マリオ・プーゾ『ゴッドファーザー』|原作の解説その3

スポンサーリンク

麻薬商売を条件付きで認め、ドン・コルレオーネは法的な保護を与える

ドン・コルレオーネが話し出す。彼は自身のひどい負傷、殺された長男、ぐらつく帝国、西部にいるフレディ、シシリーの荒地に隠れるマイケル、そんなことが何もないかのように話し始めた。

集まった男たちは、組織された社会の規則を受け容れず、他人の支配を拒否するまれに見る男たちである。策謀と殺人によって自らの自由意志を守る男たちであり、彼らの意思を覆すことができるのは<死>だけだった。あるいは一点非のうちどころのない<道理>だけだった。

ヴィトーは、これまでの経緯を整理し説明した。

・ソッロッツォがヴィトーの金と力を要するビジネスの件で訪れた。

・彼は、タッタリア・ファミリーの支援を受けていると言った。

・要件は麻薬に関してで、ヴィトーは麻薬に興味がなかった。

・ソッロッツォとタッタリア・ファミリーに充分な敬意を払い、

・ソッロッツォに説明し、礼儀をつくし、ノーと言った。

・ソッロッツォの商売が、ヴィトーの商売の邪魔にはならないので、

・麻薬で生計を立てるのに少しも反対しなかった。

・それを悪意にとりわれわれ全部に不幸をもたらせた。

お互い息子を失くしており、あいこ・・・であり、喜んで停戦する。ただ家に帰れない息子がおり、彼を無事に戻したい。それだけだと語った。

バルツィーニが発言する。彼はヴィトーの話はもっともだとしながらも「ドン・コルレオーネは謙虚すぎる」とし「ヴィトーの援助がなければソッロッツォもタッタリアも仕事に手が出せない。時代は変わった。誰もが我が道を行くという訳には行かない」と言う。

ヴィトーの懇意の判事や政治家を仲間たちに分ちあうべきだと主張した。

これに対し、ヴィトーは「今回拒絶した理由は、麻薬商売がわれわれを滅ぼすと考えたからだ。酒、賭博、女は教会と政府が禁じても人が求めている。麻薬はすべてにおいて危険で、判事や役人や警察も助力を断るだろう。しかし、全員が望むのならば、喜んで皆さんの意見に従う」と言う。これは恐るべき譲歩だった。

ロサンゼルスのドン、フランク・ファルコ―ネは、麻薬は止められないので、寧ろ組織の手で統制を効かせた方が良いとの考え方、デトロイトのドンも、麻薬は金になり、この儲け話に抵抗できない。我々がこの商売を支配して恥ずかしくないものにすべきとの考えだった。

すべてのドンが演説した。麻薬取引は面倒の元だが、抑える方法がなく、金になる。全員の意見が一致した。麻薬商売は認め、ドン・コルレオーネは法的な保護を与える。 ドン・バルツィーニが会議を締めくくろうとした。このときフィリップ・タッタリアには一抹の不安が残っていた。ソニー・コルレオーネ殺害の件があるので、ドン・コルレオーネに「個人的な復讐をしないという明確な保証を聞きたい」と言った。

マイケルの安全が約束されれば復讐はしない、それが破られれば・・・

長く人々の記憶に残り、最も思慮深い政治家としての地位を再確認させた演説をドン・コルレオーネは行った。

「われわれは理性を持っている。お互いに道理を説き、己に道理を説くことができる。息子は死に不幸だったが、それに耐えねばならない。名誉にかけて決して仇討を求めない。しかしわれわれは常に自己の利益を考えなければならない。われわれはみな、馬鹿にされるのを拒否した人間、高い所にいる者がたぐる糸の下で踊る、操り人形を拒否した人間なのです。われわれはこの国で幸運をつかみ、子供たちの多くはもっと良い人生を見つけている。アメリカでは何事も不可能はない。われわれは時勢に合わせて、実業家のような巧妙さを身につけなくてはならない。われわれは自分たちの城コーザ・ノストラを明け渡すわけにはいきません」

