映画『リップヴァンウィンクルの花嫁』あらすじと解説/ここが見どころ!

スポンサーリンク

概要>SNSのクリックボタンひとつで繋がる絆の希薄な社会。七海に訪れる受難。壊れそうに危うい真白。私には幸せの限界があるの。この世界は、ほんとうは幸せだらけなんだよ。黒木華×CoCo×綾野剛が繰り広げる不思議な現実。岩井俊二監督が贈る現代の御伽草子。

スポンサーリンク

登場人物

皆川七海(黒木華)
臨時教員のおとなしい女性、SNSの繋がりから思いがけない受難を引き寄せる。
安室行桝(綾野剛)
何でも屋「安室商会」を経営する男性。ランバラルというHNでSNSに登録。
里中真白(Cocco)
AV女優だがプライドは高い、リップヴァンウィンクルのHNでSNSに登録。

あらすじ(ネタバレあり)

皆川七海(ななみ)は臨時教員とコンビニのバイトをかけ持ちしています。
SNSのハンドルネームはグラムポン、お見合いサイトで彼氏を見つけます。

誰もが近くにいるのに誰とも近くになれない、でも誰かと繋がっていたい。

それは、ネットで買い物するみたいにあっさりと手に入れてしまった。

おとなしく引っ込み思案で臆病でおどおどしている、だけど世界と繋がっていたい。

七海は、生徒たちのいたずらで臨時教員の仕事をクビになります。でも、インターネットの家庭教師で教えている不登校の女の子にとって、七海は唯一話せる先生のようです。

やがてSNSで知り合った男性と付き合い結婚します。深くお互いを知らないままの恋愛、流れに漂うままの結婚。クリックひとつの、手軽で頼りない、それでも合理的な選択でした。

披露宴の準備をする二人ですが、 七海は父母以外に参列者がいません。招待客の人数調整で悩む七海は、同じくSNSで知り合った安室商会の安室に相談します。

安室は、いろいろな相談を受ける“何でも屋”で、どこか怪しい感じです。それでも七海は、安室からなりすましの嘘の招待客を集める親戚代行サービスを購入して場を繕います。

二人で、何があっても人生を乗り越えていく宣誓でしたが・・・。

神父の前で宣誓した新郎の言葉でしたが、二人の結婚はすぐに破綻します。

夫の浮気に気づき、安室に調査を依頼する七海ですが逆に罠に落ちてしまいます。

それは、安室の企みなのか、義母の指図なのか、結局はわかりません。七海は、浮気の濡れ衣を着せられ、披露宴の招待客の偽装も暴かれてしまいます。

七海は、義母から不気味で汚らわしい女として離縁させられ、家を放り出されます。

七海は、途方にくれながら東京の街を、悲しみの中に落ちていきます。放り出され、彷徨い、憔悴し、失意の七海のもとに、安室から携帯電話がかかってきます。

ここはどこだろう、私はどこへ行けばよいのですか。

そして、ここから七海の旅が始まります。

七海は、安室からバイトを紹介されます。今度は、自分が披露宴の偽装の親戚代行サービスの一員として家族を演じます。集まった人たちは、皆、初めて顔を合わせるその場かぎりの嘘の家族。

その中で、姉役の真白と知り合います。売れない女優業が仕事とのことで、とても無邪気でした。

自由奔放さと、壊れそうなナイーヴさとが同居する真白と七海は意気投合します。

七海は、安室に次のバイトも紹介されます、そのバイトは、1か月に100万円という破格です。仕事の内容は、住み込みのメイドで部屋を掃除して片づけすること。七海の他に、もうひとりメイドがいるとのことでした。

訪れてみると、そこは以前、洋館のレストランで、とても大きく、室内は、とても広く、とても散らかっています。 すこし不安な七海ですが、安室の話を引き受けことにします。

なぜか、クラゲやエイなど小動物が数種飼ってあり、全てに毒があることをペット屋から聞きます。

もうひとりのメイドとは、真白でした。

七海は、真白とすごしながら、心を許し安らぎを感じていきます。

七海のメイド生活が始まります。

七海は、真白と一緒に、メイドをしながら不思議な共同生活をすごします。

二人は大きな館で、部屋を片付け、庭に水をやり、買い出しに出かけ、草原で遊び、花火を楽しみ、共にはしゃぎながら日常から離れた毎日を送ります。

ある朝、真白は高熱で動けません。マネジャーがかけつけ、病院に行こうとしますが、真白は、頑として仕事場に行きます。七海は、マネジャーから真白が実はAV女優であり近頃10kgも痩せたことや、七海がメイドをする館は、実は、真白が多額の家賃を払い実際に住んでいることを知らされます。

七海は、安室に確認します。自分は真白に雇われているのかと・・・。

安室は、七海に明かします。真白の希望は「友達が欲しい」ということでした。安室は、真白の友達には七海がふさわしいと考えて、メイドということで近づけたのでした。

大金を刹那に浪費する真白に、七海は、大きな館の住まいを止めて、部屋を探し二人で暮らしていこうと話します。それは、七海にとっても心を許すことのできる真白への思いでした。

