映画『ギルティ』解説|三者三様のGUILTY or NOT GUILTY、その罪の自覚。

デンマーク警察の東部緊急通報指令室に一本の緊急コールが入ってくる、そこから事件は進行し思わぬ結末を迎える。『THE GUILTY/ギルティ』のテーマは題名の通り『罪』だが、そこには登場する三者三様のGUILTY or NOT GUILTYがあり、その審判は観衆に委ねられる。

解説

視覚がなく聴覚だけで想像を掻きたてる、ワンシチュエーション映画。

この映画は指令室とそこで働く数人のオペレーター以外に映像はなく、全編のほとんどがヘッドセットで外部と通話をする一人の男の表情や態度を通して心理変容を追う。

三者三様とは、オペレーターのアスガー、そして緊急コールをかけてきた女性イ―ベン、その夫のミケルだ。ネタバレ注意で、想像を含めて解説します。

この指令室では入電された種々の案件対応と、必要に応じた管轄の警察への連携を業務とする。視覚を閉ざされた聴覚だけの世界と、立ち上るパソコン画面以外に情報はない。

映画を観る我々もオペレーターと同じく、事件を想像しながら神経を集中させていく。

コペンハーゲン警察のアスガーは警官の身ながら、謹慎中なのか現場を離れ異動でこの指令室で業務をしている。裁判を控えているようで男は何かを憂い悩んでおり、鎮痛薬で気を休めようとするが神経が過敏で苛立っている。

指令室の同僚も皆、アスガーの身の上を知っているようだが、観衆には明かされない。

様々な種類の緊急コールが入ってくる。アスガーは常に冷静であろうと対処する。パソコンには発信元を一定圏内まで表示するGPS画面が表示されるが、位置の特定まではできない。

突然、女の声で緊急コールが飛び込んでくる。その声は恐怖におびえ震えている。近くに男もいて息づかいが聞こえる。アスガーはGPSで確認をしながら、女を刺激せず、男に気づかれぬように、冷静に情報を収集していく。

携帯番号と紐づくデータ画面にはイ―ベン・オスタゴーの名といくつかの個人情報が表示される。女は誘拐されており、シェラン島北部を白いワゴン車で移動しているようだ。やがて車両の特徴を掴み管轄の指令室に報せ、パトカーを向かわせ高速道を降りたところで捕捉するが、間違い車両だった。

画面に登録されているイ―ベンの自宅電話番号にかけてみるとマチルデという6歳の女の子が出る。マチルデは、パパがママを殴り、弟の部屋には入るなと言い残し出て行ったと泣き、パパがママを殺したらと心配する。

マチルデの記憶から男の携帯番号も分かり、名前はミケル・ベルグと判明、イ―ベンと別居していることが分かり、登録情報から車のナンバーも分かる。

物語はサイコサスペンスの様相を帯びてくるが、不確かなまま深層に入っていく。

アスガーもどこか訳ありだ。直属のボスがいるコペンハーゲン本部に連絡を取り、マチルデの家へパトカー派遣を頼むが、逆に深入りを制止され新しいカウンセラーが必要かとたしなめられる。明日法廷に出れば現場復帰が可能になると意味深だ。アスガーは何かに悩み、少しばかり精神を病んでいる。

イ―ベンの携帯電話にコールバックするが留守録になっている。何となく留守録メッセージのトーンが気に障る、少し気分がハイなテンションだ。北シェラン指令室と連絡を取るが、白いワゴンはまだ見つからない。

しびれを切らしたアスガーは、ミケルの携帯電話に直接連絡し会話をするが、通話を切られてしまう。アスガーは相棒のラシードに連絡を取り、ミケルの自宅へと向かわせる。

ラシードは明日の法廷の証言を頼まれており、虚偽の証言に自信がなく罪悪感からか酒を煽っているようだ。それでもアスガーはラシードに、ミケル・ベルグの家の中を調べるよう強引に頼む。

マチルデの家に警察が到着する。警官に家の中を調べさせ部屋を確認させる。あろうことか、まだ赤ん坊の弟のオリバーは無残にもナイフで切り裂かれて死んでいた。

神の前に罪の自覚を問う、三者三様のGUILTY or NOT GUILTY 。

アスガーはシフト明けとなるがこれを拒み、別室のカーテンを下ろし暗闇の中で、ミケルに連絡を取り声を荒げて投降を試みるが、通信は切れてしまう。

ミケルの家に着いたラシードと連絡を取り、未開封の郵便物から手掛かりを探させる。

一刻を争うなかで、イ―ベンと連絡が取れて車のサイドブレーキを引き脱出を試みさせるが失敗し、トランクに監禁される。

暗がりを走るワゴン車、閉じ込められたトランクの中、アスガーは手元にあるレンガでドアが開いたときにミケルを思いっきり殴りつけるようにイ―ベンに指示し、決心のつかない彼女を楽しい話題をしながら落ち着かせるが、その会話は何かが変だった。

