ジョージ・オーウェル『一九八四年』解説|自由な思考が剥奪される、全体主義の監視社会。

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作品の背景

『一九八四年』高橋和久訳、早川書房<ハヤカワepi文庫>巻末のトマス・ピンチョンの解説を要約すると以下の通り。

1903年6月25日、インド・ベンガル地方のネパール国境に近い小さな町モティハリに生まれる。阿片の一大生産地の中央部に位置していた。1933年、初めて著作となる『パリ・ロンドン放浪記』でジョージ・オーウェルというペンネームを用いる。

1949年に全体主義国家のディストピアの世界『1984年_Nineteen Eighty-Four』を描いたが、遡る1945年に『動物農場_Animal Farm』で商業的な成功を収めており、1946年に著したエッセイ「なぜ書くか」の中で「『動物農場』は、政治的意図と芸術的意図を融合してひとつの統一体を作ろうと試みた最初の本だった」と回想し、ロシア革命の憂鬱な末路を題材にした寓話だとした。

『1984年』では《ビッグ・ブラザー》の顔はスターリン似であり、異端の対象のゴールドスタインの顔はトロツキー似である。出版時期はアメリカのマッカーシズム(赤狩り)の最中で共産主義が取り締まられ、ウィンストンのような洗脳操作が行われる。

またスペイン内戦にも赴き、全体主義に反して民主主義を擁護する。そこでは、資本主義と闘う運動を装いながら現実には自己の権力と永続化に腐心する左派に反撥した。大衆は理想主義、階級格差に怒りながらも、低賃金を厭わない労働意欲につけこまれ裏切られる。もちろんファシズムへの傾斜を抱える人々を批判する。

イギリス労働党が資本主義に利用される人々の擁護のための闘争という初代の思想を忘れ、官僚主義、金権主義に染まり権力の維持に汲々きゅうきゅうとする思想を批判する。さらにその権力への執着が堕落を深め、スターリンの強制収容所やナチの死の収容所を生み出していったとする。

発表時期

1949年(昭和24年)に発表。イギリス作家、ジョージ・オーウェルの小説。それまでに6冊の小説、3冊のルポタージュ、数多くのエッセイ、書評を書いており、『1984年_Nineteen Eighty-Four』は最後の著作である。1944年に小説のテーマを固めており、結核に苦しみながら1948年に完成させた。「オーウェリアン」という形容詞は、全体主義的・管理主義的な思想傾向や社会を指すようになった。