映画『セブン』|神の救いなき社会、無謀な正義か静かな諦観か。

7つの大罪の通り、大食、強欲、怠惰、肉欲、傲慢と次々に異常殺人が起こり、犯人の自首で急展開を見せる。血気はやるミルズと思慮深いサマセットに対しサイコパスのジョン・ドウが、妬みを自ら演じ、怒りを誘発させ7つを完成させる。結末に、神の救いが無いことが痛ましい。

解説

次々に起こる7つの大罪に倣った、罪と罰の殺人。

サイコパスによる連続殺人の犯罪映画だが、結末がショッキングすぎる。

デヴィッド・フィンチャー監督の拘った結末は、確かに忘れられない映画となったが、同時に、救われることのない映画でもある。主要な登場人物は、4人である。

犯罪の絶えない街で人間の良心を信じることを諦め、定年までの最後の1週間の職務を淡々と遂行しようとする老いた刑事、サマセット。

この街に着任したばかりで、悪を許さない若き正義感に漲った刑事、ミルズ。彼の学校時代からの同級生で、夫とともに街に来て祈りを捧げる愛妻、トレイシー。

そして世の中の不条理に、<7つの大罪>で罪をあがなわせ、社会に復讐する犯罪者、ジョン・ドゥ。

脚本を書いたとされるアンドリュー・ケヴィン・ウォーカーは、毎日犯罪の絶えないニューヨークに住み、それを見て見ぬふりをする自身に嫌気がさしたと述べている。

ミルトンの『失楽園』やダンテの『神曲』など古典を読み、数年かけて脚本を書き上げたという。

『失楽園』は、アダムとイブが誘惑に負けて、禁断の果実を口にして、楽園を追われるという欲望という原罪を描き、悪魔と人間と神の関係を表わしている。

『神曲』は、地獄・煉獄れんごく・天国の三界を巡り、人間の悪、罪を浄める苦行、そして神の愛に包まれ至福の境地に至るまでの宗教観を説く。

「7つの大罪」は、4世紀の書物にも著されるほど起源は古く、13世紀のカトリック教の神学者であるトマス・アクィナスによって、7つの「枢要悪」となる。

カトリック教会の教えで、罪の源は、教皇グレゴリウス一世以来、伝統的に「人間を罪へと導く可能性がある欲望や感情」は、以下の7つとされる。

傲慢<PRIDE>   自分は、他社よりも優れていると驕(おご)りたかぶること

嫉妬<ENVY>    他人を妬(ねた)み、羨(うらや)み、不幸を願うこと

憤怒<WRATH>   怒りによって、心がかき乱されて復讐心にもえること

怠惰<SLOTH>     怠けた生活で義務を怠(おこた)り、自堕落な人生を送ること

強欲<GREED>   卑しく大きな欲望を願うこと、持つこと

大食<GLUTTONY> 必要以上の食欲を持ち、食べすぎること

色欲<LUST>    性的な淫(みだ)らな欲望を持つこと

映画では、大食、強欲、怠惰、色欲、傲慢、嫉妬、憤怒の順番で犯行が繰り広げられていく。

神の救いなき社会に現れた、サイコパスなジョン・ロウという人格。

物語の冒頭、サマセット刑事は、いつものように身ぎれいに整えて現場に行く。

現場では、夫婦喧嘩のもつれで妻が夫を射殺する。部屋中、血しぶきが飛んでいる。今日も陰惨な事件を検分するサマセットは、あと1週間で定年を迎える。

そこに、新たに着任した血気盛んなミルズ刑事がやってくる。サマセットは「7日間は、ただ黙ってみているだけでいい」とミルズに言う。

その夜も、サマセットは自分の正気を保つように、いつものメトロノームのリズムでゆっくりと眠りにつく。

月曜日 大食<GLUTTONY>

巨漢の肥満男が、スパゲティに顔を埋めたまま死ぬ。検視官の調べでは12時間以上、食べ続けさせられているという。何度も腹を蹴り内臓が破裂、内出血で死亡したらしい。

スーパーのレシートから、2度も買い物に行っており、サマセットは、犯人の計画性を感じ、定年まじかの自分には手に負えないと上司に願い出るが、聞き入れられない。

