映画『マルサの女』|脱税の巧みな手口を、見事に暴く板倉亮子。

伊丹十三監督の社会派作品。脱税の手口やからくりを、楽しませながら実際に暴いていく。金が人間を変える、性善説に立ちたいが、悲しいかな、性悪説こそが人間の業のようだ。脱税という硬いテーマを、柔らかく学べます。

解説

脱税のあの手この手を、見事に暴いていく貴重な娯楽映画。

「納税の義務に逆らい、うまく税金を逃れるなんて、なかなか常人には出来ない」などと思うと大間違い。どうも人間という俗物は、小さな悪を経験して、次第に歯止めがきかず大きな悪に向かうらしい。ここでもっとも大きな工夫が、法の網の目をくぐる悪知恵である。

しかし、天網恢恢てんもうかいかい にしてらさず。脱税は許さない、国税局査察部のお出まし!という物語だ。

なるほどそれって脱税してるのか、あるいはそんなこととは露知らず脱税に手を染めてるんだと初歩的な違反を紹介しながら、いよいよ事件の本丸、権藤商事の巨額脱税疑惑に乗り込む、ご存知、板倉亮子とマルサの査察官の面々。

一般には、なかなか知ることのない国税局査察部の活動を知らしめた功績は大きく、世の中の脱税の手口や方法を教えてくれる映画としても『マルサの女』は貴重だ。

収税官吏ハ(中略)犯則アリト思料スルトキハ告発ノ手続ヲ為スヘシ(国税犯則取締法第一二条ノ二)

のタイトルスーパーからはじまる。脱税の手口のあの手この手から、内偵や調査、ガサ入れでの証拠押収、告発の手続きと、あらすじを追いながら解説を聞きながらよく学べる素晴らしい娯楽映画である。

映画の中で展開される脱税の手口を箇条書きに紹介すると・・・

軽いところ?では、カフェの伝票束を2種使い、1種を売上除外する。簡単に思いついて、かつ簡単に実施できる方法だ。

自営業で食料品店を営む場合に、店頭で販売する商品を自家消費として消耗する、こちらも売り上げを少なく申告できる。肉や魚などの生鮮はついつい食べちゃいそうですよね。

パチンコ店で、カウンターを操作して一部を売上除外にする。映画のなかではCR機の目盛りをいじっていた。そして亮子がマーカーにつけた金が店長の財布にあるのを確認して除外されたことを証明する。

以上、港町税務署勤務の時代の板倉亮子の脱税の摘発の事案である。

静かな風景のなかのカフェの日常や、個人の自営業のお店、市中のパチンコ屋での出玉コントロール、普通の生活の中で様々な脱税の手口が実践されている。人間の金への執着や、税金逃れの欲望は、まるで「モグラ叩き」の様相を呈している。

そして巨額の脱税を疑われる権藤ごんどう秀樹の手の込んだ方法である。

当然ながら、疑惑だけで充分な証拠がなければ、立件は不可能である。そこを国税局査察部(通常マルサ)が、靴をすり減らし足で証拠を集めながら、機が熟した時に「ガサ入れ」を行い、物的証拠という収穫をあげ、立件し裁判となり、行政制裁として付加的に課せられる。所謂、追徴課税である。

冒頭から、社会派映画らしくショッキングなシーンで始まる。

冬、深々と雪が降る。病室では余命僅かな末期癌の袴田はかまだ老人が、看護婦の乳房を吸っている。死を迎えても、あるいは迎えてこそ、人間の本能的な欲求を描く。

看護婦は、袴田老人を手懐てなずけ言いなりにして、実印と印鑑証明を握る。権藤は部下の石井(室田日出男)に指示して “じいさんを社長にして袴田不動産という会社” を登記させる。

夏、権藤は関東蜷川組と組んで、サラ金で焦げ付いた家庭の債権を押さえ占有者となり、巧みに2番抵当権者を取り込み大口債権者となる。そしてまんまと売り抜け1億7千万円を儲ける。その後、袴田老人がなくなり会社をたたむ。

