映画『パルプ・フィクション』|お洒落に回帰する、オムニバス。

タランティーノ監督の『くだらない話』と題したギャング映画、オムニバス形式で、始めと終わりが円のように繋がる。セリフが楽しめて、おしゃれなユマ・サーマンとトラボルタのダンスシーンは最高。全てがファッショナブルな作品。

解説

タイトルの意味と、オムニバス形式の入り組んだプロットの傑作

「パルプ・フィクション」とは、1900~1950年代にかけてアメリカで広く出版された雑誌でパルプマガジンとも言います。B5サイズ程度で質の悪い紙 (=パルプ) に印刷され、雑誌に掲載された作品はパルプ・フィクションと呼ばれました。

当時の物価で紙質の良いものが25セント程度で、パルプマガジンは10セント (1ダイム)。

低俗でくだらない大衆小説、この映画の宣伝用のポスターでユマ・サーマンが寝そべって煽情的にタバコを片手にこちら見ている写真が、雑誌の表紙をイメージしています。尚、右上には10¢(セント)と表記されています。

このタイトルのつけかたとユマ・サーマンの表紙にキャストを書き込むダサさが、逆にとても格好いい。物語はマーセルをボスとするギャングの犯罪フィクションです。

お話はオムニバス形式で進行し、挿話もあり、全体を通して繋ぎ変えをすることで筋が分かる仕組みになっています。あらすじというよりもそれぞれの短編ストーリーの話を解説していきます。

プロローグ

レストランでチンピラのカップルが話をしています。男の名前はパンプキン、恋人の名前はハニー・バニー。

二人の話題は、最近の強盗事情。銀行を襲うのも銃ではなく携帯電話とか、酒屋は経営者に東洋人が多く英語が通じないとか、給油所も警戒しているとか。そう考えるとファミレスは狙い目。安い賃金で働くスタッフが命懸けて止めるなんてことは無いし、保険もかけてあるし、店のお金と客のお金が両方狙えるし・・・頭のきれるパンプキンに、ハニー・バニーは感動します。

そして、パンプキンとハニー・バニーは怒声を発します。

動くな、強盗だ!一人残らず脳みそをぶっ飛ばすぞ!

所変わって、殺し屋のヴィンセントとジュールスは、組織を裏切り黒いアタッシュケースを横取りした青年たちを殺しに向かいます。

途中、ヴィンセントはアメリカとヨーロッパのハンバーガーの違いをうだうだと話しますが、実は、自身がボスのマーセルの若妻ミアのお守りを仰せつかったことが心配です。ミアの足マッサージをした男が4階から叩き落されて言語障害になり、自分は大丈夫かと内心思います。

ジュールスは組織に背いた青年らを容赦なく殺害します。彼は信仰心があり、暗記している旧約聖書の一説を必ず述べて復讐の懲罰を与える儀式としています。

ヴィンセント・ベガとマーセル・ウォレスの妻
VINCENT VEGA & MARSELLUS WALLACE’S WIFE

ヴィンセントは売人のランスから上物のヘロインを手に入れさっそく味わい、その足でボスに頼まれていたミアの世話のために家に訪れます。

ミアもヘロインを味わい、二人は外出。スターそっくりさんを集めたレストラン “ジャック・ラビット・スリム” へ訪れます。

ヴィンセントは何とか話題を作ろうとミアの女優時代の話を持ちかけますが盛り上がらず、退屈な沈黙の時間が続きます。ヴィンセントは思い切って、ミアをマッサージした男が窓から突き落とされた事件の核心を質問します。

ミアが事実をけむに巻く中、ダンスコンテストの案内が始まります。トロフィーが欲しいミアは、嫌がるヴィンセントを誘い、おしゃれなダンスを披露した二人は優勝し上機嫌で家まで送ります。

