浅田次郎『鉄道員』解説|人々の暮らしを支える、乙松のぽっぽやの人生。

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作品の背景

浅田次郎の処女短編集として刊行され、初版に巻かれたオビに “あなたに起こる やさしい奇蹟” とのキャッチ・コピーが用意された。<奇跡の一巻>として「奇蹟」をモチーフに短編をあつめたとしている。

その表題作が『鉄道員』である。幾分、気恥ずかしいと前置きしながら、<読者の心に小さな奇蹟が起こってくれるなら幸い>と付されている。とはいえ、最初からありえない出来事に、そうたやすく感情移入はできない、涙など流れないものだと思うだろう。

解説には、本書はリトマス試験紙のような作品集だ、と評している。「すごくよかった」と熱烈に語る作品が人によって異なるというのである。

女性は現代の恋愛小説として『ラブ・レター』が圧倒的に好評だという。であれば、さしずめ『鉄道員』は定年を意識して働く中年男性に好評なのだろうか。この作品とは異なり、ほとんどの職場は一人で代替がきかず、自由は全く無く、家族の死に目にも会えないというようなことはまずないだろう。

しかし大切な人の死は想像できる。その悲しみを噛みしめ乗り越えて生きる姿が、日々の労働に行使されるサラリーマンの日常に重なるのか。そこに訪れた思いがけない奇蹟を共感できる。

それは眠りの中の夢であろうが、白昼夢であろうが構わない。脳裏に訪れた想像の賜物である、夢で逢えたのだから奇跡と呼んでも良い。人は秘めた悲しみがあるから、幸せな夢を見るのかもしれない。

『鉄道員』にも、浅田の特徴であるユーモアが会話に流れている。だからほのぼのする、悲しいことが、やがて笑いに包まれる、人情である。人は人情に涙するのだ。

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発表時期

1995(平成7)年、『小説すばる』11月号に掲載。浅田次郎は当時43歳。1997年4月、集英社から短編集『鉄道員ぽっぽや』を刊行、この表題作である。その他に「ラブ・レター」「悪魔」「角筈にて」「伽羅」「うらぼんえ」「ろくでなしのサンタ」「オリヲン座からの招待状」計8編を収録。この短編集は第117回直木賞を受賞する。