火曜日 強欲<GREED>

弁護士のグールドが殺される。床に血文字で “強欲”と書かれおり、壁に飾られた妻の写真には血で目の周りを眼鏡のように描かれる。捜査の担当はミルズとなる。

サマセットは、肥満男の殺害現場を検証し、冷蔵庫の裏に “大食”の文字を発見し、ミルトンの『失楽園』の7つの大罪の一節“地獄より光に至る道は長く険しい”と書かれた紙片を見つける。

“大食” と “強欲” そしてこの後、“怠惰”  “色欲“  “傲慢”  “嫉妬”  “憤怒”と5つの犯罪をサマセットは予言する。

サマセットは、再度、この仕事を降りることを上司に伝え、タクシーに乗り込み警察図書館に向かう。そして「ミルズへ、7つの大罪、神曲、カンタベリー物語を読め」と、作成した資料を置き帰る。

水曜日

トレイシーからオフィスへ、サマセットを夕食に誘う電話がかかり、快諾する。

その夜、夕食をともにする、トレイシーは、デヴィッドとは高校時代にひとめ惚れしたことや、サマセットが独身を通している理由など訊ねます。サマセットも街に慣れたかと訊ねるなど打ち解けあいます。

ミルズは、弁護士殺人事件の続きを話します。犯人は、1ポンドの肉を切らせ天秤に乗せている。被害者は、腹の肉を切っている。

サマセットは、この殺害は説教を意味していると指摘します。7つの大罪は中世では説教に使われた。被害者は罪をあがなわされていると考えます。

弁護士の妻の写真も、“何かを見た”あるいは“何かを見るはずだ”と言う意味だと、サマセットは推察します。

そして絵を逆さまにすると「HELP ME」と書かれた文字が浮き出てきます。

木曜日 怠惰<SLOTH>

指紋の照合から「ヴィクター」という人間を割り出す。精神を病み、麻薬や強盗や少女暴行で服役したが、弁護士のおかげですぐ出てこれた。その弁護士が「グールド」だった。しかしサマセットは、真の犯人はヴィクターではないとにらむ。

アパートに踏み込むと、拷問を受け衰弱した廃人状態のヴィクターが縛りつけ寝かされ、壁には “怠惰”の文字が書かれていた。

生死を確認すると、突然動き出し、かろうじて生きている。警察が来るのを想定していたのでした。急ぎ、救急車で運ばれます。ミルズは、犯行の手口に苛立ちます。

医者は、ヴィクターは1年は寝続けており、多種多様の薬品が投与され、脳も軟化し、舌もかみ切っており、目に光をさらすだけでショック死する状態だと言います。

金曜日

サマセットは、トレイシーから相談を受け、レストランで待ち合わせをします。

トレイシーは「子供ができた」と言います。ただ「この町が嫌いだし、子供の環境としても最悪で、ミルズに話せない」と悩みます。返答に困るサマセットは、自分にも昔、子供ができ、「こんなひどい世の中に産むのかって」彼女を説得し堕したことを話します。

そして「もし子供を産まないつもりなら妊娠は内緒に、もし産むつもりなら精一杯甘やかして育ててやれ」と言います。

サマセットは読書傾向から犯人を探ろうと図書館に向かいます。本のリストをつくりFBIに金を握らせて名前の貸し出しリストを受け取り、目星をつけます。

絞られたのは「ジョン・ドゥ」と言う男でした、二人は早速、アパートへ向かいます。

ドアをノックしますが不在です。向こうから一人の男が近づいて、いきなり発砲して去りました。

懸命に追うミルズですが、一進一退との追尾のなかで、逆に不意をくらい打ち倒され、こめかみに銃口を向けられます。しかし、犯人は撃たずに去っていきました。追いついたサマセットはミルズを助けます。

部屋に入ると、これまでの被害者の写真、薬物の数々や拷問で使った道具、スパケティソースの缶、写真などが整然と並び、2000冊のノートに、世を憂う自身の思いが綴られていました。

