映画『続深夜食堂・豚汁定食』あらすじと解説/ここが見どころ!

概要>歌舞伎町ゴールデン街の裏通りの深夜食堂、無口なマスターと常連と毎回の訳あり客。今風、お江戸の人情噺し。今回は多部未華子出演の第三話『豚汁定食』をご紹介します。ゆるくて、ほっこり、世間が恋しくなる。この際、テレビドラマを全編、ご覧になるのもおすすめです。

登場人物

マスター(小林薫)
深夜食堂の寡黙な店主、本名、生年月日など一切不明、左目に切り傷の後がある。
小寿々(綾田俊樹)
お店の常連客で、新宿2丁目でゲイバーを営んでいる、甘い卵焼きが好物。
剣崎竜(松重豊)
お店の常連客で、鬼島組の幹部、地回りのヤクザ、赤いウィンナーが好物。
ゲン(山中宗)
お店の常連客で、竜の弟分。感情の起伏が激しい。きんぴらごぼうが好物。
マリリン松嶋(安藤玉恵)
お店の常連客で、「新宿ニューアート」の看板ストリッパー。タラコが好物。
忠さん(不破万作)
お店の常連客で、マリリンのファン、いろいろと街の情報通。
お茶漬けシスターズのミキ(須藤理彩)
お店の常連で、お茶漬けシスターズの一人、いつも梅茶漬けを頼む。
お茶漬けシスターズのルミ(小林麻子)
お店の常連で、お茶漬けシスターズの一人、いつもたらこ茶漬けを頼む。
お茶漬けシスターズのカナ(吉本菜穂)
お店の常連で、お茶漬けシスターズの一人、いつもシャケ茶漬けを頼む。
塙千恵子(余貴美子) 
老舗料亭「ほおづき」の女将で、マスターに好意を持つ。みちるを店に引き取る。
栗山みちる(多部未華子) ※今回の主人公
マスターに拾われ「めしや」で働きその後、「ほおづき」の料理人見習いとなる。
小川夕起子(渡辺美佐子)
お金に困った息子に頼まれたと、詐欺に引っかかる福岡から上京してきた老婆。
小川哲郎(井川比佐志)
夕起子の亡き夫の弟、息子のことを知りつつ、東京まで夕起子を迎えに来る。
小道(宇野祥平)
フリーのカメラマンで、かずみに好意を寄せている。
金本(金子清文)
サラリーマンで、マスターの味を楽しむ。小道と仲がいい。
かずみ(谷村美月)
大阪出身で、性格のはっきりした浪速っ子でボーイッシュな感じ。
小暮(オダギリジョー)
よもぎ町交番勤務、飄々としているが人情味のあるおまわりさん。
野口(光石研)
新宿署の刑事、ヤクザの竜とは高校時代の親友。
夏木いずみ(篠原ゆき子)
刑事・野口の相棒、野口にやたらと絡む。

あらすじ(ネタバレあり)

深夜食堂は、もとはビックコミック連載の漫画。テレビドラマは、第1部~第3部まで全30話あります。舞台は、新宿ゴールデン街にある食堂。店の名前は“めしや” マスターのナレーションで始まります。

「営業時間は夜12時から朝7時頃まで。人は”深夜食堂”って言ってるよ。」

「メニューは、これだけ。あとは勝手に注文してくれりゃあ、できるもんならなんでも作るよ、 ってぇのがオレの営業方針さ」

「客が来るかって?それがけっこう来るんだよ。」

と続きます。物語の中では、マスターの本名、素性、経歴など一切、語られません。

マスターは、なぜか左目に切り傷の跡がありますが、理由は明かされません。作務衣を着たマスターの言葉少ない渋い演技と、夜な夜ないろんな人がやってきて、いろんな悩みがありますが、人情の機微に触れ立ち直っていきます。

定番メニューは「豚汁定食600円」だけ。あとは、一話ごとのテーマに、料理が一品あって、うまい役者が話のネタを提供。一話が30分程度の構成、それぞれに、いい味が出ています。

今回は、多部未華子出演の深夜食堂第三話「豚汁定食」篇をご紹介。

福岡から上京した夕起子は、“来て来て詐欺”にあってしまいます。

東京駅に着いた夕起子は、不慣れな携帯電話を触りながら男と連絡をとる。

そして夕起子は、息子の同僚と名乗る男と落ち合います。お金に困った息子に頼まれ、福岡から上京してきた年老いた夕起子は、息子の代わりに受け取りに来た男に200万を手渡してしまいます。

