芥川龍之介『トロッコ』解説|ぼんやりとした不安が、ふっと訪れる。

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作品の背景

舞台は熱海です。古くから温泉の街として知られていましたが、地形が険しく、交通が不便な場所でもありました。そこでこの地に鉄道を、という話になります。

小田原・熱海間の軽便鉄道工事で使われるトロッコは、工事の現場で大量の土砂を搬出するために梯子上に組み上がった線路に仮設軌道を設置して運行するものです。土木工事に使用する車輪をつけた運搬道具です。地形の上り下りが激しく、蜜柑畑を横に海が平ける景色は美しく壮観な景色が浮かびます。

そこで良平がトロッコを大人に混じって経験し、そして一人暮れる線路の上を帰る情景の物語です。往路と復路の精神のコントラストが自然の陰陽と共に明確に表れています。 湯河原出身のある雑誌社の青年が、幼年時代に熱海軽便鉄道が人車鉄道から軽便鉄道への切替を行っている工事を見物したときの回想を記した手記を芥川が題材にして執筆されたものです。

発表時期

1922年(大正11年)3月、雑誌『大観』(実業之日本社)に発表。芥川龍之介は当時30歳。中期の短編小説です。この作品は一夜にして書き上げらます。正式名は『トロツコ』、中学図書などにも採用されています。芥川はこの頃から、心身が衰え始め神経を衰弱し、この5年後、「ぼんやりとした不安」と『或旧友へ送る手記』に書き、服毒自殺します。享年35歳でした。