映画『レスラー』あらすじと解説/ここが見どころ!

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概要>人気レスラーだったランディは20年後の今も、現役を続け孤独な生活を送る。ある日、心臓発作でバイパス手術を行い引退を決意。プロレスを失い、家族を失い、思いを寄せる女性を失った彼が選んだ道は。不器用な男の哀愁とカタルシス、ミッキー・ローク復活の作品。

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登場人物

ランディ・“ザ・ラム”・ロビンソン(ミッキー・ローク)
1980年代に有名だった人気レスラーで、今は老いて仲間と町のプロレス興行をしている。
キャシディ(マリサ・トメイ)
ランディが好意を寄せているストリッパーで一児の母、同じように孤独に生きている。
ステファニー・ラムジンスキー(エヴァン・レイチェル・ウッド)
ランディの一人娘だが、ランディの放蕩で父への愛情はなく疎遠になってしまっている。
ジ・アヤトラー(アーネスト・ミラー)
中東の獣と呼ばれ、ランディと20年前に伝説の試合をしたレスラーで今は引退している。

あらすじ(ネタバレあり)

1980年代に一世を風靡したアメリカの国民的ヒーローのプロレスラー、ランディ・“ザ・ラム”・ロビンソン。1988年4月6日の中東の獣、アヤトッラ―とのマディソンスクウェアガーデンでの世紀の一戦は、超満員のなか今も伝説の名勝負としてプロレス史に刻まれている。

年老いたランディは、今も現役のレスラーとしてリングに上っている。

20年後

ランディは、今でもプロレスを続けています。 老いた体に、試合の傷が痛々しい。 今日も観客は少ないながらも精一杯のパフォーマンスで沸かせました。小さな町の体育館でプロレス興行を行い、僅かばかりのギャラと、スーパーマーケットでのアルバイトで暮らしています。

生活は苦しく、家賃を滞納してアパートを追い出されトレーラーハウスで一夜を明かす羽目になります。ランディは、体に巻いたテーピングを外し、鎮痛剤をビールで流し込み昔の栄光を思い出します。

翌朝、ちびっ子たちに起こされてプロレスごっこをして遊んであげます。それでもランディは、子供達の人気者です。スーパーの時間シフトを長くしてもらい少しでも生活の足しにと考えます。

今日も試合会場に行って、仲間たちと挨拶をします。往年のレジェンドであるランディに、仲間の選手たちはリスペクトの念を惜しみません。ランディも気軽に仲間と打ち解けます。プロモーターは、さっそく今日の試合を説明します。今夜は8試合が組まれていて、ランディは8試合目のメーンイベントで「トミー対ランディ・ザ・ラム」のカードです。

ランディは体のそこここにテーピングを施し準備します。肉体は長いレスラー生活で満身創痍です。早速、対戦相手のトミーがやって来て、試合の段取りを話し合います。レスラーたちはそれぞれの試合の段取りの打ち合わせをします。仕掛ける技、反撃のタイミング、フォールまでの流れ。

プロレスリングは、予め台本がある。いかに観客を興奮させて楽しませるかのエンタティメントです。

ランディは、段取り通り小さなカミソリを左手首のテーピングの下に仕込む。いよいよメーンイベント。ランディは人気者だ。筋肉と筋肉が至近距離でぶつかり合う。ヒール役のトミーは容赦なくランディを攻める。観客のトミーへのブーイングとランディコールが沸き起こる。

マットに叩きつけられた後に、ランディはそっとカミソリを取り出し自分の額を切る。コーナーに額をぶつけられ、切った額から鮮血があふれる。ランディの反撃が始まり、最後はトップロープに上り必殺技の“ランディ・ジャム”を見舞いフォールで勝利する。

満身創痍と薬で、ランディは心臓発作を起こし再起不能を宣告される。

そこにファンフェスタとして、20年ぶりに、あの世紀の一戦の「ランディとアヤトッラ―の記念試合」をプロモーターが企画する。

ランディは、試合のグッドパフォーマンスを仲間に称賛され、そのまま気心の知れたキャシディに会いに行く。孤独なランディにとって、バーでストリップをやっているキャシディは、唯一の心の安らぎだった。

その日のキャシディは、子どもほどの年齢の若者を相手に侮辱されながらも金のために接客をしていた。そこに、ランディが乗り込み若造どもを追い出す。仕事を邪魔されたことを怒るキャシディだが、彼女もランディに好意を持っている。

額の血に気づいたキャシディは、“ヤラセ”でしょうと疑うと、ランディは歴戦の傷を誇らしく見せる。キャシディは、イエスキリストの処刑までの12時間を描いた映画「パッション」のようねと言う。キリストは耐える、まるで「生贄のラムね」とランディに話す。

