マリオ・プーゾ『ゴッドファーザー』|原作の解説その3

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●目次

短気で激情型のソニーが敵の策略で死に、ファミリーの存在が危機に陥る

ソニー・コルレオーネが死ぬ。背景には、戦闘の膠着状態があった。その死によって血なまぐさい消耗戦となり、ついにヴィトーは停戦協定を模索する。

膠着状態を突破すべく、ソニーは暗い凶暴な性格を暴走させていた。ハーレムでタッタリア・ファミリーの買収業者が撃ち殺され、埠頭ではチンピラが大量に殺害された。港湾一帯の大破壊を行うために、クレメンツァとその部隊を派遣した。

しかし戦いの成り行きには何ら影響を与えず、無意味なものだった。ソニーは優秀な戦術家であり、華々しい勝利を得たが、ドン・コルレオーネのような戦略的才能はなかった。

戦闘はゲリラ戦の様相を呈し、両陣営共に莫大な資金と人命を費やしていた。

義理の息子のカルロ・リッツィの賭場も含め閉鎖することになり、カルロは酒浸りで、コーラスガールと遊び回り、妻のコニーを辛い目にあわせていた。

五大ファミリーは怖気づいたように見え、反撃は弱まり、ついには息をひそめた。「こうなったらとことんやってやるぜ」ソニーはハーゲンに言った。ソニーとルーシー・マンチニとの逢引きには、護衛による念入りな警戒態勢が敷かれていた。そして夫の女遊びの噂を耳にしたソニーの妻との仲はうまくいっていなかった。

ドンは快方に向かっており、ソニーはファミリーの勢力範囲を守り、父親の信頼を勝ち得て、コルレオーネ帝国の後継者として足固めをしておくつもりだった。

敵は完敗を避け得る唯一の道は、ソニー・コルレオーネを殺すことだった。

合理的な論理を尊ぶドンならば、交渉に応じてくれると判断した。しかし、ソニーはその残忍さゆえに憎まれた。

ある晩、コニー・コルレオーネは見知らぬ若い女性から電話を受ける。カルロが帰ってくると大喧嘩となった。ソニーを恐れ自制するカルロだったが、やはり収まりがつかなかった。カルロはコニーに暴力をふるい、コニーはナイフを手に応戦した。

カルロは妊娠中のコニーからナイフを取り上げ、酔っ払い狂気じみた目を向けた。

コニーはロングビーチの実家に電話をする。そして受話器はソニーに渡ってしまった。ソニー・コルレオーネの粗暴な性質が湧き上がる。自分自身の怒りの激しさに呆然と立ち尽くすほどだった。

ソニーは、ビュイックを駆って飛び出した。トムは、ソニーがカルロを殺すと考え、阻止するために護衛をつけさせた。このとき五大ファミリーは反撃を中止しており、戦闘らしい戦闘は無かったので全く意識していなかった。

土手道を走り、暗がりのなか明かりのついた有人の料金所がひとつ見えた。小銭を探すがなく財部から紙幣を出す。意外なことにブースの口には別の車が一台泊まっている。係員は釣銭を渡そうとしたが小銭を落とし拾おうともたもたする。

右手のブースの男と、前方に駐車した車から降りてきた二人の男に、ソニーはマシンガンで蜂の巣にされた。映画(PARTⅠ)でソニー役のジェームズ・カーンが演じた壮絶な死の場面。護衛の後続車も間に合わないほどの、一瞬の出来事だった。

ソニーの死とコルレオーネ帝国の敗北、そして家族の悲しみのなかで

トム・ハーゲンは、五大ファミリーの上べの臆病さに愚弄され、欺かれたのを知った。彼らは恐ろしい罠を仕掛けていたのだ。死の一撃を計画し、チャンスを待ち、実行した。

ママ・コルレオーネは、ドンとの長い生活から知らないでいる方が賢明なことを学んでいた。男たちの苦しみを分ちあわないことに甘んじていた。いったい男たちは、女の苦しみを分ちあってくれるのだろうか?彼女の経験では、食事こそが苦しみを和らげるものだった。

トムは、ヴィトーと旧知の関係だったシシリー人のジェンコ・アッバンダンドと自分を比べて、自分が戦時のコンシリエーレでないことを悔み、幼い頃、自分の人生を救い、愛情をもって接してくれたソニーの死を悔んだ。

