映画『アメリカン・グラフィティ』|故郷を出るか否か、それが青春の選択だった。

ヴィンテージカーが町を遊弋し、ごきげんな50’sが気分をハイにしてくれる。巨匠ジョージ・ルーカスが一夜限りの煌めきを自身の思い出のなかに描いた青春の落書き。故郷から旅立つか否かを迷い、決断したあの夏の色褪せることのない記憶を、かけがえのない仲間とともに描く。

解説

Where were you in ’62 ? この映画のキャッチフレーズである。

ルーカスは「クルージングは通過儀礼で、その思い出を記録に残したかった」という。ビーチボーイズを始めロック&ロールの音楽に乗せて町をヴィンテージカーが遊弋ゆうよくする。

Where were you in ’62 ? この映画のキャッチフレーズである。

若者は10代のある時期、社会に巣立つ。その時に、故郷を出るか、留まるかの決断を迫られる。

大人になって、記憶を訪ねに行く。そうしてあの季節、友と過ごした懐かしい自分と邂逅する。もうその場所に自分はいないが、あの頃の自分を思う。そんな二度と戻ってこない気持をあらすじを追いながら、感じてみたい。

50年代のアメリカは好況だった。60年代に翳りが見え始める。不都合があばき出されてきた。キング牧師の公民権運動、ケネディの暗殺、ベトナム戦争の泥沼化、ヒッピームーヴメント、反戦運動。

この映画は、ひとつの時代の終わりを描く。無垢なアメリカは終わりを告げ、真実が晒されていった。

1962年9月のカリフォルニア州モデスト。ルーカスが青春時代を過ごした町。夏の一夜の若者たちの青春群像。エピローグに、登場人物の4人のその後が紹介され映画は閉じられる。

ビッグ・ジョン・ミルナーは、1964年12月、酔っ払い運転の車との事故で死亡。あの夏から2年後の出来事だった。

テリー・フィールズは、1965年12月、ベトナム戦争におけるアン・ロク付近の戦闘中に行方不明。戦争はこの小さな町にもその影を落とした。

スティーヴ・ボランダーは、現在カリフォルニア州モデストで保険会社の外交員を勤めている。彼はあの後、故郷で生きることを選択した。

カート・ヘンダーソンは、作家となって現在はカナダに住んでいる。あの日のウルフマンの言葉通り、故郷を出て表現者として仕事をしている。

孤独や暴力のテーマの多いアメリカンニューシネマのなかで『アメリカン・グラフィティ』はアメリカの古き良き時代を、50‘sの音楽と共に満喫できる青春映画である。破壊ではなく、郷愁のなかに現在を確認する。

優秀な成績で卒業したカートとスティーヴを軸に、夜から朝までのワンナイトを描く。

東部の大学で見聞を広めようとする若者、故郷に残り愛を守ることにした若者、廃れていく町を孤独に見つめる若者、町を楽しみガール・ハントに精を出す若者。各人各様の心模様のなかで一夜が始まり、そして終わり、朝が来て、別れと旅立ちの時がくる。

口論や喧嘩、出会いの喜びや別離の苦さ、勝負への競争心や体制への反抗心。そんな彼らが巻き起こす「graffiti-落く書き」の記録だ。

明日は東部の大学へ出発予定のスティーヴは、高校生活最後の夜を楽しもうと、いつもの「メルス・ドライブイン」で仲間を待っている。

ベスパを危なっかしく運転しながら一学年下のテリーがやってきた。卒業生のカートもポンコツのワーゲンで合流する。成績優秀なスティーヴとカートだが、様子がおかしい。最も優秀な学生として奨学金を受けたカートは東部の大学への進学を悩んでいる。

スティーヴは、改造車のクーペを転がし到着した、既に卒業して町にいる年上のジョンを見て「永遠の17歳でいるつもりか」と、決心のつかないカートをなじる。カートの妹のローリー(シンディ・ウィリアムズ)もいる、スティーヴはローリーと付き合っている。

スティーヴは、ローリーに別れを告げようとする。はなばなれになることを受け止めることができないローリー。自分の車を持たないテリーは、スティーヴから留守の間、愛車の327シボレーを預かるよう頼まれ、キーを渡されて有頂天になる。

一夜限りの青春の最後のひとときを、ロックンロールで夜通し過ごす。

卒業記念のプラムに向かうスティーヴ、ローリー、カート。ジョンは、卒業生としてさびれていく町に一人、物言えぬわびしさと孤独感に包まれている。

そんなセンチメンタルな夜が始まろうとしている。町にはたくさんのヴィンテージカーが集い、クルージングする。男も女も一夜のハンティングに町を遊弋ゆうよくする。“Runaway-悲しき街角”をはじめ50‘sのメロディがせつなく、そしてごきげんに流れる。