ジムメイトからアンディは筋肉増強剤やホルモン剤などを購入し、ステロイド注射をしてダンベルを上げ、日焼けサロンに通い肉体を維持する。またDIYに行って凶器となるようなフライパンなどの金物を購入する。プロレスは観客を興奮させるショービジネスである。

次の試合はハードコア。対戦相手からステープル・ガン(ホッチキスのデカいやつ)を使用して体に打ち抜くアイデアを採用します。ビンタの応酬から始まり、ホッチキス、フォーク、ゴミ箱、ハシゴなど、血で観客の興奮を煽る凄惨な試合を展開していく。そして今日も勝者には「伝説のランディ“ザ・ラム”ロビンソン」の名がとどろく。

傷だらけのランディは、試合後、控室で嘔吐し心臓発作を起こしそのまま意識を失います。気がつくとベッドの上。心臓のバイオパス手術を受けており、医師からは、レスリングを続けることは命取りになると宣告されます。

引退、仕事、娘、恋人、すべてがうまくいかず自暴自棄になるランディ。

退院したランディは、ファイトマネーを手にして滞納した家賃を払い部屋に戻ります。

久しぶりにキャシディを訪れ、心臓手術を話し孤独を紛らすランディに、「大切なのは家族」だとキャシディに言われて、ランディは疎遠になっている一人娘のステファニーのことを思います。

ランディは久しぶりにステファニーに会いに行き、心臓発作のことを告げるが、面倒を見る気はないと冷たく言われる。長い年月、娘の誕生日を祝うこともなく、好き勝手に生きてきたランディにとって、それは当然の報いであった。

往年のレスラーたちのサイン会にランディも参加するが、来場者は少なく、仲間たちも故障した体をさらしての惨めな催しだった。ランディは、長いプロレス人生を思う。

ランディは、キャシディのバーを訪れ、ステファニーに拒絶されたことを告げる。それでも洋服をプレゼントしたらというキャシディのアドバイスで、一緒に服選びに出かけることになる。ランディは、ステファニーの“S”のイニシャルのついたブルゾンを、キャシディは黒のピーコートを薦め、その二つを購入する。二人はバーでひととき安らぎを共にする。80年代の“ガンズ・アンド・ローゼズ”のBGMに合わせて歌い踊る。キャシディはランディとキスを交わすが、客とは接触しないと思いとどまって店を出ていく。

ランディは、アルバイトのスーパーで、フルタイムで働くことをマネジャーに希望する。そして、気はすすまなかったが惣菜売場で接客の業務を行う。プロレスしか知らないランディにとって外の世界と接することは苦手だった。それでも最初は戸惑うが次第に慣れてきて要領がつかめていく。

ランディは、ついに現役を引退することを決意する。

ランディは、ステファニーに会いプレゼントを贈る。そして昔、一緒に歩いたボードデッキを散歩する。そうして娘に父親としていたらなかった過去を詫び、自業自得でボロボロになり孤独になった今、何とか関係を取り戻したいと願い、次の土曜日に食事をする約束を取り付ける。

その後、キャシディにステファニーのことを御礼に行き、恋人になることを願うが、キャシディは客との付き合いに一線を引く、苛立つランディは、キャシディに失礼な言葉を浴びせ彼女を怒らせてしまう。

そして、唯一の癒しの場であるレスリングの試合会場を訪れる。仲間と共にバーで行き、そこで出会った女性とコカインを吸いファックする。気がつくと彼女の家で、そこを抜け出し自分のアパートに戻り迂闊にも眠り込んでしまい、目が覚めた時にはステファニーとの約束の時間は過ぎ去っていた。

急いで駆けつけるランディだが、2時間も待たされたステファニーは、ランディが何も変わらないことに絶望して、今度こそ絶縁され二度と修復不能な関係になってしまう。

自身の責任ではあるが、何もかもがうまくいかないランディは、スーパーの総菜売場でも客にいらつき、ついに自分を往年のレスラーのランディだと見破る客のふざけに我慢ならずキレてしまい、自ら拳をミートスライサーに殴りつけ血まみれになり自暴自棄に店を辞めてしまう。ランディは、どうしようもない焦燥感にかられていく。

ランディの居場所はリングしかない、不器用な男の最後のパフォーマンス。

ランディが、安らぐことのできるのはレスリングしかなかった。医者から命の危険を告げられていても、選ぶ道はこの道しかなかった。ランディは、アヤトッラ―の20周年記念試合を承諾する。

キャシディはランディのもとにやってきて仲直りを求めるが、それでも、これまで通りの関係でしかいることはできないと伝える。ランディはうなずき試合の案内チラシを渡して会場へと出発する。

ランディは、アヤトッラ―と再会し、記念試合の段取りを話し合う。キャシディは、ランディを心配し会場へ向かう。控室に間に合ったキャシディは、ランディの心臓を心配するが、「俺にとって痛いのは外の現実の方だ」と話す。「もう誰もいない」と話すランディ。「私がいるわ」と制止するキャシディだが、ランディは観客が待つリングへと向かう。

