、牛の先祖で昔はたくさんいたよ」と云います。それから二人は、来た道を走って帰り、もとの車室の席に戻ります。

八.鳥を捕る人

鳥を捕まえる商売をしている赤ひげの人が乗ってきました。

「何鳥ですか。」と訊ねると、「鶴やがんさぎや白鳥も」と鳥捕りは答えます。さぎは、押し葉にして食べると言います。「おかしいねぇ。」とカンパネルラが首をかしげると、「さあ、ごらんなさい。いまとって来たばかりです。」と言って網棚から包みを下ろして見せます。ジョバンニが「さぎは、おいしいんですか。」と訊ねると、「ええ毎日注文があります。しかしがんのほうがもっと売れます。」そう言って鳥捕りは、がんの足をひっぱってはなします。「どうです、食べてごらんなさい」と言われ二人は食べてみてチョコレートよりも、もっとおいしいと思います。

「こいつは鳥じゃない。ただのお菓子でしょう。」カンパネルラが思い切ってたずねます。

すると鳥捕りは慌てたように「そうそう、ここで降りなきゃ。」と荷物を取ったと思うと見えなくなりました。

そして鳥捕りは、かわらはこぐさの上に立って、じっと空を見ています。すると、さぎが雪が降るようにおりてきて、鳥捕りが片っ端から押さえて布の袋に入れていきます。そうして気づいたら、鳥捕りは、ジョバンニの隣に戻ってきていました。

九.ジョバンニの切符

アルビレオの観測所の近くで、赤い帽子をかぶった車掌が「切符を拝見いたします。」とまっすぐに立って言いました。カンパネルラは、小さな鼠いろの切符を出しました。

ジョバンニは、ポケットを探すと、緑色の四つに折ったハガキくらいの紙があり、それを見せると、車掌は「これは三次空間の方からお持ちになったのですか」と訊ね、「よろしゅうございます、南十字へ着きますのは次の三時になります」と云います。

その緑の紙を見ると、いちめん黒い唐草のような模様の中に、おかしな十字ばかりの文字を印刷していました。鳥捕りはその紙を見て「こいつは大したもんだ。ほんとうの天上へ行ける切符ですぜ、天上どころじゃない、どこへでも行ける通行券です」と云います。

「もうすぐわしの停車場だよ」とカンパネルラが云います。訳もわからず、なぜかジョバンニは鳥捕りのほんとうの幸せのためには自分を犠牲にしてもいいと考えました。すると鳥捕りは、もういなくなっていました。

それからりんごの匂いがしてきて、そこらを見渡すと窓からも入ってきていました。

今は秋だからりんごの匂いはするはずがないと思っていると、そこに、つやつやした黒い髪の六つばかりの男の子が、裸足で立っていました。隣には黒い洋服を着た背の高い青年が男の子の手をしっかり引いています。青年の後ろにはもうひとり一二ばかりの可愛らしい女の子が青年の腕にしがみついていました。

「もうなんにも悲しいことはないです。こんなにいいところを旅して、じき神様のところへ行きます。そこは明るくて匂いがよくて立派な人たちでいっぱいです。私たちの代わりにボートに乗れた人は、きっとみんな助けられて、めいめいの自分の家に行くのです。もうじきですから元気を出しておもしろく歌っていきましょう。」青年は皆を慰めながら、自分も顔が輝いてきました。

灯台看守が「どうなすったのですか?」と訊ねると、「いえ、氷山にぶつかって船が沈みまして、子供たちを助けようとしたのですがボートの数は限られていて、他の小さな子供たちや親たちもいて、それでこのまま神の御前へみんなで行くほうが本当の幸せだと思いました。」と青年が云います。