われわれの公益のために、死んだ息子の復讐を放棄する、全体の利益のために、自己の商業的な利益を喜んで犠牲にすることを名誉にかけて誓う。そしてヴィトーは最も大切なことを加えた。

「一番下の息子を無事に帰れるようにしたい。わしは、迷信深い。万一、末の息子に不幸な事故が起こったり、警官が偶然息子を撃ち殺したり、独房で首をくくったり、有罪を証言する目撃者が現れたり、稲妻にうたれても、ここにおられる誰かを非難する。それ以外は停戦協定を破るつもりはない」

こうしてドン・コルレオーネはフィリップ・タッタリアの席へ行き、抱き合い頬にキスを交わした。他の首領たちは拍手喝采し、手を握り合い、新たな友情を祝った。

息子のフレディが西部でモリナリ・ファミリーの保護下にあるため、ドン・コルレオーネはサンフランシスコのドンに挨拶した。

ドンは、やはり生粋のマフィアではない。この生粋という意味は、生まれながらのという意味だ。寧ろ思慮深い政治家のようだった。彼は信念をもってこの道を選んだことをうかがわせる演説だった。そして彼は類稀たぐいまれな戦略家でもあった。停戦の大きな狙いは、マイケルの安全な祖国への帰還を全ファミリーに約束させるためだったのだ。

ヴィトーは、この停戦を破らないことをコルネオーネ・ファミリーの幹部に伝えた。そして最も危惧することは「マイケル・コルネオーネこそが警部殺害の犯人」という密告を受けて、警察がでたらめな証拠をでっちあげることだった。

ヴィトーは屋敷に続く散歩道のまわりを全部買って隠居を考える。トムにはラスベガスの事態の進行とフレッドのことを報告させ、カルロには散歩道に移させ立派な仕事を用意するという。

そしてヴィトーは、クレメンツァとテッシオの電話の一覧表も毎月手に入るように指示した。二人を疑っているのではなく、用心深いのはヴィトーの性分だった。

シシリーから安全に戻すための奇手、ボッキッキオ一族の身代わりと約束

ドンは、用心のため屋敷に続く散歩道のまわりの土地や家をすべて買い上げた。垣を巡らせて門をつけ厳重に防備しようとした。そして隠居の準備を始めた。

ヴィトーが、マイケルの件で最も心配したのは警察だった。警部殺害の何者かの密告を受けて、警察がでたらめな証拠をでっちあげることだった。そのためにはマイケルに代わる真犯人が必要だった。

バルツィーニの手が、マイケルの隠れるシシリーにも及びはじめていた。初めからずっとソッロッツォとタッタリアの裏にはバルツィーニがいることをヴィトーは気づいていた。急がねばならなかった。

ドン・コルネオーネが息子のマイケルをアメリカへ入国できるよう問題解決をするのに一年近くの月日を要した。その重役を担ったのは、またもやボッキッキオ・ファミリーであった。

フェリックスという名の二十五歳になる若い従兄弟がいて、彼は一族きっての頭脳の持ち主だった。彼は弁護士を目指しやっと資格を習得したが、それでもうまくいかなかった。同じ弁護士仲間が彼にうまい仕事をもちこんだ。一見合法的な計画倒産に関したものだったが、運悪く不正が発覚したのだ。

不正事件の張本人の二人の実業家は、フェリックスを首謀者と主張し、暴力で脅され協力させられたと弁明した。フェリックスは、暴力事件の犯罪記録のあるボッキッキオ一族の係累と結びつけられ、二人は執行猶予の判決を受け釈放されたにもかかわらず、フェリックスは三年の刑期を務めあげた。

刑務所から釈放され一年後、フェリックスは弁護士仲間を撃ち殺し、二人の実業家の頭に次々に鉛の弾丸を撃ち込んだ。市民もジャーナリズムも人道主義者も口をそろえて電気椅子に送れと叫びたてた。

この話をトムから聞いたヴィトーは、ボッキッキオ・ファミリーの首領にフェリックスの妻と子供に相当額の年金を払うことを約束する。その代わりに、フェリックスにソッロッツォとマクルスキー警部の殺害を自供させる。

