映画『アメリカン・ビューティ』あらすじと解説/ここが見どころ!

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解説>素晴らしき理想が崩れていく現代のアメリカの姿を描く。夫婦の関係、親子の関係、会社の関係、隣人の関係、友人の関係。全ての関係が壊れている。リベラルな個人主義の先にあるもの。ケビン・スペーシー演じる、悲劇的で喜劇的な、哀れで少し幸せな結末。

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登場人物

レスター・バーナム(ケヴィン・スペイシー)
広告代理店に勤める42歳の主人公、リストラにあう。
キャロライン・バーナム(アネット・ベニング)
レスターの妻で、成功を目指し不動産業を営む。
ジェーン・バーナム(ソーラ・バーチ)
バーナム夫妻の一人娘、多感で父親が大嫌い。
アンジェラ・ヘイズ(ミーナ・スヴァーリ)
ジェーンの級友で、レスターから好かれてしまう。
リッキー・フィッツ(ウェス・ベントリー)
バーナム家の隣に住む、ジェーンに好意を持つ。
フランク・フィッツ(クリス・クルーノー)
リッキーの父親、元海軍の大佐で保守的な性格。
バーバラ・フィッツ(アリソン・ジャネイ)
フランクの妻、厳格なフランクに疲れている。
バディ・ケーン(ピーター・ギャラガー)
シカゴの不動産王、キャロラインと関係を持つ。

あらすじ(ネタバレあり)

広告代理店に勤めるレスターは、42歳。

シカゴの郊外に妻キャロラインと愛娘ジェーンの3人で、幸せな家庭を築いているように見えます。

郊外に暮らす幸せそうな中流家庭、でも実態は破綻寸前。

ところが、レスターとキャロラインの関係は、すでに冷え切っています。そして、年頃で多感なジェーンからは、冷たい態度で接されています。

ある日、キャロラインはレスターと連れ立ち、ジェーンのチアリーディングの見学に学校に赴き、レスターとジェーンの親子関係を修復しようとします。

そこで、レスターはジェーンの親友のアンジェラのダンスに魅了されます。

その夜、レスターは、バラの花に敷き詰められた裸のアンジェラの妄想を抱いてしまいます。

そんな折に、隣家に元海軍大佐のフランク・フィッツ一家が引っ越してきます。フランクは厳格で、ゲイなどをもっとも毛嫌いする保守的な性格でした。

妻のバーバラは、堅苦しいフランクとの生活に精神を病んで疲れきっている様子です。

息子のリッキーは、ジェーン に好意を持ち、秘かにビデオカメラで撮影をします。

ジェーン は、最初はリッキーを気味悪く思いますが、やがて二人は付き合いを始めます。

それぞれの自意識過剰が、お互いの関係をさらに不可解に。

キャロラインは、レスターを連れ立ってあるパーティに出席します。そこで、不動産販売の競争相手のバディに販売ノウハウの伝授を請います。

レスターは、ウェイターとしてバイトしている隣家のリッキーと知り合いになり、マリファナをご馳走になりハイな気分になり仲良くなります。

その夜、レスターは帰宅すると、 ジェーンがアンジェラを誘って家に遊びに来ていました。おませなアンジェラは、レスターがもっとマッチョなら寝てもいいと話しジェーンから軽蔑の視線を向けられます。

それを聞いたレスターは、体を鍛え始めます。リッキーは、そんな隣家を窓から盗撮します。部屋でくつろぐジェーンや筋トレに励むレスターを、ビデオに撮り続けます。

レスターは、 バラの花のバスタブに浸かったアンジェラを妄想します。

崩壊する家族と、エスカレートする幸せな妄想。

ダンベルに加えジョギングやベンチプレスも始め、リッキーからマリファナも分けてもらいハイになりながら、アンジェラを思い、生まれ変わったかのように体を鍛えていきます。

レスターは、会社を辞めたことを家族に告げます。ローンの残債もあり、あきれたキャロラインと派手な夫婦喧嘩となり、キャロラインは、味方につけようとした ジェーンから、しらじらしいホームドラマはやめてと言われ、ほぼ家族は崩壊してしまいます。

隣家でも、大切な戸棚の施錠を開けたリッキーにフランクが鉄拳制裁を加え、目上の者を敬わず、ルールをわきまえない息子に、精神構築や規律の必要性を暴力で教えます。こちらの家庭も、同じように崩壊しています。

リッキーとジェーンの間は、お互いに付き合いが続いています。 ジェーンは、もっと父親に構ってほしいと願っています。その対象がアンジェラなので、精神的なダメージになっていて、父親を殺してほしいと冗談を言います。