ミアの魅力と誘惑にヴィンセントは、何とか自制心を働かせますが、ミアはヘロインを大量に吸引し気絶し仮死状態に陥ります。ヴィンセントは慌ててランスを頼りアドレナリン注射を打ち蘇生します。ヴィンセントとミアは、このことはマーセルに内緒にすることを誓います。

金時計
THE GOLD WATCH

ブッチは試合の控室で夢を見ています。代々、形見として受け継がれた金時計の夢を。

それは第2次世界大戦やベトナム戦争を経た勇者として受け継がれた大切なもの。ブッチは落ちぶれたボクサー。ギャングのボスのマーセルと約束した八百長時代に反して、ブッチは相手をぶちのめして勝ってしまいます。

ブッチは弟と共謀して八百長で負けるとの前評判を流し、オッズをはね上げます。勝利で大金を手にしたブッチはタクシーに乗って逃亡し、マーセルは手下にブッチを殺すよう指示します。

恋人のファビアンが待つモーテルにブッチは逃げ込み、朝、逃避行をしようとすると金時計を恋人が忘れていることに気づきます。アパートに金時計を取りに戻るブッチはトイレから出てきた手下のヴィンセントに遭遇し射殺。

帰路に通りかかったマーセルを車で轢く。反撃するマーセルとブッチは質屋にもつれ込むが、ここで質屋の主人に監禁される。マーセルは、店の主人とその友人にカマを掘られ凌辱されるが、ブッチはマーセルを助ける。

マーセルは、この恩に報い八百長の因縁を許し、カマを掘られたことの他言無用とロスに二度と顔を出さないよう命じる。ブッチはファビアンと共に街を出ていきます。

ボニーの一件
THE BONNIE SITUATION

プロローグで、組織を裏切った青年から黒いアタッシュケースを取り返したヴィンセントとジュールスはトイレに潜んでいた3人目の青年が至近距離から銃を撃つが銃弾が逸れて全く当たらない。

青年を仕留めたジュールスは、その場にいた知人の黒人マーヴィンと3人で車に乗る。

ジュールスは弾が当たらなかったのは神の力が介在したからという。奇跡が起こったと考え、今日限りで足を洗うと言いだす。

ヴィンセントはふざけて銃口を後部座席に乗るマーヴィンに向けながら話をするが、誤って引き金を引いてしまい頭をぶちぬき殺してしまう。

とりあえず血で汚れた車と死体の始末にジュールスの友人ジミーの家に行き処理をする。

恐妻家のジミーは予期せぬことに激怒し女房が帰るまでに処理をしろと言う。ジュールスはマーセルに相談し、マーセルから掃除屋のウルフが派遣された。

ウルフの指示で、ヴィンセントとジュールスはマーヴィンの吹っ飛んだ脳みそや車内に飛び散った血糊をふき取りダークスーツから間抜けなTシャツと半ズボン姿に着替え、手際よく死体の処理と車の清掃をする。

その後、死体と車は、ウルフの知り合いのスクラップ業者に引き取られ跡形もなく無事に処理される。

エピローグ→プロローグ

安堵したヴィンセントとジュールスは、朝飯を食べにレストランに訪れる。

ブタは汚れているが、イヌは汚れていないなど、くだらない話をしながら弾が当たらなかったことが偶然ではなく奇跡と信じ、足を洗い旅に出て神を探しに行くという。ヴィンセントはトイレに中座する。

その時、チンピラなカップル、パンプキンとハニー・バニーがレストラン強盗をおっぱじめている。(プロローグにつながる) 店の金と客の金を集めるパンプキンは、ジュールスに逆におさえつけられる。

動揺するハニー・バニーをなだめ落ち着かせて、ジュールスは、エゼキエル書25章17節を語りパンプキンとハニー・バニーに慈悲を与え放免する。

そして、ヴィンセントとジュールはレストランを出ていく。

この先頭のプロローグと最後のエピローグが円弧のように繋がっていて、エピローグからプロローグにまた戻れるつくりです。見終わって、くるっと1回転して最初に戻り全体の流れが理解できます。

