映画『マルサの女』あらすじと解説/ここが見どころ!

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概要>伊丹十三監督の社会派作品。脱税の手口やからくりを楽しませながら教えてくれる。山崎努演じる権藤英樹の悲哀と宮本信子演じる板倉亮子の苦労の間で一瞬、感じる双方の奇妙な人間観察。脱税という硬いテーマをエンターテイメントに仕上げた作品です。

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登場人物

板倉亮子(宮本信子)
港町税務署からマルサに異動。仕事一筋で、髪のねぐせとそばかすが特徴。
権藤英樹(山崎努)
ラブホテルの経営者、脱税で富を築く。暴力団や政治家ともつながりを持つ。
花村(津川雅彦)
亮子の直属の上司で、統括官で査察チームの現場の指揮を執る。
伊集院(大地康雄)
亮子の同僚で、マルサのジャック・ニコルソンの異名を持つ。
金子(桜金造)
亮子の同僚で、張り込み中、ホームレスと間違えられ連行される。
剣持和江(志水季里子)
権藤の愛人(特殊関係人)、権藤に捨てられマルサに情報を暴露する。
鳥飼久美(松居一代)
近藤の新しい愛人(特殊関係人)、権藤に協力し証拠隠滅を手伝う。
杉野光子(岡田茉莉子)
権藤の内縁の妻、貸金庫の鍵を管理している。
権藤太郎(山下大介)
権藤の一人息子。反抗的だが心優しい子、蓄膿が気になっている。
石井重吉(室田日出男)
ラブホテルの支配人、権藤の指示で脱税を行っている。
露口(大滝秀治)
港町税務署での亮子の上司、亮子のマルサへの抜擢を喜ぶ。
蜷川喜八郎(芦田伸介)
暴力団関東蜷川組の組長、権藤と組んで地上げを行う。

あらすじ(ネタバレあり)

巧妙に悪どい手口で金儲けに励む、権藤英樹。

冬。深々と雪が降る、病室では末期がんの袴田老人が看護婦の乳房を吸っている。

そこに、権藤と部下の石井が訪れる。看護婦の手には、袴田の実印と印鑑証明があり二人に渡される。
癌は体を巡り命はもう長くない。権藤は石井に指示を出す“じいさんを社長にして袴田不動産という
会社”を登記させる。

夏。権藤は関東蜷川組と組んで、サラ金で焦げ付いている家庭の債権を抑え、占有者となり、巧みに2番抵当権者の菊池を取り込み、大口債権者となる、そしてまんまと売り抜け1億7千万円を儲ける。その後、袴田老人が亡くなるのを確かめて会社を倒産させる。

足が不自由で歩くときには杖が必要な権藤だが、もろ手を挙げて部屋で小躍りをする。

濡れ手に泡の儲けに喜ぶ間にも、政治家の漆原から高騰する株の情報が入り、株の儲けと応分の謝礼を
関東蜷川組を通じて政治家の漆原の秘書に渡し賄賂とする。

権藤は、部屋に作った隠し金庫にどんどん蓄財をしていく。

権藤は愛人を囲い、その部屋を通帳や印鑑の保管場所とし、そこから二重帳簿を廃棄させている。

これまでの愛人、和江から、新しい愛人のフェニックスの久美に乗り換えるために、保管していた印鑑と通帳をまとめる。このことに気づいた和江は逆上しハサミで権藤を脅すが、結局、捨てられてしまう。

ある時には、1等5,000万円が当たっている宝くじ券をもった怪しい男が現れる。裏金をなかなか表に出せないことに目を付けて、宝くじが非課税なのを利用して権藤に10%増しで売りつけて、男は5,500万を手にでき、権藤もクリーンなお金を手にできると言う両得な話を持ちこむ。

脱税を見逃さない、優秀な調査官。港町税務署、板倉亮子。

所変わって、昼下がりのカフェのテラス、女が二人くつろいでいる。

しかしよく見ると、ひとりは細やかにカフェの動きを観察し、伝票の通し番号が3ケタと4ケタの2種があり、片方は廃棄して売上を過少計上し脱税していることを見破る。

彼女の名前は、板倉亮子。港町税務署に勤務する、優秀な調査官だ。

板倉亮子は、次に、夫婦で営む食料品店を訪れる。

たくさんの品物が揃っていて外で買うのは米と野菜と魚くらい。それ以外は、店の商品を自家用に消費しているところを亮子に暴かれ追徴を受ける。「なんだ、弱い庶民をいじめやがって、もっと巨悪を取り締まれ」と言われ、毅然とした態度で、分け隔てなく取り締まっていることを話す。