現実に戻った時の、不信と破滅への道のり。

レスターは、単純な仕事を選びハンバーガーショップで働きます。偶然、ドライブスルーでキャロラインとバディの不倫を目撃し、夫婦の関係は決定的となります。

ある日、フランクは息子のリッキーの部屋でビデオカメラをみつけ撮影したものを何げなく見ます。そこには、隣家の盗撮シーンがたくさん映っていました。

窓越しから隣家をみると、リッキーがレスターにマリファナ煙草をつくる行為が、柱越しにゲイのセクシャルな行為と誤解し勘当してしまいます。リッキーも息子を信じない父親のもとを出ていきます。

フランクは、悲しみと憤りのあまり、秘かにレスターの殺害を企てます。

一方、妻のキャロラインは、バディとの不倫を目撃され、やけになってレスターを殺害しようと、銃を片手に家路を急いでいます。

ジェーンは、友人のアンジェラの誘惑に愛想をつかし、同時に恥さらしな父親レスターに絶望し、リッキーと街を出ようとしています。止めようとするアンジェラを罵り、彼女は傷ついてしまいます。

全ての関係の破綻は、まさにピークに達しています。

壊れながら、直しながら、小さな幸せを感じて。

アンジェラは、レスターに体を許そうとしますが、遊んでいるように見せかけていたアンジェラが初体験であることを知ったレスターは、ジェーンの父親としての自覚を取り戻します。

レスターは、アンジェラに訊ねます。“ジェーンは、幸せか、不幸せか”と。

するとアンジェラは、“ジェーンは、恋をしていてとても幸せ。”と答えます。レスターは安心します。同時にアンジェラといることにレスターは幸せを感じます。

レスターは、仲睦しかった頃の家族の写真を眺める、その背後から、何者かに後頭部を打ち抜かれます。それは、リッキーの父親フランクでした。

死出の旅に向かうその時に、走馬灯のように懐かしい思い出がよみがえり、幸せそうに微笑みながら、レスターは死んでいきます。

解説/ここが見どころ!

豊かさと個人主義がもたらした、相対化の結末を皮肉ったパロディ。

古き良きアメリカ映画のイメージは、この映画には全くありません。

さらに、その後のニューシネマ時代の社会や政治の病巣が凝縮されたテーマでもありません。

そこには、救いようのない問題が山積みです、全てが問題で、一切、解決の糸口さえ見つからない。

家庭の崩壊では、共働きによりお互いの意識や収入も異なり、同時に目指すものも異なる。それが原因で、夫婦の愛情や思いやりは無くなっています。

夫は、会社の上層部の不正が見逃されていることや自分が奴隷のように働かされていることに辟易し、自ら会社を辞めてしまいます。そして、あろうことか娘の友達に熱をあげます。

妻は、成功を夢見る上昇志向が高じ、同業で憧れである不動産王の男と不倫に走ってしまい、女を武器にしながら、野心的にのし上がろうと考えます。

反抗期の娘は、父親と全くそりが合わず、父親が友人に恋をすることで、不潔で汚らわしく決定的な溝が出来上がります。そして、薬漬けのサイコパスな男と家を出ていこうとします。

娘の友人も早熟で、背伸びして自分を高く売る方法ばかりを考えています。

隣人の元海軍大佐の家庭は、厳格すぎて、妻は疲れ果ててしまい、息子は、早くから薬の売人であり、同時に自身も薬に溺れている状況です。

夫婦の関係、親子の関係、会社の関係、隣人の関係、友人の関係、リベラルな考えで全てが相対化された結果、全てが滅茶苦茶な状況に陥っていて救う手立てもありません。

その中に、主人公の妄想を中心に進む物語は、最後は殺されてしまいますが、それでもほのかに幸せだったと走馬灯の思い出で終わります。

かなり悲劇なのですが、ここまでくると喜劇として捉えたくなる作品です。

第72回アカデミー賞で作品賞を受賞しています。

バラが、さまざまなのシーンに登場し象徴化されています。

タイトルの「アメリカンビューティ」とは、バラの品種のひとつ。さまざまなシーンで登場します。

キャロラインが自宅の庭にバラを栽培している、ここでは“豊かな家庭の象徴”として。

レスターの妄想で、アンジェラのチアダンスやバスタブの中の花弁は“官能の象徴”として。

家庭や社会の崩壊を象徴として“アメリカの美”のタイトルが皮肉をもってつけられています。

1999年の作品ですが、90年代以降は、相対的でリベラルな風潮が加速し、古き良き時代の倫理や規範とのギャップは甚だしく、ぎりぎりの平衡を保ちながらの破綻寸前の成熟した社会を皮肉っています。

アメリカだけでなく、先進国は、概ね共通の病として抱え込んでいると思われます。このそれぞれの問題をいかに乗り越えていくかは、実は、まじめなテーマでもあります。

映画「アメリカン・ビューティ」屈折していく社会を、真剣かつパロディ化した作品です。