マリオ・プーゾ『ゴッドファーザー』|家族の名誉をかけた荘厳なオデッセイ|原作の解説その1

スポンサーリンク

コルレオーネ帝国への挑戦、勢力の均衡を破る仕掛けられた罠

それはバージル・ソッロッツォとの麻薬ビジネスの取引協議の決裂に端を発した。

ソロッツオは通称 “タークトルコ人” と呼ばれる麻薬の密売人、ヘロインはシチリアでつくっている。麻薬の市場を拡大すべくパートナーを組みたいとの相談です。

事前の身内の協議で、ソニーは「麻薬は金になる、しかし危険も伴うので資金と安全面だけ手を貸して、実際面は向こうに任せるべき」との意見。続くトムも「提案を受け入れるべき」との意見で、「麻薬ビジネスの可能性、ここを逃がせば他のファミリーが扱い、その金で多くの警官が買収され、広範な政治力を手にして、コルレオーネ・ファミリーを凌ぐことになる」というものでした。

コルネオーネ・ファミリーの現在の収入は賭博と組合で、これが最高の財源だが、いずれ麻薬にとって代わる。将来のためにソッロッツオの提案を受け入れるべきというのがトムの論理的な分析だった。

実際の会合の場となる。ソッロッツオは、ニューヨークでの麻薬の取り扱いに際して、ヴィトーに二〇〇万ドルの資金援助を申し出る。コルレオーネ・ファミリーは資金と政治面の協力で五〇パーセントの割前が入るという。

ドン・ヴィトーはソッロッツオの商談を断る。その理由は「麻薬を扱うことで数多くの政治家がヴィトーのもとを離れていく」との考えであった。

ソッロッツオは尚も食い下がる。「二〇〇万ドルの投資はタッタリア・ファミリーが保証する」と。そこにソニーが横から口をはさむ。「タッタリア・ファミリーが保証するというのですね」これは事態を見誤る重大な過誤を犯したことになる。

マフィアの商談が命がけであることの証でもあった。この亀裂を逃がすことなく、ソッロッツオは反対派のドン・ヴィトーを襲撃し、ドン亡き後に後継ぎと予想される、交渉に前向きな長男ソニーと再度、向き合おうと計画する。

それは三ヵ月後、人々が家路を急ぐクリスマスで賑わうなか実行される。暗黒街のボス、ヴィトー・コルレオーネは果物屋の前で、ソッロッツオの手先に五発の銃弾を撃ち込まれる。その日に限って、運転手役のポーリー・ガット―は病気で休み、次男のフレッドが代役を果たすが、動転して茫然自失の状態だった。

ドンの襲撃と時を同じくしてトム・ハーゲンがソッロッツオに拉致監禁され、和解のための仲介と麻薬ビジネスに乗り気な長男ソニーへの説得の役を担わされる。ソニーにはソッロッツオから電話があり、短気を起こさず冷静に事態を考えるべく報せがある。

ソニーはクレメンザと手下の病欠したポーリーをヴィトーの屋敷へ呼び出す。同じくブルックリンを縄張りとする古参のテッシオも呼び、手下に屋敷を守らせ、さらに病院にも警備に向かわせる。事態の緊張は高まっていく。

こっそりニューヨークで恋人ケイと過ごしていたマイケルは、新聞の報でこの狙撃事件を知り実家に向かう。ルカ・ブラージに連絡するが行方が知れない。

ヴィトーの切り札だった最強の暗殺者ルカ・ブラージは、ドンの指示でコルレオーネ・ファミリーからの寝返りを装い、タッタリア・ファミリーに近づき内情を探っていたが、ドン襲撃の前日、逆に騙し討ちに遭い、ブルーノ・タッタリアとソッロッツオの手下に殺害されていた。

この事件こそは、ニューヨークの五大マフィアの頂点に君臨するコルレオーネ帝国に対する挑戦であり、勢力の均衡を破るために仕掛けられた計画だった。

マフィアの盤石な組織とその命令系統、組織の統率と裏切り者の末路

ドン・ヴィトーは狙撃され生死をさまよう危篤状況だが、死んではいなかった。

暗黒街に激震が走ると共に、ソニーの有事の対応が試された。軟禁を解かれ戻ったトムは、ソニーから「パパが死んだらこの先どうなるか?」と問われ、トムは「ドンを失うことでのコルレオーネ・ファミリーの影響分析やタッタリアと向き合った場合の他ファミリーの動向予測」を語る。

襲撃の実行者ソッロッツオとその背後関係、家族の安否と守備体制、ファミリー内の裏切り者のあぶり出しと制裁。ソニーは、運転手役で病気で休んだポーリー・ガット―と上層のクレメンツァを疑う。

ファミリーの組織と運営は、頂上にドンを戴き、その補佐にコンシリエ顧問ーレがいて、階層的には三つの層ないしは緩衝地帯に分割されている。この階層で命令が系統化される。こうすることで、コンシリエーレ自身が裏切らない限り、トップに累が及ぶことはなく安全なのだ。

