村上春樹『ダンス・ダンス・ダンス』解説|生きる意味なんて考えず、踊り続けるんだ。

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作品の背景

村上春樹の六作目の長編。初期の鼠三部作の完結編『羊をめぐる冒険』の続編となる。この『ダンス・ダンス・ダンス』の主人公の「僕」は四作を通じて同じ人物。前三作で自己療養の試みとして文学が始まり、人との出会いや別れ、喪失や絶望のなかで相棒の鼠と「僕」の物語は終わる。

この小説はその後の「僕」をテーマとして、空虚のなか前作の旧いるかホテル(=ドルフィン・ホテル)に消えたキキ(=ガールフレンドの特別な耳の女の子)が事件の入口と出口を知らせる予知能力として、「僕」をホテルに呼ぶという設定で、三十四歳で再生を試みる「僕」がもう一度、札幌のドルフィン・ホテル(=旧いるかホテル)に招き寄せられ、そこで<こちら側>と<あちら側>を繋ぐ霊媒としての「羊男」が登場し、「僕」と再会する。そして「僕」が不思議な体験の中から<自己発見>に覚醒していく物語である。

執筆はロンドンで行われているが、当時の日本はバブル期の狂乱の中で方向感覚を見失っている時期でもあった。60年安保や70年安保は遠い昔となり、カオスと化した強欲資本主義のなか、束縛されない自由な個人とはどういう生き方なのか。<ダンス・ダンス・ダンス>という休むことない踊りの中で、意識の内側に閉じ籠ることなく、自己の核を確認し生きる意味を求めていくことを問いかける。

発表時期

1988年(昭和63年)10月、講談社より上下巻で刊行された。村上春樹は当時39歳。1991年12月に講談社文庫として文庫化。巻末には1987年12月17日に書き始められ、1988年の3月24日に書き上げられたと記される。

また主人公の「僕」は『風の歌を聴け』(79年)、『一九七三年のピンボール』(80年)、『羊をめぐる冒険』(82年) の「僕」と同一である。4作目の長編に85年『世界の終わりとハードボイルド・ワンダーラン』、5作目の長編に87年『ノルウェイの森』を挟んでいる。

鼠三部作の続編として、60年代、70年代の喪失と絶望からの再生と80年代の貪欲な資本主義のなかでの生き方が描かれる。それまでの「喪失」のテーマから本作はその影を引きずりながら「自己発見」という結末で終わっている。