エンデ『モモ』解説|時間とは何か?大人たちへ心の在り方の箴言。

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作品の背景

ミヒャエル・エンデはドイツの児童文学作家。世界的な大恐慌が発生した1929年、ミュンヘンの南西80Km、ドイツとオーストリアの国境近くにあるガルミッシュ=パルテンキルヒェンに生まれ、ナチス・ドイツの台頭のなか第二次世界大戦という未曽有の殺戮の時代に青春期を送ります。

第1作目は1960年に『ジム・ボタンの機関車旅行』が刊行され、61年にドイツ児童文学賞を受賞。1971年からローマ南東25km ネミ湖畔のジェンツァーノに居を構え、41歳から56歳まで15年を過ごし、名作を世に送り出していきます。

人間から時間を盗む「時間泥棒」である<灰色の男たち>に奪われてしまった町の人々の時間を取り戻すために、不思議な力を持つモモが活躍する冒険ファンタジーの中に、形而上的な<時間>の概念を哲学的に説いており、近代以降の物質主義や科学万能主義の現代社会に対する文明批判でもあり、人間の心の精神世界の重要さを訴えます。

全体は、詩的世界に人生の真実を吹き込むメルヘンの世界です。1974年に『モモ』で再び児童文学賞を受賞。さらに「ファンタ―ジェン」を救うために大冒険を繰り広げる79年の『はてしない物語』を発表、ベストセラーになります。

1986年にはイタリア=西ドイツ合作で映画が制作され、冒頭にエンデ自身も登場しています。先妻の病死を経て、89年9月に翻訳者の日本女性と結婚。この年の11月に「ベルリンの壁」が市民によって壊され、東西ドイツが統一されます。

この2つの物語で世界中の人々にエンデの名は記憶されています。エンデは65年の生涯を通して、ファンタジー作家としてだけではなく、現代社会の政治・経済・文化・環境・芸術など幅広い分野で発言を残しています。

発表時期

1973(昭和48)年、ドイツのシュトゥットガルドの出版社ティーネマン社から刊行。ドイツからローマ郊外に移住し、ミュンヘンの喧騒から解放され明るく暖かなイタリアの雰囲気に魅了される。エンデは、ローマへの感謝のしるしとして本作『モモ』を執筆、自ら挿絵も描きます。

全世界30以上の言語で翻訳される。日本では1976年に岩波書店から刊行。77年には初めて日本にも訪れ、東京や京都に滞在する。能や歌舞伎を観賞し、禅など東洋思想に関心を持っていたエンデは、禅寺で老師との対談などを行い、物語の構想に大きな影響を受けます。