幾多の細部にわたる手はずが整えられ納得いくものとした。そして計画が実行に移され、フェリックスの自供は新聞の見出しとなり成功した。ドン・コルネオーネは、四ヵ月後にフェリックスが処刑されたことを確認して、マイケル・コルネオーネを故郷に連れもどすように指示した。

フェリックスはマイケルの身代わりとして犯人となったのである。そして彼の名誉を称え、残された妻と子供には充分な金が渡された。

ルーシーとジュールス、そしてジョニーとバレンタインがネバダに集まる

ルーシー・マンチニはネバダにいた。彼女はコニー・コルレオーネの婚礼の日におけるソニーとの自分の “愚かな行い” を、後悔していなかった。それどころか、彼女の生涯の最良の出来事と考えていた。

ソニーの死後、トム・ハーゲンは彼女を慰め、フレディが経営しているラスベガスのホテルに職を見つけてくれた。また、コルレオーネ・ファミリーから彼女の年金が給された。フレディは唖然とするほど変わってしまっていた。すっかりプレイボーイぶりが板についていた。ハリウッド仕立てのスーツに身を包み、ほとんど軽薄に見えた。

ハーゲンは、ルーシーにホテルの株を持たせて、フレディと彼のボスであるモー・グリーネを監視させた。ドンはこのホテルにある計画のため金銭的に援助していたのだ。

ドクター・ジュールス・シーガルはホテルつきの医者としてホテルにやって来た。ジュールスは、ルーシーの手首の腫れものを治したことで親しくなっていた。そして体を重ね、分かったことは、ルーシーの容器が人並みはずれて大きく、男性のペニスに必要な摩擦を与えられないと考えていることだった。それは外科医が膣壁の減弱と呼んでおり手術で治るものだった。

ジュールスは東部の有能な青年外科医だったが、運悪く堕胎医として捕まってしまったところを友人のケネディという医者が救ってくれた。

ケネディ医師は、あのアッバンダンドの癌の治療を担当し、またドン・ヴィトーが自宅で療養をはじめたときの主治医であり、その時の恩に応えてトムが、彼の友人であるジュールスをこのホテルの主治医に紹介したのだ。ジュールスは、フレディ・コルレオーネが五人の女を妊娠させ、淋病を三回、梅毒を一回治療させられたことを話した。

ルーシー・マンチニの手術はロサンゼルス病院のジュールスの友人の手で行われたが、完璧にうまくいった。翌朝、見舞いに行くとそこにはジョニー・フォンテーンとニノ・バレンタインがいた。

ジョニーの風邪を引いたような声に、ジュールスは声帯に腫瘍ができているに違いないと思った。咽頭医の診断は良性のいぼ・・だった。そしてバレンタインに向かって、そんなにいつも昼前から飲んでいると五年ぐらいで死ぬことになると言った。

こうしてルーシー・マンチニが治って、ジュールス・シーガルは大きなダイヤモンドの結婚指輪を贈り、愛の行為に取りかかった。 コニー・コルレオーネの結婚披露宴でソニーと愛を交わったルーシー・マンチニは、彼の死後も思い出に生き、ファミリーからも厚く待遇されケネディ医師の友人のジュールスと結ばれる。

思うように声が出ずに意気消沈していたジョニー・フォンテーンの喉もただの良性のいぼ・・だと分かり、旧知のバレンタインと友情を忘れず、楽しくラスベガスで過ごす風景が描かれる。

原作では、ソニーの愛人だったルーシー・マンチニ、ジョニーの歌手仲間のバレンタイン、二人のエピソードに細やかに紙幅を割いている。そして自宅で療養するヴィトーを看たケネディ医師とのつながりでジュールス・シーガルを登場させ、ルーシーの話を下ネタでユーモラスに描いている。その意味で、すべての登場人物に物語を与えている。

●次を読む『ゴッドファーザー』|原作の解説その4

●目次(概要と登場人物)に戻る⇒こちらから!

https://amzn.to/49rHUOC