コニーに知らせることなく、カルロには「ソニーが今晩殺された」ことを告げ、コニーと仲直りして、完璧に愛情深い夫でいて欲しいと伝えた。そしてクレメンツァとテッシオに来るように伝えた。

トムはヴィトーにコルレオーネ帝国とソニーの命を守れなかったことを告げなければならなかった。ドンはコルレオーネ帝国を五大ファミリーに明け渡すよう命じなければならないだろう。

ドン・コルレオーネは、きちんと衣服をととのえて立っていた。

ドンは「ソニーの死」を受け入れ、復讐行為を禁じ、息子の殺害者を調べることを禁止した。そして、これ以上の五大ファミリーに対する戦闘行為を禁じた。

ヴィトーは、ソニーをキリスト教徒として埋葬すべく、その無残な顔を母親が見れる顔にするために、トムを通じてアメリゴ・ボナッセラに頼んだ。

クレメンツァをドンの護衛に、テッシオにはファミリーの残りの者を守るように、コニーには母親の傍にいて、そしてカルロと一緒に屋敷の散歩道に住むように。ソニーの妻サンドラには、母親からこの不幸な出来事を伝え、教会がミサをあげ、祈るよう、葬儀の準備をさせた。

それでもヴィトーは、トム・ハーゲンに「おまえはよい息子だ。おまえがわしを慰めてくれるのだよ」とイタリア語で慰めた。そして妻に話すようドンは寝室を上がっていった。

和平会議の安全を保証する、ボッキッキオ一族の信頼性とは

映画では全く触れられませんが、原作では「ボッキッキオ一族」の話が挿入されます。

この小さなファミリーの存続の仕方は “約束を履行させ、破れば必ず死をもってあがなわせる”という組織です。小ながら信義と獰猛さで首領の生死を左右する特異な役割を担っています。

ソニーの死は、地下組織に激しい衝撃をもたらせます。ドン・コルレオーネが病床から離れてファミリーの指揮をとることが報告され、血なまぐさい復讐戦に備えて五大ファミリーの首領たちは防衛体制の整備に追われる。

しかし五大ファミリーの下に停戦を申し入れる使者が派遣された。それは全ファミリーの会議を呼びかけるものだった。ニューヨークのファミリーは国内で最大の勢力で、それは国全体の安寧に関わるものだった。

最初は誰もが疑いを抱いた。罠か、油断させるものか、大虐殺の準備か、しかしドンはそのような心がないことを明らかにした。

ボッキッキオ・ファミリーの協力を要請したのである。シシリーの中では獰猛な一派だったが、アメリカでは平和を保つ役割を果たすようになった。それは敵対しあうマフィアの党派が停戦を試みる際の交渉人、人質の役割を担っていた。彼らの価値は、名誉を重んずる心とその獰猛さだった。

ボッキッキオの者は決して嘘をつかない、決して裏切らない。そして受けた侮辱は決して忘れないし、如何なる犠牲を払っても復讐する。そして割の良い仲裁という役割に入り込んでいった。

ボッキッキオの差し出す身内の人質に、もしものことがあれば、敵対する相手の命をかならず奪い復讐する。ボッキッキオの人質は最上の保証物なのである。例えば、マイケルとソッロッツォの会見のときにも、ボッキッキオの者が一人、マイケルの安全の保証人としてコルレオーネ・ファミリーの手に委ねられたのであった。

こうして、このボッキッキオ・ファミリーのシシリーにおける出自やその第三従兄弟まで及ぶ血縁での組織の作り方や獰猛さという、マフィア社会の特異な一面を描く。

この後、この一族のエピソードが、またしてもマイケルの話に関連してくる。

事態収拾のための会合には、ニューヨーク五大ファミリーに加え、全国から十のファミリーの代表が集まった。マフィア世界の持て余し者のシカゴ一味は除外された。代表にはそれぞれ助手一人を伴なうことが許されていた。

停戦会議に集まった首領たち、敵の首謀者はバルツィーニ

ホスト役であるドン・コルレオーネが最初に到着する。

次に、米国南部を活動範囲とするカルロ・トラモンティ。シシリーから移住してフロリダに落ち着き、賭博場で働きながら成長した。賄賂で警察を味方に引き入れた。さらにキューバのバチスタ政権に渡りをつけ、ハバナの賭博場や売春宿といった娯楽施設を持ち、今や大富豪でマイアミビーチで最高級のホテルを経営している。