亮子は、次に、パチンコ屋の脱税を調査する。

両替用の1万円札に赤マジックで印をつけ、そのお金が売上にカウントされていないことを突きとめる。亮子に脱税を指摘され、弁護士も抗しきれないと判断する。そうするとパチンコ屋の社長は泣いて捜査を逃れようとする。涙はウソ泣きで、弁護士もあきれ顔。かくも脱税を企む人間たちの神経は図太い。

亮子は権藤商事の調査をはじめるが、証拠がつかめない。

翌年の春、税務署では同伴旅館が重点対象となる。

ラブホテルでは、領収証はとらない。さらに総利益は60%以上はあり旨味のある商売。つまりは不正が行われる可能性が多いというのが重点対象の理由。

一方、権藤は和江から久美に乗り換えている。ホテルの二重帳簿の廃棄は、久美の役割になった。

上司の露口は亮子に、権藤商事の調査を指示する。まずは感触を探るため、ホテルのリネンサービスのシーツを納入する会社との取引実態を調査する。

亮子は権藤に近づく。内縁の妻、光子と一人息子の太郎とお手伝いのいる暮らしだが、権藤は、息子の太郎を可愛がっている。その素顔にはロマンティックで、良き父親の姿も垣間見えるが、権藤は、巧みに資産を隠し管理している。

亮子の調べに対して、“袴田不動産の倒産による小切手1億2000万の損金計上”や“蜷川喜八郎からの借入金5,000万など証書不備”など問いただすも確証が掴めない。

亮子は蜷川喜八郎のもとへ確認に行くが、蜷川と権藤の間は信義で成り立っており金銭貸借証明書などめんどうくさいものは無いと言われ、無用な深入りはやめるように脅されてしまう。

亮子は権藤の取引銀行のすばる銀行へも足を運び、権藤名義の預貯金を徹底的に調べるが脱税の証拠は出てこなかった。

翌日、関東蜷川組は、港町税務署を訪れて、税務署の調査を妨害する。

もはや本件は、マルサに預けるしか手はなかった。

マルサへ異動、仲間とともに権藤を追いかけ証拠を掴む。

夏、亮子はマルサへ異動となる。亮子は、東京国税局査察部・査察官となった。

亮子は想いが叶い大喜び、上司の露口も娘を嫁に出す心境で亮子を祝福し送り出す。

早速、亮子は新しい上司となった統括官の花村に帯同して、愛人のところへ向かう。愛人宅では、証書類は出たが、まだ肝心の貸金庫の鍵が出ない状況だった。同僚たちが苦戦するなか、亮子は難なく流しの口に隠された鍵を見つけ出し、手柄をあげる。

亮子は、仲間の査察官たちと次々に仕事をこなしていく。内偵先のあらゆるところから通帳や証書やメモなど巧妙な手口で隠された証拠が、次々に査察官に発見され暴かれていく。

ある日、査察部にタレコミの電話がかかってくる。

脱税の先は権藤商事、電話の主は、権藤に捨てられた和江だった。海岸通りのマンションに住む久美のマンションから出る朝のゴミを確認しろと言って、電話は切れる。

着任前の受け持ち区域だった経緯で、亮子が担当する。

ごみ処理収集車を追尾し、土砂降りの雨の中、捨てられたゴミ山の中から売上記録の紙を発見する。

花村たちは、内偵調査に着手する。

権藤の家に張り込んでいると、ラブホテルの支配人の石井がやってきた、その後にも続き、調べると、
4か所のラブホテルの社長たちで、すべては実質的なオーナーは権藤だった。

翌朝、権藤は朝から久美のマンションへ向かう。追尾する花村と亮子。

すると権藤の後に、銀行員風の男も久美の部屋に入っていった。部屋から出てきた、その男を亮子が、
また追尾する、それは、すばる銀行の行員で売上のお金が預けられていた。

さらに内縁の妻が別名義で貸金庫をかりており、金はこちらにも入っていた。

ガサ入れ、脱税の疑いで取り調べを受ける権藤と亮子への恩返し。

33か所、126名のガサ入れの準備が整った。着手は10時とした。

10時数分過ぎ権藤の屋敷に入る、「国税庁査察部、法人税違反の疑いで強制調査をする」と、花村は
裁判所が発行した許可状をかざしてみせる。

一斉に査察部のメンバーが、それぞれのガサ入れ箇所に内偵調査にかかる。愛人の久美のマンション、
石井のラブホテル、内縁の妻、光子の身柄拘束。

息子の太郎は、その日、学校に行かず家にいた。なぜかポケットには20万円を持っていた。何の金だと疑う権藤に、蓄膿の手術をする金だと言う。金を取り上げる権藤に太郎は家を飛び出す。亮子は権藤の
心配を受け、太郎を探し語らい無事、家に戻す。そのお金は、太郎がバイトで貯めたお金だった。