帰り道のタクシーの運転手は、博多への新幹線の最終時刻は間に合わず、話を聞き心配して、よもぎ町交番の小暮のもとへ夕起子を届けます。どうやら夕起子は、さきほどの男から、“来て来て詐欺”の被害にあったようでした。

ちょうどそのころ、めしやの二階では、 新宿署の刑事の野口と相棒のかずみが、 詐欺の容疑者の張り込みを続けています。かずみは、非番を呼び出され披露宴帰りの服装でかけつけており、野口に絡みます。野口もかずみの態度がいちいち気にかかり、この二人はそんなへんてこなコンビです。

小暮は、夕起子を“めしや”に連れていき、この店は何でも作ってくれるからと世話し、マスターにお願いします。夕起子は「豚汁定食」をいただき、泊るところを、お茶漬けシスターズにカプセルホテルに案内され、無事に一夜を明かします。

翌日のめしやは、“来て来て詐欺”の話題になり、店に来ていた千恵子とみちるも話に加わります。

みちるは「なぜカプセルホテルなんですか二階に泊めてあげればいいのに、空いてるでしょう」と冷たいマスターに文句を言います。二階は刑事コンビの張り込み中とは言えず、マスターも返事をにごします。

夕起子は、みちるに親切にしてもらいながら捨てた息子を想いつづけます。

そこに夕起子が現れます。夕起子は「息子と連絡が取れるまで東京に居ようと思う」と話します。そんな 夕起子には、どこか訳ありのようです。

料理人として修業中のみちるは、夕起子を自分のアパートに泊め親切にもてなします。布団は夕起子に、自分は寝袋に寝ます。そして新潟のおばあちゃんから送ってもらったという日本酒で二人は乾杯します。みちるは、まるで新潟のおばあちゃんを思うように、夕起子は、まるで子供から親切にされるように。

一方、めしやの二階では新宿署の刑事二人が、今日も張り込みを続けています。

夕起子は、みちるに朝食をつくり、それから遊覧船で隅田川下りをします。みちるは、息子の住所も連絡先も分からないという夕起子を不思議に思います。認知症ではないかと心配するみちるは親族に迎えに来てもらえないかと小暮に相談します。

そのころ、張り込みを続けていた野口とかずみは、 潜伏していた詐欺の容疑者を捕まえてみると、犯人の男は、夕起子を騙した男でした。

そして小暮の尽力で、 福岡に住む夕起子の義理の弟、哲郎に連絡がつき迎えに来てもらいます。

夕起子は、車の窓越しに息子に再会しその幸せな暮らしに安心します。

哲郎の話で分かったことは、夕起子には若いころ亭主と息子を捨てて駆け落ちをした過去があり、以来、息子とは音信不通で、一度だけでも会いたい一心で上京をして、そこで起こったのが、“来て来て詐欺”の被害でした。

 夕起子は、捨てた息子が忘れられません。実は、癌で亡くなったという哲郎の兄(=夕起子がかけおちした亭主)が、死ぬ前に興信所を使って夕起子の息子の住所を調べ、弟の哲郎に教えていました。そして哲郎が以前、 夕起子の息子に連絡を取った時に、「自分を捨てた母親に会う気はない」と伝えられていたことを、めしやのマスターに告げます。

義弟の哲也が、夕起子に会います。夕起子は、よもぎ町交番で小暮と話したときに騙されたと分かったが、それでも息子の居る東京で同じ空気を吸いたかったと打ち明けます。

駐在の小暮の厚意で、息子を探し訪れます。そこは閑静な戸建ての住宅街で、大きくりっぱになった息子と可愛い孫、そして奥さんとの幸せな姿がありました。夕起子はタクシーの窓越しにじっと見ます、そして見届けて安心します。

みちるは「おすそ分け」といって、手から手へ優しくすることを話します。

福岡に帰る前夜、 夕起子とみちるは別れを惜しみます。

みちるに感謝し、お礼のお金を差し出す夕起子に、みちるは「おすそ分け」といって遠慮します。それは、みちるがマスターに優しくしてもらい、今度は自分が夕起子へ優しくすることだという意味でした。

博多へ帰る朝、夕起子は、“めしや”を訪れます。息子を捨てて男と駅で待ち合わせをした遠い日の出来事を思い浮かべながらマスターに話します。そして「命よりも大切なものを捨ててしまった女やけん」と言いながらも、東京に来て良かったとマスターに感謝します。

「マスターがいるから、ここに皆集まってくる。この中に混ぜてもらってうれしかです」と夕起子は、人情に感謝の言葉を残します。マスターは「夕起子さん、食べたいものがあったら言ってよ、できるものなら何でも作るから」と言います。

夕起子は「豚汁定食を」を注文します、それは、想い続けた息子の好物だったです。

解説/ここが見どころ!

