マリオ・プーゾ『ゴッドファーザー』|原作の解説その4

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五年間でファミリーを合法的組織に変え、ケイを伴侶に家族をつくる

マイケルとケイは再会する、シシリーから戻って半年が経っていた。

マイケルが姿を消して半年間、ケイはかかさずマイケルの母親に電話した。ママ・コルネオーネは「マイケルのことは忘れるように」と彼女に言った。ケイはマイケルが手紙も言伝てもよこしてくれないことに傷つき、自分も信用されていないと考えた。

ケイは二十四歳となり、ニューイングランドで教師をしている。ニューヨークに出かけてロングビーチに電話してみた。あの事件からもう二年がたっていた。するとママ・コルネオーネが受話器に出て「マイケルは半年前から戻って来ている」と言われ驚く。ママにうながされてタクシーを走らせた。

二人は会い、ロングビーチから街にあるマイケルの家に向かった。二人は体を重ねる。手紙を出さなかったのは「あんなことが起こった後で、君が待っているとはまったく思えなかったからだ」とマイケルは言った。

ケイは、ソッロッツォとマクルスキー警部の殺しが、ほんとうにマイケルなのかどうかを確認したかった。マイケルはケイに結婚についてどう思うか訊ねる。

マイケルは「今までのことは話せない、今ぼくはおやじの代わりに働いている。家には敵がある、おやじには敵がある。万が一、君に危険が及ぶことになる。だから仕事のことはいっさい君には話さないつもりだ。妻になるだろうが人生の伴侶となることは無い。同等の仲間になることはない。そんなことはできない相談なんだ」と説明する。

ケイは「つまりあなたはギャングだと言っているのね。人殺しや人殺しに関係したいろんな犯罪に関係しているのね」と言い「あなたのお母さんのように、子どもと家の世話をするだけのイタリア人の主婦のようになるの?」と訊ねた。

ケイの質問とマイケルの解答が、噛み合っていない。全く喰い違っているが、そうとしか答えようがないのだ。家族を巻き込めないし、マフィアには何よりもー沈黙の掟ーがあるのだ。

マイケルは「君は僕が愛情を感じる、ぼくが気にかけているただ一人の人間なんだ」と言い、「すべてがうまくいけば、コルネオーネ・ファミリーは五年ぐらいのうちに、完全に合法的な組織になるだろう。そしてそれを可能にするために陰険な手段を用いなくてはならない」と言う。

それはマイケルがマフィアであることを、その生き方を選んだことを証明している。

マイケルは続ける。「僕には君が必要だし、家族がほしいしい。ぼくは子どもがほしい」と語る。そして「僕はファミリーのために戦わなくてはならなかった。僕の子どもには僕に感化されず、君の感化を受けてもらいたい」と話す。

ヴィトーは社会の規則を信じない、マイケルもまた自分の家族だけを大切に信じるという、それはこちこちの保守主義者の一人のような者で政府は国民をかまってくれないので自分のことは自分で責任を持つというリバタリアニズムのような説明の仕方を加える。そこにはコルネオーネ・ファミリーの跡を継ぐ必要のあるマイケルと、ケイを伴侶として家族と子供という愛する絆を持ちたいマイケルとの、葛藤のなかにある。

ラスベガスでのモ―との交渉と、フレッドの醜態に苛立つマイケル

マイケルの大きな計画が動きだす。マイケルは早速、トム・ハーゲンと新しくアルベルト・ネリという護衛を連れ立ってネバダへやってきた。

ネバダでは次兄のフレディが迎えた。マイケルはジョニー・フォンテーンと歌手仲間のニノ・バレンティ、そしてルーシーと医者ジュールス・シーガルと夕食を伴にした。マイケルの頬は、ケイの説得とジュールスの推薦もあり、手術を受けすっかり治っていた。

