芥川龍之介『芋粥』解説|夢は叶う時より、願い続ける時が幸せ!

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作品の背景

芥川龍之介の作品を、初期、中期、晩年の3つにわけると「芋粥」は初期の作品で説話文学を典拠にしています。『宇治拾遺物語』の巻一「利仁芋粥の事」及び『今昔物語』巻二十六「利仁の将軍若き時、京より敦賀に五位を将いて行きたる語こと」を題材にしています。

芥川は『永久に不愉快な二重生活』という書簡があります。この頃、横須賀の海軍機関学校の英語教官と作家の二つの顔を持ち、生活のための教師の仕事と作家を目指す芸術活動の二重の生活に苦しみます。作家で身を立てたいとする芥川の欲望であり夢が、主人公を利仁ではなく五位の視点に変えたのではないでしょうか。

本作は王朝の説話物語の近代的な解釈に主眼を持たせており、五位の精神的な自由を叙述の中心としています。またゴーゴリの「外套」の影響が感じられ「芋粥」の主人公無名の五位の性格と環境は、「外套」の主人公の下級官吏とよく似ているといわれます。

発表時期

1916年(大正5年)9月、『新小説』にて発表。文壇の注目を浴びる。初期の短編小説。芥川龍之介は当時24歳。同年2月に東京大学在学中に久米正雄、菊池寛、松岡譲、成瀬正一らと第四次『新思潮』の創刊で『 鼻 』を発表している。

この時 『 鼻 』 は夏目漱石に絶賛される。7月に大学を卒業。『芋粥』は新作の注文に応じて書かれたもので、この頃をさかいに一躍流行作家になる。この年12月には海軍機関学校嘱託として鎌倉に居住。