フィッツジェラルド『グレート・ギャツビー/華麗なるギャツビー』解説|狂騒の時代、幻を愛し続けた男がいた。

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作品の背景

舞台は1922年である。狂騒の20年代と言われたこの時期は、経済発展が凄まじくアメリカが最も力強い時代だった。第一次世界大戦後、大量消費時代を迎え好景気に入り29年のウォール街の株式大暴落まで続く。社会、芸術、文化が狂乱する。ジャズ・ミュージックが花開き、戦争による恐怖への反動で刹那的な娯楽が栄えジャズ・エイジとも呼ばれる。

『グレート・ギャツビー』はまさにアメリカ文学におけるジャズ・エイジの文学であり、フィッツジェラルドはその象徴的なロストゼネレーション世代の作家の一人である。

経済の発展は西欧でも広がるが、主戦場のヨーロッパは戦後再興の経済であり戦費の返済もある。これに対して戦場になっていないアメリカは復興経済の物資や融資の供給側でありヨーロッパとの繋がりと共に大きく繁栄した。

アメリカでは大量の復員兵が労働力となり、同時に消費力となる。発明や新技術も著しく自動車産業の拡大、ラジオの普及、映画による大衆ブームが起きる。都市化も頂点に達し、人々は都市に憧れる。ニューヨークとシカゴは二大都市となり金融や保険産業の規模が拡大しホワイトカラーが都市では標準となった。

女性の参政権が認められ社会進出も目覚ましく、自由な女性の生き方を象徴するものとしてフラッパーが流行する。同時に禁酒法も施行され修正第18条によりアルコールの製造、販売および輸出入が禁じられた。この反動で潜り酒場(スピークイージー)が増えていった。失われた世代として、戦争の世界に幻滅しアイロニカルな考え方がパリに住んだアメリカの著名人に広がる。アーネスト・ヘミングウェイ、F・S・フィッツジェラルド、ガートルード・スタインがいた。

物語では、最後にニック・キャラハンが「トムもギャツビーもデイジーもジョーンズも僕も西部の出身者である」という場面があるが、全員が大都市を目指したのである。そのなかに資産家階級にトムがいて、成功を夢見て投機やスピークイージー(ドラッグチェーン)のような時流に成り上がってきた階級のギャツビーがいて、時代の象徴である証券会社に勤めはじめるニックがいる。

デイジーは良家の子女で、ジョーダンは自立した女性としてプロゴルファーでフラッパーの象徴。自動車修理業のウォーレン夫妻は、労働者階級である。真面目なジョージは贅沢な暮らしに憧れるマートルには、うだつのあがらない相手に映り、彼女も上流の暮らしを夢見ている。ニックとジョーダンの恋愛も進行するが、ニックは彼女の不正直を受け入れることができない。

好景気に沸いたこの時代に金や贅沢が成功の証となる中で、戦争という惨禍を経験した文学者たちがその栄華と退廃と喪失を表現している。富と名声を勝ち得るギャツビーはフィッツジェラルドであり、デイジーは妻のゼルダである。ゼルダの社交好きによる放蕩ぶりは毎晩パーティに繰り出し派手な遊びに暮れる物語そのものだが、作家としての客観的な視点のフィッツジェラルドはニックである。

その現実から『グレート・ギャツビー』という20世紀のアメリア文学を代表する作品が誕生している。

発表時期

1925年(大正14年)4月、出版。1920年にデビューしたフィッツジェラルドは、22年にニューヨーク郊外のロング・アイランドのグレートネックに住むが、そこが作品の舞台となっている。1923年に構想され翌年の春、妻ゼルダとフランスに渡って本格的に執筆する。当時28歳のフィッツジラルドの傑作で20世紀最高の文学といわれアメリカ人なら必読の小説とされる。

戦後のニューヨークで夢を追い求めて成り上がっていく男の生き方をアイロニカルにかつ大きな称賛で物語っている。物語は、フィッツジェラルドの人生を題材にしており、陸軍に入隊(内地勤務)、ゼルダと出会い婚約するも、生活力に疑問を抱くゼルダに婚約破棄される。

その後、発表した1920年3月の長編『楽園のこちら側』がベストセラーとなり1921年にゼルダと結婚。1922年の2作目の長編『美しく呪われし者』を経て本作の発表となる。

若者の気持ちを代弁するフィッツジラルドは流行作家であり、妻のゼルダはフラッパーの象徴だった。発表当時はこれまでのハッピーエンドの短編が主流に対して、重厚なバッドエンドが受け入れられず大きな売り上げにはならなかった。評価を受けたのは死後10年経ってである。

妻のゼルダとニューヨークの社交界での奔放な生活を埋めるようにフィッツジェラルドは短編を書き続けた。その後、ゼルダは精神を病み療養施設に入所、フィッツジェラルドはアルコールが手放せず心臓麻痺により44歳で逝去する。