映画『L.A.コンフィデンシャル』|怪しい妖しい、洒脱な大人のミステリー。

マリファナ、売春、恐喝。犯罪渦巻くロサンゼルス。腐敗に立ち向かう3人の刑事、ガイ・ピアーズ、ラッセル・クロウ、ケヴィン・スペイシー。テーマは出世、愛、お金。コンフィデンシャルとは何か、L.A.を舞台にしたお洒落で魅惑的な犯罪ミステリー。

解説

Confidential=秘密。この映画は、ロサンゼルスの大人の秘密。

大人の夜に繰り広げられる、何やらお洒落で怪しげな犯罪ミステリー。

“ 降り注ぐ太陽が沈めば、漆黒の闇がある。” タイプライターを打つ音に合わせ、ゴシップ雑誌の編集長シドの軽妙なナレーションで物語が始まる。上質で古き良きアメリカのノスタルジックな感じです。

3人のロサンゼルス市警の刑事が、麻薬の犯罪を追いかけるお話。

それぞれのキャラをご紹介しると、

エド・エクスリー警部補 は、肉体よりは知性派で、神経質そうに眼鏡をかけている。線の細い性格ながら上昇志向が強く、正義のためなら仲間を売ることも辞さない、よく言えば強靭な意志と政治力で出世を目指すタイプ。父親も警部で親子二代のロス市警です。

バド・ホワイト巡査は、マッチョな超肉体派。理屈よりも腕力で正義を示す性格で、圧倒的な暴力で弱い立場のものを守ります。母親が父親のDVを受けた思いでがあり、その記憶で女性に暴力をふるう男を許せないという条件反射的な衝動にかられます。

ジャック・ビンセント刑部は、粋な麻薬課のスター刑事の顔と、裏ではシドに情報を流し裏金を得る世渡り上手の顔のふたつを持ちます。テレビドラマ<名誉のバッヂ> の演技顧問もして飄々としていますが、プロフェッショナルな事件の嗅覚を持ちます。

時は、1950年代末のロサンゼルス。大物マフィアのミッキー・コーエンが逮捕されて、暗黒街は跡目を巡って新たな覇権争いが激しくなります。

次々に起こる連続殺人事件、売春、スキャンダル。広がる暴力と腐敗を一掃すべくスミス刑事部長の指揮の下、エド、バド、ジャックの3人が、L.A.の犯罪を究明していきます。

それは、クリスマス・イブの夜にはじまります。

バドは、イブの夜、相棒のステンズランドと街を巡回中、女房に激しい暴力をふるう男を目撃し、圧倒的な腕力で叩きのめす。その帰り道、イブの酒盛りのため酒店を訪れます。そこで黒いマントの魅惑的な女性リンと出会います。

彼女を待つ車には、鼻に大きな包帯をした女性がいました。声をかけると、用心棒が出てきてひと悶着ありますが、ひとまずその場は何も起こらず、二人は署に引き上げます。

一方、有名な刑事を父に持つエドは、警部補試験をトップ合格し上司のスミスに転属を願い出ます。スミスは、ひ弱な彼の異動を渋りますが、エドの意志は固く刑事部に配属されます。

ジャックは、ロス市警の活躍を描くテレビドラマ<名誉のバッヂ>の演技指導を行っています。今日も、ゴシップ誌<ハッシュ・ハッシュ・マガジン> の編集長兼記者のシドに情報を流し、謝礼を受け取ってほくそ笑んでいます。

イブの夜、ロス市警の署内でも酒盛りが始まります。

そこへ刑事を撃った容疑者が連行され、酒の勢いも手伝い、ステンズランドが容疑者を殴りつけ、仲裁に入ったバドやジャックも巻き込まれ署内は大乱闘になります。

新聞は「血のクリスマス事件」と大見出しで報じ、ロス市警の権威は失墜します。

地方検事や、警察本部長、スミス部長などが信頼回復に頭を抱える中、エドの提案が採用されます。その内容は、首謀者ステンズランドの免職と、バドとジャックの謹慎や転属で、事態は早期に解決します。