マイケルは全員に話しかけた「数年後にコルネオーネ・ファミリーはニューヨークからベガスへの移転を考えており、ホテルとカジノを土台にやっていく」と言う。フレディは「モー・グリーネがホテルを売るとは思えない」と怪訝になった。

マイケルは、ジョニー・フォンテーンには専属契約として一週間のショーに年五回の出演を依頼した。ジュールス・シーガルにはラスベガスに予定されている大病院の医師として、ルーシーにはホテルの商店街アーケードに開業する店を取り仕切ってもらいたいと話す。

モ―・グリーネが入ってきた。彼はブルックリンで殺人組織の殺し屋として名を高めたハンサムな悪党で、このラスベガスでホテルとカジノのビジネスで成功した男だった。

部屋には、フレディ、トム・ハーゲン、モー・グリーネ、そしてマイケルが残る。

モ―・グリーネは「コルネオーネ・ファミリーが俺を買収すると聞いたが、どういうことなんだ?俺がおまえさん方を・・・・・・・買収するんだぜ。おれを買収するなんて真似はよすんだな」と怒りをかろうじて抑え言った。

マイケルは「君のカジノは、奇妙なほど損をしている。君の経営方法に何かまずいところがあるんだな。私たちならもっとうまくやれるだろう」と返した。

モ―は「フレディを引き取ってやったのに、追い出そうとするのか」と荒々しい声をたてた。

マイケルは穏やかに「フレディを引き受けたのは、コルネオーネ・ファミリーがホテルに設備投資として莫大な金を融資したからだ、カジノにもたくさん出資した。フレディはモリナリ・ファミリーが安全を保証したからだ」と返し、「株の値段を決めておくように」と理性的に言った。

グリーネは「ゴッドファーザーは体の具合が悪い。コルネオーネ・ファミリーはもう大きな力を持っていない、落ち目だ。ニューヨークから追い出されている」と罵る。

マイケルはここで「それで君は、人前でフレディの顔を平手打ちできるってわけか?」と訊ねると、フレディの顔が赤くなって「いや、マイク、あれはなんでもなかっただよ。モーに悪気はなかった」と割って入る。

モー・グリーネは、フレディが女とだらしないことを笑う。マイケルは憮然とする。これこそがヴィトーがフレディに匙を投げている理由だったのだ。

マイケルは改まった口調で「フレディ、あんたは私の兄貴だ。私はあんたを尊敬している。だが、ファミリーに敵対する者に味方するようなことは二度とするな」言う。映画(PARTⅡ)でも印象的なシーン、マイケル役のアル・パチーノの凄味のある落ちついた冷徹な演技だった。

ヴィトーが銃撃され、意気地のないフレディは反撃すらできず、逆に憔悴し、後にラスベガスへカジノの修行へ送られ、コルレオーネ・ファミリーのネバダ進出の際に活躍してもらう予定が、敵対するモ―・グリーネに顎で使われて、弱みまで見せ膝まずく状態である。特にドン・ヴィトーはフレッドにまつわるこのような女関係の醜聞を嫌った。

ファミリーがネバダへ移る、そして死活を決する時が一年後に予定された

生涯で一番厳しい時、おそらく死活を決する時が近づいていた。

ドンが正式に引退した。父が機が熟したことを自分に告げているのだと知った。

マイケルが家に戻って三年、ケイと結婚して二年以上になっていた。二人はロングビーチの散歩道の一軒の家に住んだ。ケイは皆とうまくやっていき、すぐに妊娠した。二年経って二人目の子が生まれようとしていた。

ヴィトーは、仕事は皆マイケルにやらせて、庭で野菜作りを楽しんでいた。ママ・コルレオーネは毎朝教会に行く。ケイが義母にその理由を訊ねるとママ・コルレオーネは「主人の魂があそこに昇れるように毎日祈りを唱えているんですよ」と天井の方を指し、夫がそうなる見込みはないと言うかのように、いたずらっぽい微笑みを浮かべて言ってのけた。

