マリオ・プーゾ『ゴッドファーザー』|原作の解説その4

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「人生はこんなにも美しい」ドン・ヴィトーが逝き、ついに計画が動き出す

ドンは庭の手入れをしながら倒れた。強い心臓発作だった。駆けつけたマイケルに、ドンは庭の臭いを吸い込んで、そして囁いた「人生はこんなにも美しい」と。

男たちに囲まれ、いちばん愛したマイケルの手を握りしめながら息をひきとった。

葬儀は荘厳に執り行われた。クレメンツァとテッシオをはじめ五大ファミリーのドンも参列した。ジョニー・フォンテーンはマイケルの制止をきかずタブロイド紙の見出しになることを気にもとめず参列し、尊敬の念を払えることを誇りとした。

アメリゴ・ボナッセラは、心からの愛情と丹精をこめて整えた。古い友人たちが散歩道に集まった。散歩道と家のまわりは花輪であふれんばかりだった。

今や組織は西部への移動を開始し、コルネオーネ・ファミリーはニューヨークにおける支配を清算することを、みな理解した。それはドンの引退か死後に用意されていたものだった。

この家にこんなに人が集まったのはコニー・コルレオーネの結婚式以来ほぼ十年ぶりだと誰かが言った。マイケルは、その遠い昔、このような奇妙な運命が自分のものになろうとは夢にも思わず、ケイと共に庭に座っていたのだ。

ドンの死はファミリーにとって大変な不幸であり、彼らの力は半減し、バルツィーニとタッタリアの同盟軍に対抗する力の大半は失われたように思えた。

マイケルはまだ新しいドンではない。その地位や称号を受けるに価することを果たしていなかった。

クレメンツァもテッシオも、バルツィーニとタッタリアの攻勢に懸念を示し、マイケルの考えを確認するが、マイケルは挑発に乗らず二.三週間の猶予をくれと言うだけだった。

マイケルはトムと二人だけになる。トムが「政治家を抑えたか」と確認すると、マイケルは判事の全部と議会の有力な政治家は抑えたと語る。そしてマイケルはトムに「ドンが教えてくれたこと。バルツィーニは、誰か、疑ってもいないような親しいものを通して、自分を罠に嵌める」と話す。

マイケルに電話がかかる。それはバルツィーニからの依頼であった。「ドン亡き後の、新たな停戦協定を結ぼう」というものだった。連絡をつけた者が裏切り者に転じたことは明らかだった。「テッシオ」だった。テッシオはマイケルを売って、コルネオーネ・ファミリーを引き継ぐ考えだった。

会見は今晩から一週間後、テッシオの本拠地、ブルックリンで行われる。 ひとつ厄介な問題が生じた。コニーとカルロの長男がカトリック教会で堅信礼を受けることになり、マイケルにゴッドファーザーになってくれるようにケイが頼んだ。かくて会見の前日、散歩道で行われることになった。

血の粛清を終え、マイケル・コルレオーネは敬意の上に新たなドンとなる

物語の後半に出てくるアルベルト・ネリは元警官だった。その正義感と獰猛さが運命を変えた。

ネリの姉の子どもの品行を正そうと過剰に殴ったことで妻は恐怖で実家に帰り、ハーレム地区で麻薬常用の札付きのぽん引きの黒人が、黒人女性二人をナイフで切りつけたの見て、過剰行為を働き結果、加害者は死んだ。その件で、ネリは収監された。

しかしネリはドン・ヴィトーの力で釈放された。ネリはルカ・ブラージに代わる頼もしい部下になりえる男としてコルレオーネ・ファミリーに迎えられた。以来、ネリはヴィトーに、そしてマイケルに絶対の忠誠を誓う男となった。

ヴィトーにとって、ルカ・ブラージが切り札であったと同様に、ネリは、マイケルにとってのルカ・ブラージだった。

ロングビーチの散歩道に二台の車が着く。一台はコニー・コルレオーネと母親、それに二人の子どもを乗せ、カルロ・リッツィの一家はラスベガスに。もう一台は両親を訪ねにケイと子どもたちが、ニューハンプシャーに。それぞれ向かうことになっていた。マイケルは「カルロだけは用事がある」との理由で残した。

正午過ぎに、散歩道にクレメンツァが着き、少し遅れてテッシオが着いた。マイケルの家に入り、クレメンツァは二.三分後に出てきて、テッシオは姿を見せなかった。

マイケルはクレメンツァに直接、指示を与えた。計画が動き出した。

そのころ、バッファロー市の北部のピザ屋では、一人のいかつい男が立っていた。男は拳銃の引き金を引いた。店主の胸をとらえ、彼をオーブンに叩きつけた。もう一発撃ち、床にどっと倒れ墜ちた。「ファブリッツィオ、マイケル・コルレオーネがよろしくとさ」彼は二.三センチのところからとどめを刺した。

ロッコ・ランポーネは、車に乗り散歩道を出た。サンライズ・ハイウェイのモーテルまで車を走らせ、小さな山小屋風のバンガローへ向かった。室内に踊りこむ。七十歳のフィリップ・タッタリアの腹部に四発、銃を発射した。

アルベルト・ネリは警官の制服を身につけた。五十五丁目が五番街と交差するところで車を降り、ロックフェラーセンターの前でバルツィーニを待つリムジンを見つけた。

プラザホテルの階段を降りてマイケルとの会見に向かうバルツィーニと二人の護衛が車の方にやって来た。ネリはリムジンの違法駐車を召喚簿に記入する。そこに三人が近寄ってくる。ネリは、バルツィーニの厚い胸板に三発弾を撃ち込んだ。