仲間を売ったエドと相棒を失ったバドには大きな溝ができてしまいます。

そんな中、ダウンタウンのナイトアウル・コーヒーショップで惨殺事件が発生。

スミスの指揮下、3人が捜査に動きます。被害者の中に、先ほど免職したバドの相棒だったステンズランドとイブの夜の包帯の女性も含まれていました。

検視の結果、女性の名前はスーザンと判明。彼女は、ハリウッド女優リタ・へイワーズになぜかそっくりなのです。スーザンは母親も戸惑うほどの整形を施していました。

バドは、イブの夜に酒店であった女性リンの住所からピアスという男をつきとめます。ピアスは、ハリウッド女優に似せた売春婦を組織する「白ユリの館」の元締めでした。そして、用心棒の名前はバズ・ミークス。

 「白ユリの館」のキャッチフレーズは “お望みのままに”

そこでは検事や政治家との夜の情事が秘かに繰り広げられています。バドは、リンのもとへ訪問しピアスとの関係を探ります。

エドとジャックは、スミスの流した目撃情報から容疑者を捕まえ自白を迫りますが、脱走され、発見するも抵抗され、正当防衛で犯人の黒人少年3人を射殺します。その功績で、エドは武勲賞を受けますが、後に、誤逮捕と判明します。

一方、シドは、今日もジャックのネタでハリウッドのホモ男優のマリファナ疑惑をスクープし、大々的な見出しを付け暴き立てます。ジャックはこの逮捕で、ホモ男優の持ち物から「白ユリの館」のネームカードを見つけます。

ある時「白ユリの館」で、情事を写真に収められた市議。彼は、ピアスの利権となるフリーウェイ建設に反対していましたが、この恐喝で再選を断念し建設が始まります。

ピアスは政財界にも食い込むフィクサーでもありました。

こうしてL.A.の夜は、マリファナ、売春、賄賂、恐喝と腐敗の中にあり、謎の多い「白ユリの館」は妖しく、ナイトアウル事件も誤逮捕で振り出しに戻ります。

リンのもとへ事情聴取に訪れるバドは、リンに心惹かれていきます。リンもまたバドに思いを寄せていきます。

バドの捜査はスーザンの実家に及びます。母親の話から、ステンズランドとスーザンが恋人だったことを知ります。そして、家の床下から死体を発見します、死体はイブの夜、車から出てきた用心棒のバズ・ミークスでした。意外なことにバズもまた、過去はロス市警の刑事でした。

出世欲、愛情、お金。エド、バド、ジャックの承認欲求が面白い。

事件の背景には、大きなヘロインの利権が絡んでいました。

一方のジャックも、ステンズランドとバズが昔、ロス市警の風紀課にいた当時に、ピアスを恐喝容疑で調べた報告書の記録を見つけます。シドに娼婦と情事にふける姿を写真に撮らせ、客をゆするやり方で、市議のときと同じ手口でした。

そして、その時の二人の上司がスミスだったことをジャックはつきとめます。 

真相を掴んだジャックは、スミスの家に訪れ核心に迫りますが、逆にスミスの一瞬の銃弾に倒れます。

ジャックは、最後のダイイングメッセージ 「ロロ・トマシ」という言葉を口にして果てます。

このメッセージが、エドに事件の解決のヒントを与えてくれます。それはエドが警察官になった理由でした。暴漢に襲われて殉職したエドの父親。その犯人は未だ捕まることなく、世間に紛れてのうのうとで生きている。“ロロ・トマシ”とは、幼かったエドが犯人を生涯、忘れないためにつけた架空の名前でした。

ジャックの死の翌朝、スミスはエドに “ロロ・トマシ” を知っているかと尋ねます。エドは、スミスに不審を抱きつつ、知らないと答えるのでした。

そのころエドは、バドとリンの関係を探ろうとリンの部屋を訪れます。

リンは、バドとエドを男として比較し「あなたは仲間を裏切る小心者で出世欲のかたまりだ」 とエドを侮辱します。エドはプライドを傷つけられ、仕掛けられた罠とも知らず、逆上しリンと強引に肉体の関係を持ちます。

その言葉はバドを慕うリンの本心の言葉だったのか、それともピアスがリンに指示した罠だったのか。エドが乱暴にリンの身体を貪りつく行為を、庭先にいるシドが容赦なくカメラのシャッターを押し続けています。エドも罠に落ちていきました。

スミスは、真相が発覚することを恐れ、シドと芝居を打ちます。

スミスはバドを連れ立ち、シドを捕らえている部屋を訪れます。シドを烈しく尋問し、バドの腕力で白状を迫ります。そして、ジャックの死をピアスの犯行と見せかけます。同時に、リンと情事に及んだエドの写真を車のトランクに忍ばせ、巧妙な手口でバドに発見させます。

