カミュ『シーシュポスの神話』解説|不条理に反抗する、無償の精神。

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作品の背景

アルベート・カミュの創作は三つの時期に分かれています。

初期の『表と裏』、異邦人の習作となったといわれる『幸福な死』、そして『結婚』を経て、第一期は「不条理」をテーマにした連作。小説『カミュ』、哲学的エッセイ『シーシュポスの神話』、二本の戯曲『カリギュラ』と『誤解』。

第ニ期は「反抗」をテーマにした連作。小説『ペスト』、哲学的エッセイ『反抗的人間』、二本の戯曲『戒厳令』と『正義の人々』。この後に連作ではないが中編小説『転落』と短編小説『追放と王国』を発表します。

晩年は、自伝的小説『最初の人間』を手がけ「愛」をテーマにした連作の予定でしたが悲運の死を遂げます。

連作は小説、戯曲、エッセイからなり、同時に時系列としても『シーシュポスの神話』で<自殺と不条理>を、続き『反抗的人間』で<殺人と反抗>をテーマとし視野を広げていきました。

この第一期の「不条理」をテーマにした『シーシュポスの神話』において、カミュは自殺の考察から始まるエッセイの最後に、ギリシア神話から引いてきたシーシュポスを不条理の英雄として提示し、シーシュポスは幸福であるとしています。

自殺とは人生が生きるにあたいしないと認めるときだが、それでも命を絶つ判断をするかどうか。それは異邦人の追放者の感情であり、自殺は不条理の受容となる。ここに『異邦人』のムルソーの死への向き合いが真理の思索のなかに現れます。

不条理には、貧困、病気、挫折、孤独などカミュ自身が経験したものがあり、その不条理の先には「自殺」か「再起」しかない。

カミュはこの不条理を明晰な眼差しで絶えず見つめ続ける姿をシーシュポスに見ます。それは絶えず岩を持ち上げるシーシュポスの反復の姿なのです。

不条理の中で自殺に逃避することなく、絶えず繰り返される意識の緊張のなか不条理を知ることで、人生をよりよく生きていける。自殺は不条理の受容であり、死に対する反抗こそが不条理と闘う人間にふさわしいとします。

死に同意する自殺者ではなく、死を拒否する死刑囚こそがふさわしいとするのです。また死の宿命を負っているという意味では、誰もが死刑囚であるとします。死刑囚となったムルソーが、思索の果てに辿り着いた人間主義こそが、ここにおいて幸せな死であるとします。

さらに哲学エッセイ『反抗的人間』では<殺人と反抗>の問題が展開され、「犠牲者もノン、死刑執行人もノン」となり、<殺人>に対する<反抗>、そしてその先にある<自由>と<情熱>の姿を続く小説『ペスト』で描き上げていきます。

カミュ『異邦人』解説|それは太陽のせい、不条理に反抗する精神。
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カミュ『ペスト』解説|不条理の世界を、いかに生きるか。
どこにでもある港町オランを<ペスト>が襲う、猖獗を極め成す術も無く次々に人々が死んでいく。家族も友人も恋人も全ての移動と自由を奪われた時、人は如何にして<不条理>と向き合うのか?カミュが物語を通して戦争の時代に投げかけた人間の尊厳を問う。

発表時期

1942(昭和17)年12月、『ガリマール社』より刊行。『シーシュポスの神話』は先だって6月に発表された不条理をテーマとする『異邦人』の哲学的な解説書としての位置づけとなっています。カミュは当時28歳。

サルトルは実存主義者でカミュは人格神を否定する点では実存的ではあるが二人は同じではない。当時、カミュはその先に行きつく革命主義に反抗する。寧ろ自然主義、人間主義的でギリシア神話や地中海的な考えに思いを馳せている。

1957年10月。44歳の若さでノーベル文学賞を受賞、フランスの受賞者中、最年少である。60年1月、交通事故により46歳で死亡。