サン=テグジュペリ『星の王子さま』解説|友情とバラと祖国、人間の責任について

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本作品のメッセージと感想

人は皆、その人なりの星を持っている

戦間期に書いた有名な2作品、『夜間飛行』では、支配人リヴィエール、飛行士ファビアンと愛する妻、そして仲間たち。多くの苦難を乗り越えて飛び続ける使命、事業を遂行するための義務と責任。そのなかに人間の尊厳と勇気を見出します。

『人間の土地』では、サハラ砂漠に不時着し、渇きと疲労のなかで生還をとげさせたものは何だったのか。自然の過酷さのなかに人間を思う、現代人の狭苦しさに対して、大地は万巻ばんかんの書よりも多くを教えるとしている。

さらに戦争中に書いた『戦う操縦士』では、ヒトラーの『わが闘争』に対する<民主主義からの返答>と評されますが、そのような立ち位置よりも、圧倒的に劣勢な戦況下、ほぼ死が避けられないなか、戦う意味を見出します。

それは人間への愛や文明への感謝が溢れ、それを守るために犠牲となることの崇高さが描かれます。

これらはすべてが現実です。「肉体で書く」つまりサン=テグジュペリは、行動する前に書くのではなく、行動した後でその体験を忠実に記述する。こうすることで、行動と言葉が一体となるという。

その最期は、撃墜されたのか、自らの行為(自死)だったのか・・・。謎である。

それから半世紀(1998年)たって、海の底に眠っていたサン=テグジュペリの名前とコンスエロの名前が刻まれた銀のブレスレッドが、発見された。

サンテ=グジュペリの生き方のすべてがファンタジーなロマンとなる。

いつまでも変わらぬ友との友情、かけがえのない妻への愛情、そして戦時下のフランスの運命のなかで、祖国の分裂を憂い、国家の大いなる愚行である戦争を軽蔑しながらも、その義務と責任において飛び立ち、海の藻屑と消えていった。

行動する勇者として、愛のために自らの死を差し出すように。 空の英雄だったサンテ=グジュペリが小さな星となり、満天の夜空のどこかに輝いている。

たいせつなものは、こころでしかみえない

作品の背景

「いちばんたいせつなことは、目に見えない」 アントワーヌ・ド・サン=テグジュペリは、作家としてだけでなく飛行士としても生きた人です。1900年、リヨンでフランスの由緒正しい貴族の長男として生まれます。金髪のアントワーヌは「太陽王」として可愛がられます。金髪の王子さまは彼の分身です。

20歳を過ぎ、憧れて婚約したが破談となった自由奔放な女性ルイーズ、そして25歳の時、大空が大好きだった彼は紆余曲折を経て郵便輸送の路線パイロットになります。モロッコ南西部にあるジュビーの飛行場長時代には砂漠に囲まれた場所で周辺の遊牧民と交渉を重ねていたころ耳の長いキツネを飼っていたとのこと。そして飛行場長の任を終えて29歳の時に南米ブエノスアイレスに現地法人の支配人として赴任します。

ここで黒い髪、黒い瞳の運命のスペイン系女性コンスエロと出会い翌年、反対を押し切って結婚。喘息のため隙間風を嫌がり気難しくて見栄っぱりだが、おしゃれで芸術家肌の女性。その後、会社を離れフリーとなり35歳の時に、飛行中にリビア砂漠に不時着、生死の間を彷徨います。

39歳の時に第2次世界大戦がはじまり偵察飛行隊に入ります。除隊後、出版社からアメリカに招かれ子供向けの本の依頼を受けて書いたのが本書 “Le Petit Prince”。彼の人生の経験や、さまざまな出会いが、バラやキツネや飛行操縦士として登場します。

その後、連合軍の所属部隊に復帰。そして勇敢な飛行士は、44歳の時に大戦の空に消息を絶ちます。大地は万巻の書より多くを教える、自分を確立するため真実や本質を見抜かなければならない。そのために人と心を通じ思慮を巡らす必要がある。目に見えるものではなく自ら行動することが大切であることを自ら示した人生でした。

発表時期

本作品は、1943年4月にニューヨークの「レイナル&ヒッチコック社」から英語版 (『The Little Prince』) で出版された。フランス本国では没後の1945年11月に「ガリマール社」から出版。世界300以上の国と地域で翻訳出版され、総販売部数1億5000万部以上。発表の時期は、まさに世界が二度目の大戦で総力戦の中にありファシズムやコミュニズムが人間の感情や人生を寸断し殺し合い虐待するという悲劇の運命に翻弄された時代でもありました。