芥川龍之介『蜜柑』解説|目に写る色彩が、心を癒した瞬間。

スポンサーリンク

作品の背景

当時、芥川は横須賀の海軍機関学校の英語の教官として勤務しており、横須賀線を通勤に利用しています。横須賀駅から乗った汽車で、故郷から奉公に行く娘とのひと時を、作者の体験をもとに描きます。

教官の仕事は、前任が1917年(大正6年)12月に辞職し、後任として推薦され、1919年(大正8年)3月に辞して、その後、大阪毎日新聞社に入社します。

この頃の芥川は、教官と作家の二つの顔をもって生活をしています。職業としては英語教師であり、一方で作家としての芸術活動があります。この問題は「物心ぶつしん両面にける人としての生活と、芸術家としての生活の関係交渉」ということで、『永久に不愉快な二重生活』という書簡があります。

『蜜柑』の主人公の私、つまり芥川にとって教官と作家の狭間で悩んでいたのでしょう。暮色の空に蜜柑が舞う光景を見て、作者の憂鬱な気持ちを一変させます。

エッセイのような短編ですが、時間とともに変化していく作者の感情が書きとどめられています。

発表時期

1919年(大正8年)5月、『新潮』に発表された短編小説。芥川龍之介は当時27歳。中期の作品。最初は「私の出遇った事」と言う作品名だったが後に「蜜柑」に改題されました。