映画『シャイニング』|予知能力が映す、惨劇の世界。

雪に閉ざされたコロラド州<展望台ホテル>。次第に精神を病んでいくジャックと<シャイニング>の能力で未来を予知できるダニー。ついにジャックは斧で家族を襲い、呪われたホテルとダニーに見える超常現象が、刻々と惨劇の世界を広げる

解説

まず<シャイニング>と<展望台ホテル>の位置づけを整理しておきます。

アメリカン・ホラー作家の第一人者、スティーヴン・キング原作の『シャイニング』は、スタンリン・キューブリック監督の脚本で映画化されます。

まず前提として、

① <シャイニング>とは未来や過去の予知能力で、ダニーとハロランが持っていること
② <展望台ホテル>はインディアン虐殺の呪縛に憑りつかれた悪霊がいること
③ 物語は<シャイニング=超能力>と<展望台ホテル=悪霊>が映す惨劇の世界
④ <展望台ホテル>は霊の鎮魂のため生贄=殺人にジャックの家族を求めている
⑤ <展望台ホテル=悪霊>はジャックを使いダニーとハロランを排除しようとする

以上を踏まえてあらすじを追いながら、謎解きを解説してみたいと思います。

ホテルの閉鎖空間が、次第にジャックの精神を異常にしていく。

豪雪の中、ホテルの大きな閉塞空間が、次第にジャックの精神を冒していきます。

もともと小説家志望のジャックは、小説を書きながらできる仕事を探していました。

そこでコロラド州のロッキー山脈にある<展望台ホテル>の管理人の仕事を引き受けました。予めホテルの支配人のアルマンは「誰も来ない冬期の長い5カ月間に孤独と戦うことが必要だ」と言いますが、ジャックは「小説家として、静かな環境は寧ろありがたい」と返答します。

支配人は「1970年の悲劇」の話をして、当時の管理人のチャールズ・グレイディという男が、神経がおかしくなり気が狂って斧で妻と2人の幼い娘を殺し、自分も猟銃で自殺したと言います。警察は、一種の“閉所恐怖症”だと断定します。

ジャックは「大丈夫です」と意に介しません。それでも作家という物語を想像できる資質とアルコール依存症は、妄想を誘発しやすい性質ではと思われます。

ダニーとハロランは <シャイニング>という超能力を持っています。

<シャイニング>とは、予知能力やテレパシーという超能力です。これを持っていると、未来や過去が見える。ただし人や状況によって強弱があるようです。

まず<シャイニング>の保有者は、トランス夫妻の一人息子のダニー。さらに、ダニーは自分のなかに、“トニー”という空想の友達を持っていて、いつも話しています。

黒人の料理人のハロランも<シャイニング>の能力を持っています。トニーと同じ強度ではありませんが、テレパシーもできます。

ホテルの厨房を案内する場面で、ハロランはダニーにテレパシーで話しかけます。ハロランはダニーのことを「先生」と呼びます。きっとハロランは、自分以上の超能力をダニーが持っていると認めています。

そしてその能力は、未来だけでなく過去も現れます。この希少なダニーの能力を自分が守っていかなければと思っています。

トニーの超能力のことを母親のウェンディは知らず、父親のジャックは知っている可能性があります。

ジャックとウェンディは、ダニーの中に “トニー” という多人格があることは知っています。これはダニーがハロランに言っているように、両親は “トニー” のことは知っているけれど、トニーが未来を予知できることは知らないのです。

しかしジャックは、僅かばかり<シャイニング>の能力を有しているのではと思われる場面が、ダニーとのベッドで語らうシーンであります。

<シャイニング>は、<展望台ホテル>の霊現象を予知します。

それでは<シャイニング>の超能力は、何を予知しているのでしょうか?

この<展望台ホテル>は、インディアンの残酷な殺戮のあった墓の跡地に建っています。

この血塗られた歴史のなかで、インディアンや白人の死んだ霊が、悪霊としてホテルに憑依しているのです。そこで、悪霊たちがさまざまな怪奇現象を見せつけます。この現象を<シャイニング>は予知します。

なぜ、怪奇現象を見せつけるのか? それはきっと、ジャックを生贄いけにえにする、あるいはホテルのメンバーシップに加えるためだと思われます。

そこで、ホテルに棲む悪霊>がジャックに憑依しながら、邪魔をする<シャイニング>の能力を持つダニー(≒トニー)やハロランを排除しようとします。

<展望台ホテル>に行くことが決まった時に、既にダニーには、超常現象で、ホテルが血の海になり、小さな双子の姉妹が立っているのが見えます。

母のウェンディは「トニーも行きたがってるわ」と言うと、ダニーは「トニーはこのホテルに行きたくないと言っている」と話します。

また同じ能力をもつハロランは、ダニーに「237号室に近づくな」と言います。

そして三輪車で、いつものように遊ぶダニーが出くわした “小さな双子の姉妹”「ハローダニー、一緒に遊びましょう」と話しかけてきます。一瞬、ダニーには “斧で殺された二人の少女” が超常現象で見えます。

また、ダニーがジャックの寝室に訪れると、ジャックはダニーのことを「先生」と呼びます。まさにこの「先生」と呼ぶのは、ジャックもダニーと通じ合う能力があるのだと考えます。ジャックよりもダニーの方が格上(=先生)の能力なのでしょう。もしくは憑依した霊が悪戯をして「先生」と呼んだのかもしれません。

そして未来予知のできるダ二―はジャックに「ママや僕をいじめないで」と話します。つまり、ダニーは近未来においてジャックが「ママや僕をいじめる・・・・と予知しています。