老婆を演じる渡辺美佐子の巧さに、心優しい多部未華子の孝行ぶりがいい。

この「豚汁定食」編では、渡辺美佐子の演技が秀逸です。自分のまったくの身勝手で、幼い息子を残して駆け落ちした、そんな女を演じます。それでも、人の人生は、その人なりの後悔もあります。老いて息子が忘れられず、詐欺にあいながらも東京に住む息子に一目会いたさに滞在します。

そしてタクシーの窓越しに息子とその家族の幸せを確認すると安心して去ります。

福岡へ帰る朝に、めしやを訪れ、息子との別れの思い出と豚汁定食にまつわる思い出をめしやのマスターに語ります。

一方的に、悪いと決めつけることのできる人生を生きる人にも、やっぱりさみしさや苦しさはあります。そんな心も、きちんと拾い上げて励ましてくれるのが深夜食堂です。

ここでも多部未華子が初々しい。この老婆をまるで、故郷、新潟のおばあちゃんのようにして、自分の家に泊めて親切におもてなしをします。そして老婆は、みちるに親切にしてもらい、わが子のような気持ちにさせてもらったことを感謝します。

老いた人を騙す詐欺師もいれば、みちるをはじめ親身になってくれる人々もいます。

夕起子役の大貫禄の女優の渡辺美佐子ですが、みちる役の多部未華子は純朴で心の優しい若い女性を演じて、人情物語を明るくそしてしみじみとしてくれます。

孤独が素材で、深夜食堂で料理され、ほろっとした味わいにしてくれる。

店名は“めしや”で、主人は“マスター”、メニューは“豚汁定食”だけ。

新聞やテレビで知識人や評論家が、「コミュニティがなくなった」とか「ふるさとが喪失した」とか「庶民がいなくなった」とか、人情味の無くなった社会の話を見聞きすることが多くなりました。

しかし深夜食堂では、夜12時から朝7時までいろんな人生が、入れ替わり立ち替わり店を訪れ、わいわいと会話が繰り広げられます。そこには自分を愛し、他人の人生も応援する、ほほえましい姿があります。

今だけ、金だけ、自分だけを考える人は、この居酒屋は入れてくれません。

ヤクザ者、オカマ、ストリッパー、さすらい人、売れない演歌歌手、OL3人組、AV男優、料理評論家、流しの歌手、ボクサー、新聞配達青年、わけありアイドル、ソープ嬢、不倫の女子大生、学生デリヘル嬢、シナリオライター、詐欺姉妹、違法カジノ店の店長、謎の浪速女など、いろいろなキャラクターが登場します。

ただし全員と出会うにはテレビドラマ30編を制覇する必要がありますが。

一気に観てもいいし、1週間に一話というペースだと何カ月も楽しめます。

深夜食堂は、肩書き持込み禁止、皆、生き方にプライドがある。

登場人物には、お昼の丸の内でバシッときめて歩いているような人はいません。皆、凹み経験がある人、でも悩みながら何かを信じて立ち直る。そして元気になって深夜食堂から旅立っていく。

言葉に人生が滲んでいる、染みこんでいる、湿っている、人情もの。

まさか現実では夜12時を過ぎて、電車も無いのに、歌舞伎町ゴールデン街の居酒屋の常連になることは難しいでしょう。でも、ちょっとだけ、映画から想像力をもらってみましょう。

あなたではない別の誰かの人生に、目を向け、耳を傾けて真剣に聞くことで、これまでの失敗も厚みになってあなたを優しく迎え入れてくれるかもしれません。

人生、どこか行きあたりばったり、そんなに考えすぎてどうすんの。あなたもゲストでいかがですか。

ようこそ、深夜食堂へ!ただしその時は、肩書や口うるさいお説教話は禁止です。

松岡錠司監督、安倍夜郎原作
映画『続深夜食堂』2016年公開の日本映画
はまっちゃったら、『深夜食堂』とテレビ番組の方も制覇ください。

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