主人公はいない、3人のクセの強いキャラクターの設定。

ヴィンセントは、いいかげんなくせに短気な性格。

物事を深く考えずに適当にしのぐ男、お守りを仰せつかったミアに対しても最初はマッサージの男の噂話も聞いて慎重でしたが、最後は家まで送り自制がきかなくなり、トイレの中で懸命に制します。

トラボルタとユマ・サーマンのダンスコンテストのシーンが格好いい。

トラボルタと言えば、映画『サタデー・ナイト・フィーバー』で当時、新人かつ主演として一世を風靡した俳優、その有名なダンスシーンはディスコブームの再熱から現在のダンスミュージックまで影響を及ぼしています。

そのトラボルタの低迷期に、タランティーノはヴィンセントの役を抜擢。

そして有名なダンスコンテストのシーン、才能と作品へのオマージュで18年の歳月を経て、太って体型も変わったトラボルタですが、スローテンポなのに動きがキレて格好いい。

お相手のユマ・サーマンのおしゃれ度、ボブカットとV字の指で目をきり沈んでいく、そんな二人のダンスシーン。バックに流れる音楽もごきげんで本作を最も象徴するシーンです。

誤ってマーヴィンを射殺し、その始末でも掃除屋ウルフの指示に命令調は嫌いだと短気なところを見せます。ミアもマーヴィンもヴィンセントがことの発端なのですが、結果的には、ブッチのアパートで適当な見張りをしていて逆に射殺されてしまいます。

ブッチは高いプライドと正義感をもっています。

ブッチは良いボクサーだがもう峠を越えています。マーセルに次の試合は5ラウンドで負ける八百長をやれと言われます。

熟成すれば豊饒なワインになるとバカは思っているが、ただの酢になるだけだ。俺の話を聞いて金を掴み幸せに暮らせと言われるが、ブライドが許しません。

ブッチは反して相手を叩きのめし、オッズで大きく稼ぎ逃亡します。

質屋で監禁されたときは最初は自分だけ逃げようとしますが、正義感をもってカマを掘られたマーセルを助け出しその御礼で免責となり、沈黙と引きかえに安全に街を出る許可を得ます。

ジュールスはギャングで平気で人を殺すが強い宗教心を持ちます。

彼は人を殺す前に諳んじている旧約聖書を冷血の証として述べることを常としています。レストランで襲われ逆にパンプキンに向かって

エゼキエル書25章17節>

こころ正しき者の歩む道は、こころ悪しき者の利己と暴虐で阻まれる。

愛と善意で、暗黒の谷で、弱きを導くものに祝福を

彼こそ兄妹を守り、迷い子を救う者なり

私は怒りに満ちた懲罰をもって、兄弟を滅ぼす者に復讐をなす

彼らに復讐をなす者、私が主である事をしるだろう

を説教します。

鬼才クエンティン・タランティーノ監督は、ビデオショップの店員時代、たくさんの映画を観ながら脚本を書いていた青年です。

犯罪と暴力の姿を描いた作品が初期に多く、1992年『レザボア・ドッグス』でデビュー、本作は監督第2作目となります。この『パルプ・フィクション』がヒット、新しいアメリカ映画の旗手となります。

どれも素晴らしい音楽ですが、冒頭のパンプキンとハニー・バニーの強盗のシーンのDick Date & The Del-Tones “Misirlou” そして、ヴィンセントとミアのダンスシーンにChuck Berry “You Never Can Tell” はいい感じです。

タランティーノは映画狂を自認しており、日本や日本映画にも造詣が深い。ブッチが武器を選ぶシーンで、迷いながら日本刀を選び、そして立ち回るシーンは日本映画へのリスペクトでもあります。

ポストモダンやポップカルチャー、そして低予算のB級映画がミラ・マックスの配給で賞を独占。本作は間違いなくタランティーノ監督の最高傑作として語り継がれていくでしょう。