白のサンダーバードに乗るブロンド女性が、スティーヴとローリー、カートの乗る車の横に並ぶ。なぜか「アイ・ラブ・ユー」とカートに向かって唇を動かす。「何て言ったの?」と美女の瞳に問いかけるカートだが、車はそのまま道を横切り消えて行く。

「幻の美女を見た、追いかけろ」と興奮するカートを、スティーヴとローリーは無視して最後のデートを過ごしている。

ガール・ハントをするジョンの愛車に、女性たちの車から、幼いキャロルが乗り込んできた。あまりの年の差に話が全く噛み合わず、てこずるハンサムなジョンと、大人びた振る舞いの子供のキャロル。

併走車に悪口を言われキャロルがスプレーづけにする、ジョンも素早く車のタイヤを外す。大きなサーチライトの光に撥ねる二人の輝く表情を、“You’re Sixteen-夢見る16才”の歌が映しだす。最も美しいシーンのひとつだ。

卒業プラムは、賑やかに続く。ダンスに指名されるが、ローリーはダンスを拒む。それでも前生徒会長のスティーヴと、現チアリーダーのローリーは喝采を浴びながらステージ中央へ向かう。作り笑顔でダンスをする傷心のローリーは、涙を流さぬように歯を食いしばる。“Smoke Gets in Your Eyes -煙が目に染みる” プラターズの声が蒼い照明に溶けていく。こぼれだす涙が止まらない。

思い出づくりのために川辺に車を走らせ、何とか思いとどまるように願うローリーに、スティーヴは下品な言葉を放ち、車から追い出されてしまう。

町では55年型のシボレーに乗るボブが、ジョンを挑発する。レースで無敵のジョンだが、信号待ちの急発進でボブに威嚇される。

テリーは、キュートな女の娘デビーのガール・ハントに成功する、経験豊富なすねっからしのデビーに振り回されながらも楽しく過ごす。雑貨店で泥棒と知らずにオールドパーを頼むシーンは微笑ましい。なんとか川辺までデートにこぎつけるが、そこで車を盗まれてしまう。そして偶然に、テリーは、スティーヴと再会する。

カートは「東部へ行くのを止めようか」と先生に相談する。先生から「楽しむべき」と言われるが、決心がつかない。町に出てサンダーバードの金髪の女性を探し続けるなかで、ふとしたことでファラオ団と行動を共にすることになる。

ファラオ団は不良グループだが、ピンボール場での集金荒らしもうまくいき、パトカーにまんまと恥をかかせ、カートは逆に一目置かれる。ファラオの団長は「サンダーバードの金髪の女性は高級コールガール」と言うが、カートは信じない。

一方、自暴自棄になったローリーは、自らすすんでボブの車に乗り込む。スティーヴはローリーを失ってまで、東部へ行くのは「正しい選択ではない」とカートに伝える。

テリーは悪酔いで嘔吐の中、盗まれた車を見つける。ジョンのおかけで、テリーは車を取り返すことができた。たいへんな一夜だったが、デビーもテリーとの一日を楽しんで、電話番号を教えてくれた。

未だ見ぬ世界に出会うために、故郷を跡に都会に出る。

カートは、サンダーバードの幻の女性を探すためにウルフマン・ジャックのラジオ局を訪れ、呼びかけてもらおうとする。そこにいたDJは頼まれてテープを流しているだけで「ウルフマンの居場所は誰も知らない」と言う。悩むカートに「尻を上げろ!」と忠告する。観念したカートは帰り際、窓越しに「彼こそがウルフマン・ジャックである」ことを知る。

夜明け前、ボブとジョンがカーレースのためパラダイスロードに向かう。ボブの隣にはローリーが同乗し、スティーヴも心配して向かう。テリーはスタートの合図の役目を買って出た。

レースが始まる。猛スピードで一直線に夜明けのパラダイスロードを走る。臆病者が負けるチキンレース、ボブはジョンより鼻先を走るが、一瞬、ハンドルをとられ土手に落ちてしまう。「自分は負けた」というジョンに、テリーは「きみが一番だ」と元気づける。

横転した車から這い出るローリーに駆け寄るスティーヴ、二人は互いに抱きしめ合う、スティーヴは、決してローリーを離さないと誓う。

ウルフマンは、サンダーバードの女性へカートの伝言をラジオから届ける。約束の公衆電話近くで居眠りするカート。プラターズの歌う“オンリー・ユー”と共に電話のベルが鳴り響く、憧れの女性の声がカートにささやく。

「今夜、会いましょう」と優しくカートに話す。しかし、カートは今朝には東部へ出発する予定だ。「会えない」カートは告げる。そして旅立つ決心を固めた。

夜が明ける、飛行機に乗り込むのはカート一人だった。彼を見送る仲間たち。夢を追い旅立つ友へ、昔からの友は変わりなく、それぞれ心から別れの言葉を交わす。

機上の人となったカートはふと下を眺める。そこには白いサンダーバードが、カートの旅立ちを見送るようにどこまでも続く一直線の道を走っていた。