イ―ベンの話では、オリバーが「お腹のなかにヘビがいるというので取り除いてあげた」と言うのだ。ヘビは聖書のなかでアダムとイヴに悪事を薦める、いまわしい悪魔の誘いだ。

車のトランクのドアが開いて、悲鳴と共にレンガで殴る音がする、イーベンは逃げた。

相棒のラシードからの連絡が入り、親権訴訟に対する弁護士の手紙を確認し、ミケルは暴行罪による服役で訪問権を失っており、ミケルとイ―ベンが向かう先のシェラン島の北部には精神科の施設があるという。イ―ベンは北シェラン精神医療センターに入院していたのだ。

聴覚だけの物語は、想像に訴えて観衆をも巻き込んでいく。そして意外な展開になる。(*ネタバレ注意)

自身の判断の間違いに茫然自失のアスガーに、ラシードから連絡が入る。悩みぬいたアスガーは明日の法廷で虚偽の証言をしないことを頼むが、供述書との齟齬になるとラシードは憤慨し否定する。

イ―ベンからのコールがアスガーに入ってくる。暗闇の別室から出て皆のいる部屋でアスガーは回線を繋ぐ。彼女ははじめて自身の両手の血に気がつき、「自分が我が子を殺した」ことを自覚する、そして陸橋から飛び降り自殺を謀ろうとする。「故意からではない」と懸命に翻意をうながすアスガー。

緊急指令室には仲間たちがいたが、彼女の説得のためにアスガーは構わず話を始める。

「僕は人殺しだ」とアスガーは話す。殺さなくてもよい19歳の若者を正当防衛を装い殺したと言う。人生にうんざりして何かを取り除きたかったからと言う。何かきっと悪いものを。イーブンは「ヘビ?」と問う。「そうだ!」と答えるアスガー。

ここで三者三様のGILTY or NOT GILTYが明らかになる。

アスガーの殺人は、正当防衛の範囲を超えた犯罪である。

正義感の強さか、それとも日常の鬱憤からの行為か、それは分からない。アスガーは不要な射殺であったことを認め、この行為は殺人だと知っている。警察組織は、社会問題に発展するのを忌避するために、上司も同僚も正当防衛として口裏を合わせて無罪の準備を進めている。だが罪の自覚が、アスガーの精神を苦しめ捉えて離さない。

ミケルはイ―ベンを殺すか、病院に戻すかを悩んでいる。

何故、警察に通報しなかったと詰問するアスガーに、ミケルは「医者も弁護士も自治体も何もしてくれない」と対応を非難する。社会では悲惨な殺人が起こってはじめて事件となるのだ。多分、ミケルは過去にも彼女を止めようとして暴力を振るい前科となり、今回はイ―ベンが殺人者となったことで、妻を病院に返すか、あるいは殺害して、罪を一人で背負うか苦しむ。まさに殺人未遂の状況である。

イーベンの殺人は、精神疾患からの事故であり故意ではない。

ミケルの言葉を借りれば「イ―ベンはオリバーを助けてあげたいと信じて」行ったことで罪の自覚は無いと言う。彼女はオリバーが苦しんでいたからと考えており、健常ではない意識下の出来事だった。彼女は罪の意識に苛まれ、「あなたを愛している」とアスガーに言葉を残し自殺を謀る。

アスガーは絶望の底に堕とされる、懺悔にも似た手を組む指に結婚指輪がはっきり映る。北シェラン指令室に連絡をとると、パトカーがイ―ベンを無事に保護したと伝える。

アスガーはひとりの女性の命を救うことができた。彼はさながら陪審員のように同僚が視線を向ける中、ゆっくりと席を立ち上り、部屋を出て戸口の方へ向かい、携帯電話で誰かを呼び出すところで物語は閉じられる。

電話の相手は家を出て行ったアスガーの妻パトリシアだろう。アスガーもヘビに誘われ犯した罪を告白し、正当な法と神の裁きを受け入れることを決意し、家族を取り戻そうと考えたのだろう。