映画『シー・オブ・ラブ』|男と女、愛の海を漂う。

ニューヨークの夜に、3人の男が殺される。現場に残る“シー・オブ・ラブ”のレコード。甘美な歌とリズムが流れるなかで起きた殺人事件。人生に疲れた中年刑事フランクと恋をハンティングする女ヘレン。大都会の海に漂う男と女が交差して愛しあう。

解説

フィル・フィリップスのヒット曲、Sea Of Loveの音楽に乗せて。

都会を生きるたくさんの人々。しかしお互いを良く知ることは難しい。それでも人は孤独を逃れるために、愛しあう人を求めて彷徨う。

80年代末の大都会ニューヨークを舞台に男と女の孤独が漂うクライムサスペンス。

N.Y.市警のフランク刑事は、すでに40歳を越え勤続20年を表彰されるベテランだが、妻とは離婚し、夜になると酒浸りの日々を送っている疲れた中年刑事。

ある日、全裸のままベッドの上でうつ伏せにされ、銃で撃たれる殺人事件が起こる。

同じ手口の殺人が別の112分署でも起こり担当するシャーマン刑事とフランク刑事は、この2つの事件が同一犯と確信しチームで捜査にあたる。

昼も夜も賑わう都会なのに、いや都会だからこそ孤独で人恋しい人々が棲息している。

3人目の犠牲者が出た時に、3つの殺人事件に共通したことは “シー・オブ・ラブ“ という古いドーナツ盤のラブソングのレコードがあったことだった。

この曲は、フィル・フィリップスの1959年のヒット曲。

Sea Of Love 訳詩

Do you remember when we met?
That’s the day I knew you were my pet
I want to tell you how much I love you
Come with me, my love
To the sea, the sea of love
I want to tell you just how much I love you

覚えてる、ぼくたちが出会ったときのこと
あの日、ぼくは君に恋をしたんだ
ぼくが君をどれくらい愛しているか伝えたいよ
さあ行こうよ、恋人よ
海へ、愛の海へ
ぼくが君をどれくらい愛しているか伝えたいよ


殺された男たちにひとつ共通していたことは、ニューヨーク・ウィークリーという独身向け雑誌の恋人募集欄に広告を出していることだった。

フランクとシャーマンは、広告の文面は3つとも詩で綴られていることを発見する。

SNSのない80年代はフリーペーパーやタブロイド紙に、こんな投稿欄があったのです。就職の求人欄と同じように、友達募集欄や恋人募集欄のような 投稿欄です。そして興味のある相手先がいれば連絡して会うわけです。

しかし当然、犯罪の匂いもします。フランクとシャーマンは、男に恨みを持つサイコパスな女の犯罪と最初は考えたのです。

そこで、同様のアプローチで容疑者を絞る、おとり捜査を考えつきます。

恋人募集欄に詩を投稿し、反応する女性たちをレストランに呼び、会話しながらグラスに残る指紋を照合して容疑者を割り出そうとします。

このおとり捜査にたくさんの愛を求める女性たちが集まってきます。

誰もが外見は全く不自由の無い、相応の社会的な立場や仕事をもつ女性ばかり。フランクとシャーマンは、なぜ彼女たちが一人ぼっちなのか理解に苦しみます。

そこには表面からは分からない、都会に生きる人々の孤独が隠れ潜んでいるのです。

あなたには動物的な魅力を感じられない、謎の女性はそう言います。

そこにあらわれるヘレン。長身でスタイルが良く、金髪で野性的、そして個性的な表情が印象的です。

会話を始めるフランクを遮り、あなたには“動物的な魅力を感じない”と指をパチリと鳴らし、相性が合わないとつれない態度。

とりなすフランクですが、グラスに口もつけずに立ち去ります。

翌日、二日酔いで署に行くと、不審な人物を目撃したとテレビの修理人のテリーが情報を提供します。

それから数日後、偶然、フランクとヘレンはグロッサリーストアで再会します。

ヘレンは、広告の詩がフランクのものでないことを問いただします。

フランクは、詩は母親が父親にあてたラブレターを引用したことを告白します。その夜、二人はバーで語らいます。ヘレンは、ひどい男とばかり付き合ったが、勇気があれば立ち直れると話します。フランクも結婚を夢見たがうまくいかず、仕事だけの人生で中年になったが、夜が深まると人恋しくなると話します。