二番目は、デトロイトから来たジョセフ・ザルーキ。競馬場を運営し賭博も手広くやっている。デトロイトは暴力事件が少なく、麻薬取引に賛成していなかった。「あんたの声だけが私をここにやってこさせられるんだよ」と言った。ドン・コルレオーネは感謝するように頭を下げた。ヴィトーはザルーキを支持者と見なすことができた。

次の二人は西海岸からのフランク・ファルコ―ネとアンソニー・モリナリで、どんな場合も二人で共同して事に当たっていた。

フランク・ファルコ―ネは映画組合と撮影所内の賭場、西部奥地各州の売春宿に女たちを供給する、パイプライン的な組織を支配。“ショー・ビジネス” の世界を巧みに泳いでいるファルコ―ネを仲間のドンは信用していなかった。

アンソニー・モリナリはサンフランシスコ沿岸を支配。スポーツ賭博で手腕を発揮していた。メキシコ国境や東洋人の船舶からくる麻薬密輸にも関係していた。

ボストンのファミリーの代表、ドメニック・パンツァ。仲間から尊敬されていないボスだった。配下の者に不正を働き、冷酷に裏切る。こそ泥のようで、シカゴのマフィアを野蛮人というなら、ボストンの連中は粗暴な無頼漢、ならず者だった。

そして、ドン・ビンセント・フォルレンツァ・ファミリーは、クリーブランドのシンジケートで賭博場だけを経営し、アメリカ最大の勢力を持っていた。シシリー人よりもユダヤ人を多く集めており、ユダヤ系の組織を見なされていた。

原作では、にニューヨーク以外のファミリーの描写も細かい。麻薬を少し扱うファミリーもあるが、多くは賭博や売春が中心で、警察とも癒着していることが分かる。

尚、カポネで有名なシカゴは、禁酒法下では政治と癒着して栄華を誇っていたが、禁酒法が解禁されて以降は、マフィアの世界で持て余し者となっていたと記される。

ニューヨークの五大ファミリーが最後に到着した。皆、シシリーの古い家柄の出であり “腹のある男” たちだった。

ニュージャージー地区と、マンハッタン西部の港湾業務を支配する、アンソニー・ストラッチ。ニュージャージーでは賭博を経営、さらに貨物運搬用のトラックの一帯と道路建設会社も所有し。売春には手を出さなかったが河岸を営んでおり麻薬取引に巻きこまれることはあった。コルネオーネ・ファミリーに対抗する五大ファミリーでは一番劣勢だったが、彼は一番気だてのよい男だった。

ニューヨーク州の北部を支配し、イタリア移民がカナダから密入国する手筈を整え、賭博場を取り仕切るのは、オッティリオ・クネオのファミリーだった。合法的な活動としては大きな牛乳会社を経営していた。本業に気づかれていない数少ないドンで商業会議所から “ニューヨーク州のために尽力のあった本年度の実業家” に選ばれた。

タッタリア・ファミリーと親密な同盟者は、ドン・エミリオ・バルツィーニ。ブルックリンとクィーンズに賭博場があり売春宿も経営している。スタテン・アイランドを完全に支配。ブロンクスとウェストチェスターでスポーツ賭博に手を出している。麻薬にもかかわり、クリーブランドや西海岸側のファミリーと深いつながりがあり、ラスベガスやリノ、ネバダの自由都市にも関係し、マイアミビーチやキューバにも利権を持っている。コルネオーネ・ファミリーに次いで最強で、ウォール街にも足がかりを持つと噂されている。

バルツィーニは今度の戦闘の始めから、タッタリア・ファミリーを支持しコルレオーネ帝国を引き継ぐのが野望だった。ドン・コルレオーネの持つ温かみはなかったが、冷酷な力強さをもち、仲間内で一番 “尊敬される” 男だった。

最期はドン・フィリップ・タッタリア。ソッロッツォを支持しコルレオーネに闘いを挑み、ほぼ勝利を収めた。しかし仲間内では軽んじられていた。ソッロッツォの言うなりになり、すべての騒動の責任があり、そのせいで商売が大混乱となった。主な商売は売春業で、国内のナイトクラブの大部分を支配していた。彼の勝利は、バルツィーニののおかげであることを皆が知っていたのだ。