「どんなつらいことでもそれが正しい道を進む中でのできごとなら、峠の上り下りもみんなほんとうの幸福に近づく一足づつですから」と燈台守が慰めていました。

「ああそうです、いちばんの幸いに至るためのいろいろな悲しみも、みな思し召しです。」と青年は云いました。

「いかがですか、こういうりんごははじめてでしょう」向こうの席の燈台看守が黄金と紅で彩られた大きなりんごを、皆にひとつづつ渡します。

川の向こう岸には大きな林が見え、その枝には熟してまっかに光る円い実がいっぱい、林の真ん中には高い三角標が立ってきれいな音色が流れます。三角標が汽車の正面に来た時、汽車の後ろのほうから讃美歌が聞こえてきます。思わずカンパネルラもジョバンニも一緒に歌いだしました。

真っ暗な島のまん中に高いやぐらが一つ組まれ、その上に赤い帽子をかぶった男が立っていました。そして、両手に赤と青の旗をもって空を見上げて信号をしています。

男の旗に合わせて鳥たちが飛んでいきます。「あの人鳥へ教えているんでしょうか」と女の子がカンパネルラに訊ねます。「わたり鳥へ信号してるんです。」とカンパネルラが答えます。

ジョバンニは、カンパネルラがかほる子と親しそうに話すのを見て「僕はどうしてこんなに悲しいんだろう、もっとこころもちをきれいに大きく持たなければならない。」「ああほんとうにどこまでも僕と一緒に行く人はいないのでろうか」と孤独な泪でいっぱいになります。

川の向こう岸がにわかに明るくなりました。

「あれは何の火だろう。あんな赤く光る火は何を燃やせばできるんだろう」ジョバンニが云いました。「さそりの火だな。」カンパネルラが答えます。「さそりの火って何だい」ジョバンニが聞きます。

女の子は、さそりの火の話をします。

それは「さそりが焼けて死んだのよ。その日がいまでも燃えている」と云います。

「昔、パンドラの野原に一匹のさそりがいて小さな虫を食べて生きていて、そしたらある日、いたちに見つかって食べられそうになって、逃げて井戸に落ちて、井戸から上がれないさそりは溺れ始めて、さそりはこう言って祈ったの、ああ、わたしはいままでいくつもの命をとったかわからない、そしていたちから食べられそうになって逃げてこんなになった。」と云います。

「どうして私のからだをだまっていたちにあげられなかったのだろう、そうすればいたちも一日生きのびただろう、どうか神様、この次はみんなの幸せのために命をお使い下さい」と云って、「真っ赤な美しい火になって夜の闇を照らしている」と父親から聞いた話をします。

「もうじきサザンクロスです、下りる支度をしてください」と青年が云います

少年は「もう少し汽車に乗っていく」と云い、青年は「ここで下りなければいけない」と云います。女の子は立ってそわそわ支度をはじめています。ジョバンニはこらえかねて「僕たちと一緒に乗って行こう。どこまでだって行ける切符を持っているんだ」と云います。

女の子が「ここでおりて、天上に行かなければいけない」と云うと、ジョバンニは「天上よりももっといいところをつくらなければならない」と云います。女の子は、「お母さんもいるし、それに神さまが仰っている」と云います。

「そんな神さまはうその神様だ」とジョバンニが云うと、「あなたの神さまはどんな神さまですか」と青年が聞きます。

ジョバンニは、「よく知らないけれど、そんなのではなくて、ほんとうに一人の神さま」と云います。青年は「わたしは、あなた方がいまそのほんとうの神さまの前に、わたしたちとお会いになることを祈ります」そう言って慎ましく両手を組みました。

そのとき、天の川のずうっと川下にたくさんの光でちりばめられた十字架が、川の中から立って、その上に青白い雲がまるで輪になって後光のようにかかっていました。

汽車の中では、皆、立ってお祈りを始めました。「ハレルヤ、ハレルヤ」明るく楽しくみんなの声が響き、空の遠くからラッパの声を聞きました。青年と男の子、女の子は出口のほうへ歩き出しました、じゃあさようなら。」

汽車の中は、半分以上いなくなって、皆は列を組んで十字架の前の天の川の渚に膝まづいています。そして天の川の水を渡ってひとりの神々しい白い着物の人が手を伸ばしてこっちへくるのを二人は見ました。そして消えていきました。