濡れ手に粟の儲けに喜ぶ権藤のもとに、政治家の漆原から高騰する株の情報が入り、株の儲けと応分の謝礼を関東蜷川会を通じて政治家の漆原の秘書に渡し賄賂とする。

権藤は、部屋に作った隠し金庫に蓄財をしていく。愛人を囲い、その部屋を通帳や印鑑の保管場所と、二重帳簿の廃棄場所にしている。

翌年の春、税務署では同伴旅館が重点対象となる。所謂、ラブホテルである。

総利益60%以上はあり旨味のある商売。つまりは不正が行われる可能性が多い。ラブホテルの客室の稼働数は、なるほど領収書を取る客などいないので、突合できなければ正誤を確認する方法はなく、売上数字を操作することは容易い。

一方、権藤は和江から久美に愛人を乗り換えている。ホテルの二重帳簿の廃棄は、久美の役割になった。上司の露口は亮子に、権藤商事の調査を指示する。

まずは感触を探るため、ホテルのリネンサービスのシーツを納入する会社との取引実態を調査する。

亮子は権藤に近づく。内縁の光子と一人息子の太郎とお手伝いのいる暮らしだが、権藤は、巧みに資産を管理している。袴田不動産の倒産による、小切手1億2000万の損金計上、蜷川喜八郎からの借入金5,000万など証書不備などもある。

亮子は権藤の取引銀行のすばる銀行へ足を運び、権藤名義の預貯金を徹底的に調べるが脱税の証拠は出てこない。蜷川は、権藤との間は信義で成り立っており金銭貸借証明書などめんどうくさいものは無いと言う。

巧妙な手口で、大きな金を生みだしていき、税金を逃れ、金塊や債券や現金に換えて蓄え増やしている。人間の金への強い執着心、誤魔化す側の人間の狡猾さと、暴く側の正義が、交錯する。

内偵からガサ入れまで、東京国税局査察部の仕事がよく分かる。

夏、亮子はマルサへ異動となる。亮子は、東京国税局査察部・査察官となった。

国税局査察部や税務署はあくまで正義というか遵法精神であるが、脱税を目論む側とは永遠に果てることの無い、人間同士のいたちごっこである。脱税はかくも虚しく阿呆な人間の業である。

早速、亮子は新しい上司となった統括官の花村に帯同して、愛人のところへ向かう。亮子は、マルサの仲間である伊集院や金子たちと次々に仕事をこなしていく。

内偵先のあらゆるところから通帳や証書やメモなど巧妙な手口で隠された証拠が、次々に査察官に暴かれていく。和江のたれこみから、ごみ処理収集車を追尾し、捨てられたゴミ山の中から売上記録の紙を発見する。花村たちは、内偵調査に着手する。

33か所、126名のガサ入れの準備が整った。着手は10時とした。

10時数分過ぎ権藤の屋敷に入る、「国税庁査察部、法人税違反の疑いで強制調査をする」と、花村は裁判所が発行した許可状をかざしてみせる。

一斉に査察部のメンバーが、それぞれのガサ入れ箇所に内偵調査にかかる。愛人の久美のマンション、石井のラブホテル、内縁の妻、光子の身柄拘束。

そしてついに、書棚の裏の隠し部屋から権藤の裏金や金の延べ棒や証文が出た。

関東蜷川組にもガサが入る。内縁の光子も貸金庫の鍵を出した。すばる銀行も、架空名義預金が判明した。ガサ入れは成功し、12億くらいの予定となった。

その時、査察部管理課長宛てに、代議士の漆原から圧力がかかるが、“先生のお名前に傷がつきますよ”と進言し矛を収めさせる。マルサは引き下がらない。政治家の扱いにも手慣れた査察部だった。

権藤英樹と板倉亮子の間に、赤ん坊をあやしたり、幼少の頃を思いうかべたり、さらに権藤の息子太郎への愛情シーンを差し込むことで、ほんの僅かながら、人間本来の心優しさを確認している。

そして権藤は、息子太郎の御礼として亮子に貸金庫の番号を血文字で書く。そこに3億の隠し預金があると言う。かくして権藤商事をとりまく脱税の全容は判明した。

性善説に立ちたいのは山々だが、残念ながら性悪説にたつのが人間の業というものだろう。

制作の動機について、「お葬式」などのヒットによる収益を税金でごっそりもっていかれて興味が湧いたためとのこと。当初は国税庁の協力の予定はなかったが、納税者に誤解を与えないようにとの趣旨で取材に協力的で、査察部のガサ入れのシーンは、マルサのOBが監修をしているらしい。

このような映画を観る機会をつくってくれた伊丹十三監督の仕事に敬意を払いたい。

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