テッシオは先代のドンの家のキッチンで待っていたが、マイケルは現れなかった。ハーゲンはテッシオと共にキッチンを出て散歩道を歩いた。「ボスは別の車で行くそうです」と護衛が言った。そして三人の護衛がまわりに姿を現した。

テッシオは一瞬すべてを理解した。「逃がしてくれることはできんかね?古い日々に免じて?」テッシオはハーゲンに言ったが、彼は頭を振った。テッシオは、コルネオーネ・ファミリーのなかで最高の兵隊だった。

カルロの前に現れたマイケルは厳粛な面持ちをしていた。後ろにはハーゲンとロッコ・ランポーネが控えていた。「君はサンティノの償いをしなければならない」そうマイケルは言った。

「無実を子どもたちの命にかけて誓う」というカルロに対して、マイケルはカルロに事実を認めるように言った。

そしてあやしつけるように「自分の妹を未亡人に、自分の甥を父無し子にすると思うかね?」とせまり「バルツィーニ」と白状させた。車に乗り込むと、カルロの後部座席からクレメンツァがロープで絞殺した。

マイケルの罪と、その罪を懺悔するために神に救いを求め跪くケイの祈り

コルネオーネ・ファミリーの血みどろの勝利は完全だった。この猛烈な一撃で、マイケル・コルレオーネは己の声価を高め、コルネオーネ・ファミリーをニューヨークにおける本来の位置に復帰させた。

カルロを殺されたコニーはすべてを察し、呪詛と非難をマイケルに浴びせかけた。

ケイはマイケルに問い質す「マイケル、あれは本当じゃないわね、お願い、本当じゃないと言って」と。マイケルは答える「もちろん本当じゃないさ。ぼくを信じるんだ。あれは絶対に本当じゃない」その口調はかってないほど強く、ケイの目をじっと見つめた。

「ドン・マイケル!」そうクレメンツァは言った。ケイは、彼らの臣従の礼を受けているマイケルを茫然と見ていた。その瞬間、ケイは、コニーの先ほどの言葉がすべて真実であることを悟った。

ダイアン・キートン演じるケイは一人残され、男だけの世界の扉が閉まる印象的な場面でした。

その後に続く、巧妙な政治的な操作で、マイケル・コルレオーネが合衆国じゅう最も強力なファミリーの指導者と目され完璧なものとなった。

ニューヨークの業務を閉鎖し、建物や散歩道の地所を売り払うことを決心した。

コルネオーネ・ファミリーは無敵であり、クレメンツァは自分のファミリーを持ち、ロッコ・ランポーネはコルネオーネ・ファミリーの幹部になり、ネバダでアルベルト・ネリはファミリー支配下のホテルの安全を守る責任者となる。ハーゲンはむろんマイケルの西部ファミリーの一員だった。コニーは新しい夫を手に入れた。

ケイ・アダムス・コルレオーネは、カトリックの教えを信奉するようになり、家族の者を大喜びさせた。マイケルは「子どもたちはプロテスタントになる方が良い」と考えていた。

ケイはネバダの暮らしが気に入り出していた。マイケルは以前より正常な生活を送った。建設会社を経営し、実業家クラブや市の委員会の会員となり地方政治にも関心を持った。

ケイは毎朝、教会へ行った。今朝は聖体拝領の儀式を受ける日だった。ケイはママ・コルレオーネを伴なっていた。聖水を指先につけ、軽く乾いた唇につけてから、十字を切った。

一年前、自分は妹の夫を殺しはしなかったという嘘を信じさせるため、彼が二人の信頼のすべてとお互いの愛情を故意に利用した、あの恐ろしい夜のことについて考えた。その嘘のために、ケイはマイケルのもとを去った。しかしそれから一週間後、マイケルの命をうけてトム・ハーゲンがやって来た。そして言葉巧みに連れもどされた。

マイケルのもとに戻って一週間後、ケイはカトリック教徒になる教えを受けるために、司祭のもとへ赴いた。

ケイの父親はプロテスタントの牧師であり宗教学者である。マイケルはケイが子どもを産み従順な伴侶でいることをイタリア人のように錯覚する。ケイは今、カトリックに改宗しようとしている。ママ・コルレオーネは以前、ケイに話した。

ドン・コルレオーネの男の世界に口をはさむことはしない、そしてママは「男の苦労が女には分からないというのなら、女の苦労は男には分かるのだろうか?」と言っていた。そしてママ・コルレオーネはドン・ヴィトーが「天国に行ける」ように毎朝、祈り続けていた。マイケルがマフィアのドンである事実を知ったケイは、苦悩の果てにマイケルと生きることを決意したのだ。そしてケイが選んだのはママと同じように「祈る」ことだった。

教会の奥深くから懺悔の鐘が鳴り渡った。ケイは握りしめた拳で胸を軽く打った。聖餅せいへいを受けるために口を開く。そして為すべきことをすべてやり終えた。

ケイは、罪をすべて洗い流し、恩寵を受けた祈願者として頭を垂れ、祭壇の手すりの上で指を組み合わせた。彼女は、マイケル・コルレオーネの魂のために祈りを唱えた。

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