例えば、あのアメリゴ・ボナッセラの場合、暴行した二人の若者の裁きをどうするか、ドン・ヴィトーからの指示はトム・ハーゲン個人に与えられ、後刻、ハーゲンはやはり個人的にクレメンツァに伝え、これを受けて裁きの遂行をポーリー・ガット―に伝える。ポーリーが必要な人員を集め、命令を遂行する。

ポーリーは、クレメンツァの一家の幹部で、信頼のある優れた部下だった。ボナッセラの件も鮮やかに処理した。しかし彼は野心的にもっと多くの報酬を望んでいた。コニーの結婚式の祝儀袋に集まる現金に貪欲な眼差し向けていたほどだ。

クレメンツァが裏切ったとすれば、ポーリーに命令を与えたのはクレメンツァとなる。そこで、ソニーは二人を屋敷に呼出し身柄を抑えたのだ。

知り合いの電話会社に連絡をして二人の通話記録を確認して、ポーリーの単独の裏切りが確認された。クレメンツァに秘密裡に消すことを命ずる。するとクレメンツァは、冷静に自分の身内からロッコ・ランポーネを次の右腕に昇格させる。

そしてクレメンツァからロッコ・ランポーネに指示が出され、ロッコがポーリー殺害の首謀者となる。そしてロッコはポーリーに代わることで、新たに幹部の地位に昇格し、相応の報酬が約束される。

ソニーは、クレメンツァの裏切りではなかったことに安堵する。クレメンツァが裏切れば彼が管理するブロンクスの縄張りを失い、さらに敵対者となり勢力が半減することを意味する。

こうして、組織の「友情」「忠誠」の関係は、同時に「組織への貢献」「組織からの報酬」の関係でもあるのだ。

映画(PARTⅡ)でマイケルがケイといる寝室で銃撃を浴びるシーンで、「ファミリーと言っても皆、損得の金の感情で動いておりトム以外は誰も信じられない」といって、当時のドン・マイケルのコシリエーレであるトムへの信頼を確認する場面は、盤石そうなファミリーも金の力で動き脆弱であることの証左だ。

それゆえにまたオメルター沈黙の掟―を守り、裏切りは死に値するのだ。

父親を守る気持ちから、マイケルに激しい怒りと憎しみが沸き起こる

ダートマスの大学時代に知り合ったマイケルとケイは仲睦ましい。二人はクリスマス休暇のあいだに市役所でつつましい結婚式を挙げることを決めていた。マイケルは、今起こっていることー父が路上で撃たれ、長兄は殺人計画を練っているーをケイに伝える術がない。

父親が銃撃されたー生涯をかけてほしいままにした権力と、まわりの人々から取り付けた尊敬の代価ーその結果が、襲撃であり生死をさまよう現在の姿なのだ。

そんな世界にケイを巻き込めるわけがない。結婚について慎重になるマイケルだが、マイケルは同時にケイを深く愛してもいた。そのことはケイもまた同じだった。

二人の結婚に対して、ケイが両親に説明をする話し方を、マイケルが考えてみる。

「ただこう言えばいいのさ、イタリア人の家柄の、勇敢でハンサムな青年に出会ったって。ダートマスの優等生。大戦中、殊勲十字軍と名誉戦勝章を授与される。正直にして勤勉。でも彼のお父さんは悪い人間を殺さなくてはならないマフィアの首領で、時には政府の高官に賄賂を使い、そして仕事中に自分も撃たれて穴だらけにされました。でもそれは、正直で勤勉な彼の息子にはなんの関係もありません。全部覚えられそうかい?」

冗談めかして事実だけを並べた説明の仕方だ。何と滑稽で非現実的。この事件で、マイケルは自分の出自を憂い、ケイとの結婚が難しいことを実感しただろう。そしてこの後、マイケルはケイと三年間、会うことはなかった。

マイケルは一人、父の病院に向かう。驚いたことに誰もいない。テッシオの部下は誰一人いないのだ。ヴィトーの護衛の刑事たちもいない。

病室の父は無表情で不規則な呼吸に伴い、胸が浅く上下している。マイケルはソニーに連絡する。「ソッロッツオの仕業だ、ニューヨーク警察まで抱き込んだのだ」と考えた。

マイケルは自分の内に激しい怒りが、父親の敵に対する冷たい憎しみが湧き上がってくるのを感じた。

マイケルは看護婦を説得し病室を移動する。「マイケル、おまえかね?何が起きたのだ、どうしたのだね?」力強い父親の声がする。マイケルは事情を説明する。そして「ぼくがここにいるから心配することはありません」と言う。

急ぎ入り口に返す。そこにエンツォが見舞いにやってきた。危険を察したマイケルはエンツォを追い返そうとするが、エンツォは尚更、手助けをしたいと言う。ナゾリーネの一件で市民権を取ってもらった恩義に報いたいというのだ。二人は、ボディガードを装う。