そこへ犯人から電話があり、今日の一件で、今後の計画を変更するというものでした。

土曜日 色欲<LUST>

ジョン・ドゥの部屋にあった写真の娼婦が、SMクラブで殺されました。“色欲” の罪です。凶器は、男性の局部をナイフにしたコルセットのようなものでした。あまりの奇怪で残虐な殺し方に驚愕します。

日曜日 傲慢<PRIDE>

不敵にも警察に「またやったぞ」とジョン・ドゥの電話がかかります。今度の被害者は美しいモデルで、自慢の顔を切り刻み鼻を削ぎ、助けを呼ぶか、死ぬかを選ばせていました。彼女は睡眠薬で死にます。壁には “傲慢”と書かれていました。

祈りを踏みにじる “嫉妬” と “憤怒”、直線的な正義と静かな諦観。

署に戻ると、なんとジョン・ドゥが自ら出頭してきます。彼は、金があり教養があり完全な異常者でした。

弁護士が話すには、あと2人、死体を隠しているとのこと。そしてミルズとサマセットだけを今日6時に現場に案内すると言います。2人が断れば、永遠に死体は見つからなず、自分は精神病を主張すると言います。

ジョン・ドゥは、肥満男は一人で歩くこともできず誰もがあざ笑う、弁護士は金を稼ぐためウソをつき人殺しや強姦魔を街に放した。青の女は心が醜く、性病持ちの娼婦は・・・、と語り始めます。

腐った世の中で誰が本気で奴らを罪のない人々だと? 私のしたことを人々は学びそして従う。神の行いは神秘だと言う。やがて車は目的地へ着き、3人は歩き出します。

そこに猛烈な勢いで車がやってきて、配送屋はミルズに頼まれて荷物を持ってきたと言う。それは小荷物の箱でした。サマセットが注意深く、ナイフで箱をゆっくりと開けて驚愕します。

そこにはトレイシーの首が入っていたのでした。

嫉妬<ENVY>と憤怒<WRATH>

ジョン・ドゥは、ミルズの愛のある暮らしに “嫉妬” してトレイシーを殺して首を持ってきたと言います。

ジョンは不敵にも、次にミルズが自分を撃ち殺すことを計算しています。

サマセットは、銃を捨てるようにミルズに説得します。怒らせて殺させようとする手に乗るなとミルズに翻意を促します。ジョンは、トレイシーが子供を身籠っていたことを話します。

ミルズは、苦悶し続け、“憤怒”のなか、ジョンの頭を拳銃で撃ちぬいて殺してしまいます。茫然自失のミルズはパトカーに乗せられ連行されます。

サマセットは、ヘミングウェイの書いた「この世は素晴らしい、戦う価値がある」を思い出して、その半分に共感を感じます。こうして物語は閉じられます。

欧米のキリスト教文化圏では、教義は生きていくうえで大きな意味を持ちます。

しかし現実の世界は、反吐が出るほど邪悪で、ジョンは「自分は選ばれし人間なのだ」として、世の中への戒めとして「神に代わって」滅ぼしていくという異常な人格です。

“大食”  “強欲” “怠惰”  “色欲“  “傲慢” までの犯行を行い、正義感の強い若いミルズと愛妻を生贄として、最後の  “嫉妬”  “憤怒” の2つをあがなわせ、7つの大罪を完成させます。

ジョン・ダウの存在は、神に背き“七つの大罪”を犯し続ける現代社会の人間たちに報復する異常者です。

ジョンの異常性は、ついに正義を信じるミルズと祈りを捧げるトレイシーにまで及びます。平和な日常が、異常者に踏みにじられることが、重々しく残酷で悲しい結末です。

人々が無関心になり、善く生きようとする信仰心の欠落がカオスと化した社会をつくる。

とサマセットは言います。それでもジョン・ダウを「彼は悪魔ではない、人間だ」とし、ミルズの正義とトレイシーの祈りを鎮魂し、

この世は、素晴らしいものではないが、人間として戦い続ける価値はあると結びます。