「カンパネルラ、また僕たちふたりきりになったねぇ、どこまでも一緒に行こう。あのさそりのように、みんなの幸せのためならば僕のからだなんか百ぺんいてもかまわない」とジョバンニは云います。「うん、僕だってそうだ。」とカンパネルラも云います。

「けれどもほんとうのさいわいは一体何だろう。」とジョバンニが云いました。「僕わからない」とカンパネルラがぼんやり云います。

天の川のひととこにある石炭袋を見ます、そこには大きな穴がどおんとあいています。ジョバンニが云います「あんな大きな闇の穴だってこわくない。僕たち一緒に進んで行こう」カンパネルラは、「あっ、あそこにいるのは僕のおかあさんだよ」と叫びます。

「カンパネルラ、ぼくたち一緒に行こうねえ。」とジョバンニがこう云って振り返ってみたら、カンパネルラはもういませんでした。

ジョバンニは、窓の外へ乗り出して叫びながら、いっぱいに泣きだしました。そこらへんがいっぺんに、真っ暗になったように思いました。

眼をひらくと丘の上にいました。天の川は、ぼんやり空にかかり、右にはさそり座が美しく煌いています。ジョバンニはお母さんのことを思い出し、牧場の柵をこえ今日届いていなかった牛乳をもらいに行きました。橋のほうでは何かひそひそと談があり橋の上にも光がいっぱいでした。

「何かあったんですか」とジョバンニは叫ぶように聞きます。「子どもが川に落ちたんですよ」と一人が云います。ジョバンニは、橋の下の河原におりました。

ジョバンニは鳥瓜からすうりで皆と一緒だったマルソに会いました。マルソは「ジョバンニ、カンパネルラが川へ入ったよ。」と云います。聞けば、ザネリが誤って川へ落ちて、救おうとカンパネルラが川へ入ったのでした。ザネリは助かり、うちへ連れられて行ったが、カンパネルラが見つかりません。

カンパネルラのお父さんが右手に持った時計をじっと見ています。みんな一言も、ものを云わずじっと河を見ています。下流の河は、銀河が大きく写っています。ジョバンニは、カンパネルラは、もう銀河のはずれにしかいないという気がしてなりませんでした。みんなは、まだカンパネルラが生きていると信じていたが、カンパネルラのお父さんは「もう駄目です、落ちて45分たちましたから。」と云います。

ジョバンニは、思わず博士にかけよって、ぼくはカンパネルラの行ったほうを知っています、一緒に歩いていたのですと云おうとしたけれど、何も云えませんでした。

すると博士は「あなたはジョバンニさんですね、こんばんは、ありがとう」と云いました。

博士は「お父さんはもう遠洋漁業から帰っていますか」と聞き、「いいえ」とジョバンニが答えると、「今日あたりもう着くころです、あした放課後、皆さんとうちに遊びに来てくださいね」と云って銀河のいっぱい写った川下を見ました。

ジョバンニは、早くお母さんに牛乳を持って行ってお父さんの帰ることを知らせようと思い、一目散に走りだしました。

解説(ここを読み解く!)

●銀河鉄道の旅は、死界に向かいながら人間の生きる道を問い続ける旅。

鉄道の旅の乗客は、ジョバンニ以外は、みんな亡くなった人たちです。

象徴的な部分は青年と姉弟で、タイタニックの事故にあい青年は二人の子供を守りながらも、その他の多くの乗客の中の子どもたちや親たちや人々を襲った惨事の中で、自分たちが犠牲になることで、やすらかに天国へ行くことを選び、二人の子供たちを引率します。