吹雪の<展望台ホテル> 。ダニーは通路に敷かれた絨毯の上で遊んでいると、何故か「237号室」の部屋のドアが開いている。

ロビーではジャックが眠っており悪夢にうなされていて、「夢でウェンディとダニーを殺した」と言う。そして「俺はきっと気が狂うんだ」と言う。

ホテルのバーでロイドという架空のバーテンダーに語りかけ、自分は息子を傷つけるようなことは断じてしないという。そして疑いをかけたウェンディを「いまいましい女だ」と言う。

ジャックは過去に一度、酔っ払ってダニーの腕を強く払い怪我をさせてしまったことがあります。ウェンディがこのことを虐待として記憶しているのではないかと次第に苛立っていきます。

つまりジャックは、ウェンディから「酒に酔ったら危険な男」ときっと思われているだろうという猜疑心があり、ダニー利用してウェンディが自分を非難し疎外しているのではとの被害妄想が大きくなり始めます。

ダニーが首に怪我をします。ウェンディがやってきて「ここには他に人がいる、変な女がダニーの首を絞めた」と傷のことを話します。

ジャックは精神に異常をきたし、237号室に幻覚を見ます。

ジャックは、237号室に様子の確認に行くと全裸の若い女性がバスタブから出てきます、抱きしめて抱擁すると、それは老婆の腐乱し始めた死体に変わりました。これは<展望台ホテル>の悪霊の悪戯(いたずら)です。

ダニーは、超常現象でドアに「REDRUM(MURDER殺人の文字と、血の海の超常現象を見ます。そして殺人が始まることを予知します。

ジャックはグレイディという男と出会い、支配人かと考えます。

ホテルのバーラウンジはたくさんの客でいっぱいです。ジャックは、すでに精神に異常をきたし多くの幻覚を見ています。

バーテンダーがジャックにぶつかり服を汚します。男は名前をデルバート・グレイディと言います。前の管理人かと訊ねると「貴方こそが昔からずっと“管理人“だったじゃないですか」と答えます。

「息子さんは、外部のものを私たちの世界へ連れ込もうとしています、ご存知か?」と聞かれ、ジャックは「知らない、誰を連れ込むのか?」と確認すると、グレイディは「黒人の料理人」と答えます。

そして「ダニーは凄い超能力の持ち主で、ジャックの邪魔をしようとしている」と言います。

ジャックは「ウェンディが悪い、あの母親が邪魔をするんだ」といい、グレイディは「よくしつける必要があり、少し厳しくしないといけませんな」と言います。

そしてグレイディは自分も「妻と二人の娘を厳しくしつけた」と話します。

ジャックは幻覚の中で、グレイディと出会い会話します。アルマン支配人は ”以前の管理人が人を殺した”と言いましたが、名前がチャールズデルバートで違います。

その意味では、グレイディは ”今はあなたが管理人だ” そして ”あなたは責任がある、あなたが殺す番だ” と言っているのか、それとも、名前の似たデルバート・グレイディというスタッフがいて、今のホテルの管理人はジャックと言うことを話しているのか。

どちらしにてもこれは妄想の世界であり、この時点では、精神はひどく錯乱しています。

<展望台ホテル>の呪いとダニーの<シャイニング>との戦い

ジャックは精神を病み、ついに自分が斧での殺人を挙行したわけですが、心配して駆けつけた黒人の料理人のハロランは殺害しました。

ウェンディも逃げ惑いながらダニーを探しますが、客室で数度、幻覚を見ます。ジャックはダニーを追いかけ外の庭に出る、ダニーは庭の迷路の中に逃げ込んでいきます。

ウェンディは、ハロランの死体を発見し、そこでまた別の人間の幻影が出てきます。さらにウェンディはダニーがみたホテルの血の海を見ます。

すでにホテル自体の呪いが大きく激しい超常現象となってそこここに現れています。

迷路に逃げ込んだダニーは足跡をうまく消してジャックを攪乱し、自分の足跡を頼りに入口に戻ってウェンディと再会します。二人はハロランの乗ってきた雪上車に乗ってホテルから逃げ出します。

迷路の中で出口が分からなくなったジャックは、やがて凍死してしまいます。

そして不思議なことに、ホテルの古い時代のパーティの集合写真の真ん中にジャックは写っています。それは1921年の7月4日の舞踏会の記念写真でした。

ジャックは凍死しするが、<展望台ホテル>の写真の中にいた。

正面にジャックらしき人物が写っていますが、ジャックが<展望台ホテル>に管理人として来たのは1970年なので、時代的には明らかにおかしい状況です。

<展望台ホテル>の怨霊たちが、雪で閉ざされた冬に生贄として血を求め、ジャックは、憑依してその殺戮の実行を行ったからなのか、それともジャック自らが生贄となったからでしょうか。

最期の集合写真のジャックらしき人物の意味するものは、何なのでしょう?

この写真は<展望台ホテル>が映し出した幻覚か。もしくは1921年のジャックが、幻覚としてこのホテルに現れているのか。つまり現在自体が幻覚なのか。

ジャックは集合写真に写ることで、ホテルのメンバーになったということなのでしょうか。それともインディアンの血の上に建てられた歴史の一人として写っているのでしょうか。

スティーヴン・キングの原作とキューブルックの映画は、かなり違ったものになっています。しかしキューブリック独特のシュールな世界や、カメラワーク、シンメトリー、空間の作り方など楽しめます。

また子役のダニー・ロイドが ”トニー” との多人格の表現や未来予知や恐怖感の表現力、シェリー・デュバルのヒステリック、恐怖、怒りの異様な演技、そしてジャック・ニコルソンの狂気に変わっていく表情やしぐさの演技は圧巻です。