逆上したバドはリンを訪ね、悲しさと怒りのあまり彼女に手を挙げてしまいます。そしてバドの怒りはエドに向かいます。これもすべてスミスの計算でした。

一方的なバドの大乱闘の末に、エドの懸命の説明で、すべてはスミスの策略と陰謀だと理解したバドは、エドと協力してスミスとの最後の戦いに挑みます

その頃、シドは芝居と思っていた拷問で、口封じにほんとうに殺されてしまいます。バドとエドはピアスのもとへ訪れますが、すでにピアスもジャック殺しの遺書を残し死んでいました。全てスミスが仕組んだことで、エドとバドは、もう騙されません。

決戦のビクトリアモーテル、息を飲む銃撃戦が始まります。最初は一進一退でしたが、圧倒的な人数のスミスたちに、バドはエドをかばい銃弾に倒れます。エドはそれでも、バドの手助けでスミスを追いつめます。

スミスは、昔、ひ弱な新米のエドに「きみのようなインテリが、更生の見込みのない悪人を背中から撃ち殺せるか」 と戒め、刑事部への転属を渋る冒頭のシーンがあります。

しかしエドは、スミスを容赦なく背中から撃って射殺してしまいます。

前代未聞の大スキャンダルに困惑する上層部たちに向かって、エドは、全てはヘロイン利権をマフィアから奪おうとしたロス市警の腐敗が原因だったと説明します。

深い悔恨の念をしめす地方検事や警察本部長に、エドは、自身の刑事部長への昇格と引き換えに本件を永遠に闇に葬ることを約束します。その結果、スミスは名誉の殉職扱いとなり、エドがスミスの後任となりました。知略にすぐれたエドは遂に頂点に立ったのです。

 一方、九死に一生を得た不死身のバドは、リンと共に暮らすことを選びます。エドとバドは堅い握手を交わして、エドは出世を果たし、バドはリンと共にアリゾナに旅立つ場面で物語は閉じられます。

不思議な言葉 “ロロ・トマシ” 、ジャックの謎と物語の決め文句。

L.A. Confidential、つまりはロス市警内部の大きな腐敗が秘密なのです。そんなクライムミステリー映画ですが、後味の良い大人のお洒落感が漂います。このお洒落感の秘密は何なのでしょうか。

それはきっと、リンを演じる女優キム・ベイシンガーの魅力です。

最期まで謎めいたリンの存在は、正義の側でも悪の側でもなく勧善懲悪などの凡庸さではない大人の女性の知謀に満ちています。見方によってはロス市警のバドとエドを利用しながら、「白ユリの館」の娼婦の暮らしから脱し、幸せを掴み取る。L.A.のミステリーは、リンのミステリーでもあるのです。

上昇志向で名誉を求めるエドの生き方をうまく操りながら、不器用で純粋なバドを愛し、“お望みのままに” と受容れ、L.A.の秘密を抱えたまま、新しい人生を始めるラストこそが、謎でお洒落なのです。そして彼女はこの演技でアカデミー助演女優賞を獲得します。

そして極めつけは、“ロロ・トマシ” の死に顔の演技が、心に残るケヴィン・スペイシー。

エンドロールに「 “名誉のバッヂ” ジャック・ビンセントに捧ぐ。」とテロップが入ります。

刑事になった理由は?と聞かれたときに、エドは幼い時に刑事だった父を暴漢に襲われ亡くしたからという正義感、バドは母親が虐待を受けて育ち弱き者を守るという正義感、この二人に対して、ジャックだけが「忘れた」と答えます。

3人の結末は、エドは出世、バドは愛、そしてジャックは死でした。

物語は、最初こそ3人が絡みますが、その後はエドとバドとリンが絡む部分と、ジャックの部分はパラレルに進みます。ジャックは、テレビドラマ<名誉のバッヂ>の演技指導をしながら、シドに情報を流し華やいだ世界で陽気な悪徳感を振り撒きます。そしてあっけなくスミスに殺されてしまいます。

ケヴィン・スペイシーのこの軽妙な演技は秀逸です。ほんの少しの顔の表情やしぐさで多くを語れる俳優です。“ロロ・トマシ”の死に顔の演技は、このセリフと表情で作品の大部分の旨味をさらいました。

大人の犯罪ミステリー映画、ぜひもう一度、ご覧になってはいかがでしょうか。