そしてランディは、マイクに向かい観客に応える「ここに立つことに感謝する。多くの人に“もうムリだ”と言われた。これしかない。生き急いできたツケはむろん払うしかない。この人生、大切なものすべてを失くすこともある。でもここに立っている俺はまだラムだ。俺に“辞めろ”という資格があるのはファンだけだ、ここにいるみんなが、俺を戦わせてくれる俺の大切な家族だ。愛しているよ、ありがとう。」と。観客席で聞くキャシディは、ランディの生きざまに涙を浮かべ会場を去っていく。

因縁の記念試合が始まり、段取り通りの一進一退の攻防になるが、ランディの様子がおかしくなる。心臓の調子が悪く続行が不可能になる。急いで、ピンフォールを催促するアヤトッラ―に対して、最後の力をふりしぼり、ランディはトップロープに駆け上がる。

観客を見つめ、これが最後のパフォーマンスと“ラム・ジャム”をきめるべくダイブする。

解説/ここが見どころ!

●ショービジネスとしてのプロレスとそこを死に場所にする不器用な男。

この映画のアメリカのプロレスリングは、あらかじめ作られた台本に則られて行われている「エンターテインメント」であることを明らかにしています。日本のプロレスのように競技性を前面に押し出しているものとは異なっています。

試合の前に、綿密な段取りを打ち合わせ、肉体改造のためのステロイド剤や苦痛を和らげる鎮痛剤などの薬物、体を魅せる日焼けマシンさらには凶器となる小道具をDIYで物色するシーンなど、観客を喜ばせる興行としてのひとつの職業であるプロレスの舞台裏を赤裸々に描きます。

1980年代の人気スターだったランディは、老いた今もアルバイトを続けながらプロレスを行っている。半生をプロレスで過ごし離婚を経験し一人娘とも疎遠で、唯一、想いを寄せていキャンディともうまくいかず、結局はリングでファンに見守られて果てることを選ぶ。

傍目から見れば、その姿は痛々しいほど不器用な人生そのものということになる。

しかしランディは、プロレス興行の仲間たちとも和気あいあいで、仲間たちも、彼をレジェンドとして尊敬している。長年のステロイド剤の使用が影響し心臓のバイパス手術を受け引退を決意する。そして普通の生活を送ることを努力するが、仕事も恋も家族もうまく行かない。自分にとって、プロレスというパフォーマンスだけが、かけがえのない存在の場であることを確認させてくれる。

ファンの前で死ぬことを選ぶランディは、フィニッシュの決め技のためにロープを駆け上る。トップロープから目に写る風景は、拍手の鳴りやまないファンの歓声と、そして既にいなくなった心を寄せた女性キャシーを思いながら、「ラム・ジャム」でダイブする。

生き方が下手な男の物語だが、何故か、そんな人生を少しだけ尊重してしまう。

●ミッキーローク演じるランディにショービジネスの虚実をせつなく描く。

その姿は、ミッキーロークと重なる。1980年代には「イヤー・オブ・ザ・ドラゴン」、「ナインハーフ」、「エンゼル・ハート」等の話題作で主演を務めた。1991年にはプロボクサーに転向し怪我がもとで整形手術を受けている。そして2008年にこの「レスラー」で復活しアカデミー賞候補となる。

老いたレスラーの痛々しいまでの肉体に、そうしか生きられない哀愁を見せつけている。80年代のミッキーロークの作品を見たファンは、彼自身の俳優とボクサー、そして転落からの復活と作品の中のランディを、実際のミッキーロークに重ねたような印象を受ける。アロノフスキー監督が、主演をミッキーロークにこだわった理由でもある。

甘いマスクと低音のボイスでセクシーなキャラクターとして一世を風靡するが、ミッキーロークには、なぜか女性を受けつけない匂いがする。この個性には、自己中心で、自暴自棄、そして堕落。世間はそれを自業自得と呼ぶ。

学習せず利口でない、生きるのが下手な不器用な者たちがもつ哀愁と魅力である。

虚実が入り混じる商業主義、等身大の自分には抱えきれない世界。華やぐ銀幕の映画の世界と、その映画の作品として、惨めな舞台裏をさらけだすプロレス興行の世界。異端児として生きたハンサムなハリウッド俳優の孤独、不器用さ、そして夢を追う姿が二重写しになる。役者とその人生、作品を通して、観客に重なる作品である。

ダーレン・アロノフスキー監督
映画『レスラー』2008年公開のアメリカ映画
題65回ヴェネツィア映画祭金獅子賞、ゴールデングローブ主演男優賞受賞
レスラーでしか生きていけない不器用な男を演じ哀愁とカタルシスをこめた作品です。