その夜二人は、フランクのアパートで体を合わせ朝を迎えます。

ヘレンが帰った直後に、ドアのベルが鳴ります。開けても、誰もいません。エレベーターが閉まる様子に人の気配を感じ、フランクは不審に思います。

フランクはヘレンの勤める靴屋に訪れます。そこに二人組のチンピラが現れ、フランクは鋭い視線で威嚇し退却させますが、同時に、刑事であることがヘレンにばれてしまいます。印刷屋だと嘘をついたフランクをヘレンは不審に思います。

それでもフランクとヘレンの恋はなんとか進んでいきます。

フランクはヘレンをグロッサリーストアに呼び出し、その夜はヘレンの家に泊まります。 明け方に、帰ろうとするフランクはレコード箱の中に “シー・オブ・ラブ“ を見つけます。

不審に思い背後に迫るヘレンに、このレコードが好きなんだとフランクは取り繕います。

3つの殺人事件には、つねに “シー・オブ・ラブ“ のレコード盤がありました。フランクの疑惑は深まります、それでもフランクはヘレンへ恋に落ちていきます。

恋をしながらもヘレンの疑いが晴れないフランクは、彼女のバックから社会保障カードを手に入れ犯罪記録の照合を行いますが、ヒットせず、ひとまずは安堵します。

それでも殺人犯かもしれないとの疑いは続き、悩むフランクですが、やはり彼女を信じる決心をして気持ちを伝えにヘレンの家に向かいます。「一緒に暮らしたい」と告白し、夜も眠れぬくらい思いが真剣だと彼女に伝えます。

Catch you later!殺人の予兆が忍び寄り、クライマックスを迎えます。

ところが、死んだ3人の投稿記事をマーキングした切り抜きが、無造作に台所の冷蔵庫に貼ってあるのが、フランクの眼に飛び込んできます。瞬間、フランクの疑惑は確信に変わります。

真剣な打ち明け話から一転、つれなくCatch you later!と軽い言葉を残し帰ります。

ヘレンは、深夜にフランクを訪れます。ほのかな灯かりしかないアパートの廊下は殺人の予兆を感じさせミステリアスな空気感を高めます。

ヘレンはフランクに尋ねます。Catch you later?(じゃ、また?)とは、どういう意味なのか?

「一緒に暮らそうと真剣な話をしに来たのではなかったのか?」「どうして軽くいなして帰ってしまったのか?」と。

ヘレンは、フランクの好きなものを持ってきたと言って、“シー・オブ・ラブ” のレコードに針を降ろします。いよいよ殺人の秒読みです。錯乱するフランクはヘレンを疑い、尚、恋する気持ちもあり、彼女を詰問し罵声を浴びせ、ついには追い返してしまいます。

すぐにベルが鳴ります。ドアを開けると、大男が押し入ってきて、怪力でフランクをねじ伏せます。さらにベッドにうつ伏せに寝かせて、3人の殺害と同じように銃口を向けます。

フランクの必死の抵抗で、男は窓から落ちて死んでしまいます。男は、以前、目撃者として情報提供をしたテレビの修理人で、実はヘレンの元夫のテリーでした。

フランクはヘレンと寝て、そしてヘレンを疑っていたこと。いかれたテリーの次が自分だったことで、彼女の気持ちを察し、彼女への思いを諦めようとします。

決め手はラスト3分の口説き文句、そして二人は都会の喧騒に消えて行く。

事件が一段落して「何故、ヘレンがあんな異常な男と結婚したのか?」と不思議がるシャーマンに、「それが男と女ってもんだ。相手を知ることは容易じゃないんだ」とフランクが辛そうに語ります。

でもシャーマンはフランクが諦められないことを知っていて、にやりとします。もうすでに、フランクは愛の海を漂流していたのです。

仕事を終え靴屋を出てくる傷心のヘレンに、待ち伏せして渾身の猛烈アタックをするフランク。はじめは、全く効き目なし。事件で疲れきったヘレンは生まれ故郷のヨークに帰ると告げます。

フランクはすかさず「なんて偶然なんだ、ヨークの警察から依頼があって、新鮮野菜を買い占めてるマフィア組織があり、自分もヨークへ行く予定だから、そこで一緒に暮らそう」と話します。

根負けしたヘレンは、あの少し口をゆがめ笑いを浮かべた表情でフランクを許します。

この間、3分程度の演技です。とてもお洒落な会話としぐさの連続が、ニューヨークのアヴェニューに続きます。大都会のたくさんの人々、話すだけでは分からないけれど、それでも求めあう。多くの孤独と危険を背中合わせに、人は生きています。

アル・パチーノの舞台演劇のようなセリフ回しやたたずまい、さらにエレン・バーキンの雰囲気や存在感。似顔絵にしやすい、口もとを少しゆがめて眼を細める、あのキメ表情が素敵です。