次々に物証が出てくるが、どうしても権藤の部屋からガサが出てこない。

権藤の目の動きを追いかけ書棚の方向を怪しむが本からは何も出てこない。花村は、権藤の人となりを
知りたいと話しかける。どうしたらそんなにお金を蓄えることが出来るのか、告発までの長い取り調べに向け権藤の性格を知っておくのは無駄ではないと、金儲けの秘訣を訊ねる。

権藤は、蓄財の方法を述べ始める、その時、もたれかかっていた亮子の書棚が動き出す。回転した本棚の向こうは隠し部屋になっていて、権藤の裏金や金の延べ棒や証文があった。

関東蜷川組にもガサが入る。内縁の光子も貸金庫の鍵を出した。すばる銀行も、架空名義預金の存在が、判明した。ガサ入れは成功し、9億いや、さらに増えて12億くらいの予定となった。

その時、査察部の課長に代議士の漆原から電話が入る。この調査をやめるようにと圧力がかかる。しかし査察部課長は逆に、“先生のお名前に傷がつきますよ”と進言し矛を収めさせる。そして、電話など無かったことにするとうまく取りなす。

政治家の扱いにも慣れた査察部だった。権藤の取り調べが始まった。

その翌年の春。6か月の尋問に堪えている権藤は、亮子と会う。

権藤は、亮子が、いつか息子の太郎を助けてくれたお礼と、亮子に自身の事業を手伝うように誘う。
首を振り断る亮子に、権藤はナイフで自分の指を切りつけ、ハンカチに貸金庫の番号を血文字で書く。
そこに3億の隠し預金があると言う。

かくして権藤商事をとりまく脱税の全容は判明した。

解説/ここが見どころ!

世の中の脱税の手口や方法を、教えてくれる映画としても最高

一般には、なかなか知ることのない国税局査察部の活動を知らしめた功績は大きい。

収税官吏ハ(中略)犯則アリト思料スルトキハ告発ノ手続ヲ為スヘシ 国税犯則取締法第一二条ノ二

のタイトルスーパーからはじまる。

映画の中で展開される脱税の手口を箇条書きに紹介すると・・・

●ダミーの袴田不動産会社を登記しそこから不動産を購入

●価値を下げるために不動産の一室に暴力団が占有

●大口債権者となり不動産を底値で買い高値で売り差益をとる

●袴田不動産を潰し預金を引き揚げ小切手を発行する

●カフェの注文伝票を桁違いで2種使い1種を売上除外とする

●食料品店の自営で店頭で販売する商品を自家消費する

●パチンコ店でカウンターを操作して一部を売上除外にする

●宝くじの非課税を利用して裏金と交換し手数料を得る

●離婚を偽装し慰謝料として財産を移し、その後、また結婚する

一般の人間は、なかなか知り得ない情報を映画を通じて教えてくれ、2時間強の作品ながらたいへん
密度の濃い内容で、軽快な音楽とともにさまざまな脱税の手口やその内容を教えてくれる。

権藤英樹と板倉亮子の間に起こるお互いの奇妙な敬意

人間の金に対する執着心は強く、誤魔化す側の狡猾さと、それを許さず暴く側の正義が、描かれている。国税局査察部や税務署はあくまで遵法精神だが、脱税を目論む側は、食料品店の夫婦のようなほぼ無知の状況から、ずる賢い伝票の捜査や機械の操作、ひいては完全に法の裏をかく犯罪行為とその幅は広い。

貪欲な金銭への執着は、違法であれば裁かれるべきであるが、映画では、権藤英樹と板倉亮子の間に、
赤ん坊から幼少、そして太郎への愛情のシーンを通じて、ほんの僅かながら救いの手を差し伸べている。

宮本信子演ずる板倉亮子の苦労と、山崎勉演じる権藤英樹の悲哀が、少なからず、本作品に人間味を
与え、脇を固める俳優陣の演技力で人間ドラマの社会派作品としてエンタティメントに仕上げている。

このような映画を観る機会をつくってくれた伊丹十三監督の仕事に敬意を払いたい。

本人は制作の動機について、「お葬式」などのヒットによる収益を税金でごっそりもっていかれて興味が湧いたためとのこと。当初は国税庁の協力の予定はなかったが、納税者に誤解を与えないようにとの趣旨で取材に協力的で、査察部のガサ入れのシーンは、マルサのOBが監修をしている。

四国・愛媛県松山市には、伊丹十三記念館があり、「常設展示室」と「企画展示室」に分かれている。
館長は妻であり、女優の宮本信子。数々の絵コンテや直筆のメモが細かく書き込まれた台本などが展示
され、上映会なども行われている。

伊丹十三監督
映画『マルサの女』1987年公開の日本映画
1988年第11回日本アカデミー大賞において最優秀作品賞、主演女優賞(宮本信子)、主演男優賞(山崎勉)、助演男優賞(津川雅彦)、監督賞および脚本賞(伊丹十三)を受賞し主要部門をほぼ独占した。