コニーは、ケイにイタリア料理を教えたり、マイケルがカルロをどのように思っているかを心配して尋ねる。カルロはすっかりまともになっていた。そして「カルロは本当にマイケルが好きなのだ」と、コニーはいつも言った。ソニーの妻、サンドラは両親の住むフロリダに子どもたちを連れて移っていた。生活は充分に保証されていた。

ここには男たちの物語の陰で生きる女たちの息遣いを感じさせている。カソリックを信仰するイタリアの女性たち。ヴィトーと夫婦不随の伴侶ママ・コルレオーネ、家庭を顧みず女遊びをするが頼もしく気のいい男だった殺された長男ソニーと妻のサンドラ、シシリーの血統でないとの理由で疎外される夫カルロを心配する妻、末女コニーの三者三様の女たちの生き方が映し出されている。

ドン・コルレオーネの家の端にある書斎で開かれた夜の会議は、ドン自身とマイケル、トム・ハーゲン、カルロ・リッツィ、クレメンツァとテッシオの二人の幹部が出席した。

ドン・コルレオーネが五大ファミリーと停戦協定を結んで以来、コルネオーネ・ファミリーの力は衰えを見せていた。現在では、バルツィーニ・ファミリーがニューヨークで最強であり、タッタリアと同盟して、コルネオーネ・ファミリーのかつての地位を掌中に収めていた。

ドンの引退はこのうえもない贈り物で、マイケルに対する評価は、迫力の点でソニーにかなわず、ソニーよりも聡明だが父親ほどではないというものだった。凡庸な後継者、恐るるに足りぬ者と見なしていた。

カルロ・リッツィはマイケルを好きだったが、ソニーを恐れるようには彼を恐れなかった。クレメンツァはソッロッツォと警部殺しで見事な仕事ぶりは認めたが、ドンの器には柔すぎると思っており、自分の管轄地域を持つ許しを得たいと思っていた。テッシオはマイケルに高い評価を与えていた。ドン自身とハーゲンはもちろんマイケルについてなんの思いちがいもしていなかった。

マイケルは「一年が終われば、クレメンツァとテッシオはコルネオーネ・ファミリーから離れて、自分が指導者になり、自分のファミリーを持つがいい」と言った。

カルロには「ネバダ育ちなので右腕になって欲しい」と言った。トム・ハーゲンはコンシリエーレではなく顧問弁護士となる。

マイケルは「ぼくがやろうとしているのは、単にアポロニアとソニーの復讐のためだけではないってことを父さんにわかってほしいんです。そうするのが一番いいからなんだ」と静かに言った。

マイケルは、バルツィーニがドンの停戦協定を破ったことを証明できる。そしてマイケルはその計画を実行するのは、ケイが子どもを産み、トムがベガスに落ち着くのを待ってで、一年後を想定している。

マイケルは、麻薬ビジネスを嫌い、そのことでニューヨークでの覇権が低下することを自覚し判っている。また個人的ながらケイとの約束と家族のかたちも気にかけているのだ。五年間でファミリーを合法的な組織にする。すべての懸案から導いた答えが、このベガスへの移転なのである。しかし後に残るクレメンツァやテッシオのこともある。そのためにも死活を決することが必要だった。

ドンは長いこと黙り込みため息をひとつついて「最善の人間には無視することのできないいくつかの任務があるのだ。きっと今度のことがそれなのだろうね」と言った。

その年、ケイ・アダムス・コルレオーネは二番目の子ども-また男の子だったーを産んだ。同じくその年、ニノ・バレンティが脳出血で死んだ。ニノの主演した映画は大当たりした。

ニノの葬式の二日後、モー・グリーネはハリウッドにある映画スターの愛人の家で撃たれて死んだ。

アルベルト・ネリはマイケル・コルレオーネの微笑みと賞賛の言葉で迎えられ、義務を果たした人間が正当に報われる世界に自分がいることを確認した。