生きることに悩んでいるジョバンニは、死んで天国に行こうとする青年と姉弟に、「うその神さま」ではなく、「ほんとうのひとりのための神さま」を信じようとします。

青年は、その「ほんとうのひとりのための神さま」こそがキリストで、善い行いをしたたくさんの人々がサザンクロス駅で降りて天国に行くのだといいます。

ジョバンニは、「ほんとうのひとりのための神さま」のことがよくわからず、カンパネルラに頑張ろうねと語りかけます。

宮澤賢治は、実家はもともとは浄土真宗ですが改宗して法華経に深く帰依しました。ここではキリストが人を救うのではなく、法華経の考えとして、大乗の教えで修行をして仏となり、あの世ではなく、この世で実現する理想的な世界。修行して人間として道を極め、素晴らしい現世をつくることを求め続けます。答えは見つかりませんが、ジョバンニは、それが神さま(キリスト教)ではないと確信しています。

●「ほんとうのさいわい」を探し求め生き、そして死ぬということ。

ジョバンニは、家が貧しく、母親は病気で、父は長く遠洋に出かけ、そのためにバイトに明け暮れ、勉強も思うようにできず、いやな噂に苦しめられて生きています。

それでも自分に優しいお母さんがいます、父さんもりっぱな人だと信じています。

仲良しの親友のカンパネルラですが、カンパネルラはジョバンニだけのものではなく、列車に乗り込んだ姉と宗教の話をしたりします。そして、自分の命を投げ出して川で溺れそうなザネリを救います。ジョバンニは、さそりの話を聞いて<みんなの幸せのために死ねる人間になろう>と思います。そしてカンパネルラは、ザネリのために命を落としていました。

カンパネルラは「母さんは僕を許してくれるかな」と云い、「ほんとうにいいことをしたら、いちばん幸せなんだね」と云います。そして、カンパネルラの父さんは、息子の死に直面してもジョバンニに「明日、家族でいらしてください」と云います。

カンパネルラが人(ザネリ)のために犠牲になって死んだことに、最初は戸惑いがありましたが、旅の中で次第にそのことへの確信が持てるようになりました。

そしてジョバンニも、「みんなのほんとうの幸いのためにつくすことに、生きる意味がある」ということを知ります。カンパネラの“犠牲の精神”こそが「ほんとうのひとりのための神さま」に、もっとも近いものであると考えます。

ジョバンニは、母と父を大切にし助けながら生きていくことを「ほんとうのさいわい」だと思いました。そして一目散に母の待つ家へ帰っていきます。

※宮沢賢治のおすすめ!

宮沢賢治『銀河鉄道の夜』あらすじ|ほんとうの幸いのために、生きて死ぬ。
宮沢賢治『注文の多い料理店』あらすじ|動物を食べるなら、人間も食べられる?
宮沢賢治『どんぐりと山猫』あらすじ|「ばか」が、いちばん「えらい」。

作品の背景

小説の舞台は、宮沢賢治の故郷にあった岩手県軽便鉄道の沿線風景をモデルにしています。また登場する星座から、季節は初夏から初秋にかけての物語。天の川と岩手の北上川を合体した想像の風景となっています。この岩手の自然を銀河に見立てた不思議な世界は、読みながら美しい色彩感を醸し出しています。

登場人物は、賢治の盛岡高等農林学校在学時からの親友で親密な関係の保坂嘉内の影響が大きく関係していると考える説があり、「ジョバンニ」を賢治、「カンパネルラ」は保坂嘉内をあらわしていると考える説や、賢治の死別した妹のトシであるとの説もあるが、保坂と行った旅行の時期などから7月の15日あたり、あるいは銀河祭りは、盛岡の盆行事の舟っこ流しに従えば8月16日となります。

ススキやりんどうの花の描写からも秋ごろといえます。さらに本作における宗教観については、キリスト教に対して、賢治自身は法華経の熱心な信者です。銀河に沿って北十字から南十字で終わる旅であり、それぞれ石炭袋を持っている。この南北のふたつの石炭袋を冥界と現世を結ぶ通路として作品を構成したとされています。

発表時期

本作品は、作者の死によって未定稿のまま遺された。1924(大正13)年に初稿が執筆され、1933年の賢治の死後、草稿のかたちで遺された。初出は1934(昭和9)年刊行の文圃堂版全集。未定稿のため本文の校訂が研究者を悩ませてきたが、筑摩書房版全集で大きな改稿が行われたことが明らかになった。