村上春樹『ノルウェイの森』解説|やはり、100パーセントの恋愛小説。

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作品の背景

背景に大学紛争における政治の時代がある。同時に登場人物は思春期から大人への<ココロ>と<カラダ>の変化の時期でもある。<死は生の対極としてではなく、その一部として存在している。>というテーマは、時代的には戦争や冷戦という国家間的な生死も意味するが、この物語はもっと個々人の自我を中心に据え、その思春期の恋愛と生死を描く。

村上文学の特徴の固い殻に閉じ込められた自己と外部の世界との距離を置く<デタッチメント>である。そしてどこか不思議な人間関係のなかで喪失、悲しみ、再生というテーマが繰り広げられる。

本書は「雨の中の庭」というタイトルで書き始められて「ノルウェイの森」となったという経緯がある。またその原型は短編「蛍」のなかにある。冒頭を除き、物語全体は回想のかたちをとっている。

発表時期

1987年(昭和62年)9月、講談社から書き下ろし作品として上下二分冊で刊行。5作目の長編小説。村上春樹は当時38歳。1991年に講談社から文庫化、2004年に文庫改訂版が出される。リアリズムの文体で書かれている。

村上は「この話は基本的にカジュアルティーズ(犠牲者たち)についての話で、自分のまわりで死んでいった、あるいは失われていった人たちの話であったり、自身の中で死んで失われていったカジュアルティーズの話である」と述べている。

当時から現代まで半世紀の間、永遠と続く閉塞感の<ココロ>と<カラダ>の問題は、この先も解決されずに続くだろう。失われた恋の記憶を回想する「ノルウェイの森」は、国内累計部数1000万部を越える大ヒットとなりその後、映画化もされ大きなブームとなった。孤独に生きるたくさんの現代人を共振させた作品である。