こうしてソッロッツオの見廻りの車をかわすと、今度はパトカーがやってきて病院の入口は警察でいっぱいになった。警部は二人を排除しようとする。

「おやじを罠にはめて、タークからいくらせしめようというんだね、警部?」

マイケルはマクルスキー警部にしたたかに頬を殴られる。やがて手配された私立探偵たちとクレメンツァの弁護士がかけつけた。こうして、かろうじて難を逃れた。

警察権力の腐敗、その腐敗は麻薬による汚い金で買収された姿である。愛国のために志願し敵と戦ったマイケルにとって、大きな落胆である。物語では、殴られた頬のせいでマイケルの美しい顔の片側が潰されて醜くなり、それは数年間も放置されたままであり、マイケルはいまいましい記憶として刻んでいるようである。人々が信頼しているはずの公権力から、いわれのない暴力を受けたことの傷跡であり、不信の証なのだ。

この一件で受けた、マイケルの屈辱と憤怒、そして父親への愛情によって、知らずに運命の渦に巻き込まれていく。

父への愛情と命の安全を守るために、殺人を決意し実行するマイケル

病院の一件に腹を立てたソニーは、ブルーノ・タッタリアを殺害する。

ソッロッツオは手打ちの会見を申し出る。面談の相手にはマイケルを指名する。ソニーはその手には乗らないと、ソロッツオを消し全面戦争も辞さない構えとなる。

トムは状況を分析し「悪徳警官のマクラスキーはソロッツオに買収されてはいるが、我々は警察には手を出せない状況で、万が一、警官を狙うようなことになれば他のファミリーも黙っていず、社会の風当たりも強くなり懇意の政治家も離れていく」と言う。

「ここは感情に走らずに、冷静になってくれ」とソニーを説得する。しかしマイケルはトムの意見を否定する。

マイケルは「ソッロッツオもマクルスキーも二人とも殺すべきだ」と主張したのだ。

ソッロッツオを殺さない限りヴィトーの命の保証がないこと、最も懸念されるマクルスキー警部は麻薬に手を染める悪徳警官としての印象を作り同時に始末してしまうとの考えだった。

マイケルはソッロッツオとの会見を承諾する。人目につくレストランかバーで会見場所を設定し、武器をトイレに隠しておく。状況を見て、トイレに行き銃をとって返し、二人を暗殺する計画を披露する。

このときのマイケルは、まるでドン・コルレオーネの化身のようだった。

ソニーはマイケルのファミリーに対する行動を賞賛し、トムもしっかりした計画と評価するが、後の追求を考えると逡巡した。それでもマイケルの覚悟は揺るがない。

マイケルがソッロッツオとマクルスキー警部を殺害する計画が綿密に練られる。その後は、タッタリア・ファミリーとコルレオーネ・ファミリーの全面戦争が必至だ。

マイケルは殺人者になることを決意している。父親の命を左右する問題であり、マイケルがその解決をするのである。

ここでマイケルが描いていた人生の設計図はすべて破綻したのだった。

マイケルがマクルスキー警部に殴られた怒りから、この挙に出ようとしていると、ソニーもトムも最初は考えていた。そして最後までトムは、これはビジネスで私的なことではないと念を押す。しかしマイケルはこれを否定する。

「トム、だまされちゃいけない。仕事というものは、一から十まで全て私的なものなんだ。あらゆる人間の、生きていく上でのあらゆる営みはすべて私的なもので、それを人々は仕事と呼んでいるんだ」

マイケルはこのことをヴィトーに学んだという。そしてトムはマイケルに言葉を返す。

「やらなければならないことがあって、そしてそれを君がやるつもりなら、そのことを決してあれこれ話したりしないことだ。それを正当化しようと思ってはいけない」

この別れの言葉をもって、マイケルはソッロッツオと、マクルスキーが同席する会見に向かう。

これは私たちの日常に置き換えたとしても、含蓄のある会話であり、実は真実ではないのだろうかと思える。人生はいくつかの選択があり、その岐路に立つことがある。我々はつい何か別の理由や言い訳を探してしまうが、最終的には決定を促しているのは自らの意思である。客観的にみればその意思は私的なものである。それを生き様という。

マイケルにとってこの協議は「父親の安全の保証を取りつける」ものだったが、ソッロッツオにとっては「二.三日の時間稼ぎ」を狙ったものだと知る。ソッロッツォはこめかみに銃弾を撃ち込まれ脳味噌が飛び散り、マクルスキーは喉元そして脳天を撃ち抜かれ即死する。

マイケルは二度と戻れない運命の河を渡った、そして完璧に仕事をやり遂げて遂げた。

テッシオの運転で二十分後に、シシリー行きの船上にあった。マイケルはトムの手配でシシリーに身をかわす。こうして一九四六年の五大ファミリーの血で血を洗う凄惨は戦いの火蓋が切って落とされた。

こうしてヴィトーからマイケルへ代替わりが継承され、同時に運命に翻弄されたマイケルは、マフィアのファミリー・ビジネスの奥深くへ入っていくのだった。

●次を読む『ゴッドファーザー』原作の解説その2

●目次(概要と登場人物)に戻る⇒こちらから!