ウエディングドレスを着て、はしゃぎ、語り、踊り、確かめあう二人。

部屋探しの帰り道、街を歩きながらウェディングドレスのショップに立ち止まります。

店員に勧められながら、二人は好みのドレスを試着し、記念撮影を行い、それを纏いながらアルファロメオを運転し、東京の街を通り抜けて屋敷に戻ります。

部屋に戻り、二人だけのパーティーを開き、乾杯をして、踊りながら、語りながら、分かりあいます。

真白は、七海と出会ったことで自分の死を決意します。

ふたりは、安心しながら眠っていきます。そして真白は、ほんとうに死んでしまいました。

目が醒めた七海は、真白を失った事実に驚き、号泣し狼狽し狂乱します。

真白の死と七海の生。安室が七海にくれた世界は何だったのか。

真白の葬儀には、披露宴でなりすまし家族を演じた仲間も参列しました。本当の家族として献花を行い、七海も別れを告げます。

本当の家族のように涙する嘘の家族。嘘の家族が混じった本当のお葬式。

真白の自殺に理解を示すAV女優たちと、死んだらつまらないと話すマネジャー。

真白の母親は、真白を忌み嫌い骨を引き取りません。安室と七海で、骨を手渡しに行くことにしました。

AV女優は、恥ずべき生き方だ。と娘を嘆きながらも、母親は、安室や七海の前で裸になり、かけがえのない娘の死の現実を受け止め悲しみます。

世間の眼を気にする母親が、裸になり娘を弔い、安室もいたたまれずに裸になって、真白の母と酒を酌み交わし、死を悼み悲しみます。

やがて七海は一人の部屋をかりて、静かな日常に戻ります。
落ち着きを取り戻した七海は、インターネットの不登校の女生徒との通信授業を続けます。

七海は、お世話になった安室にこころから感謝して別れます。

解説/ここが見どころ!

真白の純粋さは、七海によって救われたのでしょうか。

リップヴァンウィンクルとはアメリカ英語で「時代遅れの人」「眠ってばかりいる人」との意味で、「主人公にとっては、いくらも時がたっていないのに、世間は長い時間が過ぎていた」という伝説をもとに書かれた物語です。アメリカ版の浦島太郎ということです。

この映画で、リップヴァンウィンクルは、真白です。

七海は、ハンドルネームを更新してカムパネルラにしています。宮沢賢治の“銀河鉄道の夜”が好きでつけた名前のようです。孤独な少年ジョバンニにとって、たったひとりの友人カンパネルラ。

七海は、世間を知らない鈍感な性格で、それでも芯は強く、無色透明感があります。

七海は、不器用で手探りだけど自分を投げ出さない強さがあります。真白は、何気ない行為や態度を過度に感じすぎて、純粋だけど壊れそうな脆さががあります。

真白は、懸命に生きようとすればするほど、苦しくなり、自分を追い込んでいきます。

真白は、コンビニの店員が自分の商品を袋に入れるのにさえ、やさしさと感じ、有難いと思う人間です。真白は、幸せの限界に達する基準が、他人よりも早く来ると言います。

だから真白は、お金を払って買う方が楽だと思っています。 人のこころを思うとつらい、だからお金で済ますことで、見なかったことにしています。そのためにお金はあると考えています。

真白は、既に末期のがんでした。真白は、お金で死を買います。

「だれか一緒に死んでくれる女性を探してほしい」と安室に依頼します。真白は「私と一緒に死んでって言ったら死んでくれる」と七海に尋ねます。

時に社会は、残酷に抜け目なく人々の心の中に入り込んできます。

安室は、安室商会という何でも屋の仕事をしています。

世の中の、人間の、いろんな困りごとや必要なことを手配し、調達します。

社会の繋がりを重んじる通過儀礼、希薄化する親子や虚礼になる人間同士の絆や儀式を、披露宴を、葬式を、喜びや、別れを、嘘を本物そっくりに演出します。

また七海への、優しさとも罠とも思える接し方は何だったのでしょうか。

疑似的に恋愛する人々、繋がりたいけれど結ばれない人々、孤独なこころで、安室に持ち込まれるさまざまな相談とそれに応えるさまざまメニューは、現在の社会そのものかもしれません。

「何故、私だったのですか」と七海が尋ねると、安室は、七海に「優しくしてくれそうだったから」と答えます。真白の依頼に、七海は適任者だったのです。

真白は、幸せになるために死を選び、七海は、真白のそばでひとつの旅を終えます。

次々におこる出来事は、七海にとっては受難の連続だったことでしょう。ただ、その失意や戸惑い、憤り、悲しみ、痛みなどの感情すらもふわっとしています。七海の鈍さでもあり強さでもあります。

そして、どうしようもなく辛いときに、天空から地上に降りてくるG線上のアリア。

七海がカラオケで歌う森田童士の“僕たちの失敗”のせつない歌詞とリズム。東京という巨大な都市で起こるさまざまな出来事が、まるで御伽草子を次々とめくるように流れます。

映画『リップヴァンウィンクルの花嫁』現代を漂うファンタジーな作品です。