志賀直哉『清兵衛と瓢箪』解説|大人の無理解に屈せず、飄々と才能を磨く少年。

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清兵衛が熱中し大切にしている瓢箪の収集は、父親や先生など無理解な大人たちに禁じられる。それでも挫けずに、次は、新しく絵を描く事に自分の夢と才能を発揮する。すると父親がまた邪魔をしそうになる。この作品には直哉が家を出て、尾道で本統の小説家を目指す志が描かれているのです

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登場人物

清兵衛
主人公で十二歳の小学生。気に入った瓢箪を収集するが、親や教師から禁じられる。

清兵衛の父
大工をしているが清兵衛が瓢箪に夢中で、軽口を叩くのに怒り弦能で割ってしまう。

清兵衛の母
学校の教師に清兵衛の授業態度の不真面目さを指摘されて、泣き崩れてしまう。


清兵衛の父を訪ねるが、馬琴のような奇抜な瓢を勧め清兵衛の趣向に文句をつける。

教員
よそから来たので土地に馴染めず、清兵衛が大切に磨いていた瓢箪を取り上げる。

小使い
清兵衛から教員が取り上げた瓢箪を貰い、骨董屋で五十円の高値で売れてほくそ笑む。

骨董屋
もとは清兵衛の瓢箪を小使いから買い、それを地方の豪族に六百円の値で売りつける。

あらすじ

清兵衛の熱中する瓢箪に、全くの無理解の大人たち。

清兵衛せいべえ瓢箪ひょうたんに熱中している。三四銭から十五銭くらいの皮つきの瓢箪を十程、持っていた。口を切り、種を出して、栓も自分で作った。茶渋で臭味をぬき、余った酒でしきりに磨いた。

全く清兵衛の瓢箪の凝りようは烈しく、あるとき屋台から出てきた爺さんの禿頭すら「立派な瓢じゃ」と思ってしまったことに驚き、可笑しくなり自分を笑った。

彼は骨董屋でも八百屋でも荒物屋でも駄菓子屋でも、瓢箪を専門に売る店でも、とにかく瓢箪があればじっと見た。清兵衛は十二歳で小学校に通っていたが、他の子供とは遊ばず瓢箪を見に町に出かけた。

夜は瓢箪の手入れをして、手入れが済むと酒を入れて手拭で巻いて、かんに仕舞い、炬燵に入れて寝た。翌朝、起きて鑵を開けて見る。そして丁寧に糸をかけて陽のあたる軒へ下げ学校に行った。

清兵衛の住む市は小さな土地だったので、清兵衛は恐らく総ての瓢箪に眼を通していた。彼は古瓢こひょうには興味が無く、まだ口を切っていない皮つきに興味を持った、そして割に平凡な恰好をした物ばかりであった。

あるとき大工をしている清兵衛の父のところへ客が来て、瓢箪の話になり、「春の品評会の馬琴の瓢箪が素晴らしい」と父が云い、大工もその大きく長いその瓢箪を褒めた。

すると清兵衛は心で笑った。そして「あの瓢はわしには面白うなかった。かさ張っとるだけじゃ」と口を入れた。父は「何じゃ。わかりもせん癖して、黙っとれ!」と眼を丸くして怒り、清兵衛は黙ってしまった。

或日、清兵衛は裏通りを歩いていると民家の格子に震いつきたい程にいい瓢箪を見つけ「これ何ぼかいな」と訊くと、婆さんは「十銭にまけときやんしょ」と答え、清兵衛は銭を取りに帰りハアハアといいながらまたかえってきて買った。

それから清兵衛はその瓢箪を大事にして学校まで持って行き机の下で磨いていた。それを受け持ちの教員が見つけた。道徳の時間だったので教員は一層怒った。「到底将来見込のある人間ではない」と云い瓢箪を取り上げた。

清兵衛の審美眼の確かさと、諦めない新たな絵の才能の発揮。

清兵衛が青い顔をして帰ると教員が彼の父を訪ねてやってくる。「こう云うことは全体家庭で取り締まっていただくべきで……」と教員は云って清兵衛の母にくってかかり母は只恐縮した。

清兵衛は教員の執念深さが恐ろしく唇を震わせ、部屋の隅で小さくなる。

間のなく清兵衛の父が仕事から帰ってきてその話を聞き、清兵衛を捕まえ散々になぐりつけた。ここでも清兵衛は「将来とても見込みのない奴だ」と云われ、「もう貴様のような奴は出て行け」と云われた。

清兵衛の父は、弦能げんのうを持ってきて清兵衛の瓢箪を割ってしまった。清兵衛は只青くなって黙って居た。

教員は清兵衛から取り上げた瓢箪を捨てるようにして年老いた小使いにやって了った。二ケ月して小使いが僅かの金に困り、その瓢箪を近所の骨董屋に持っていくと、最初、五円と骨董屋が話していたものが十円に上がり、結局五十円になった。

小使いは四ケ月分の月給を只貰ったような幸福を喜んだ。そのことは教員にも清兵衛にも知らん顔をしていた。骨董屋はその瓢箪を地方の豪族にさらに六百円で売りつけた。

清兵衛は今は絵を描く事に熱中している。彼はもう教員や父を怨む心もなくなって居た。

然し彼の父は、そろそろ彼の絵を描く事にも叱事を言い出して来た。

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