映画『愛と青春の旅立ち』|反抗を越えて、男は成長する。

リチャード・ギア若き頃の代表作。不遇な青年が士官になるまでの物語。孤独・利己・反抗を克服し、協調・利他・人格をそなえた男になるまでの成長を描く。フォーリーの教練、ポーラの愛情、感動のラストシーンは、まさにオフィサー&ジェントルマンとなっていく。

解説

大人への通過儀礼となる物語、永遠に輝く青春のための映画。

原題は「An Officer and Gentleman」これが邦題になると『愛と青春の旅立ち』。

邦題に賛否があるかもしれませんが、この映画が永遠に輝く青春映画になったのは、このタイトルによるところが多いのかもしれません。

自我の強い利己的な男が、人を信じ、敬い、協調し、愛する人を守る、そしてりっぱな大人に成長していく物語と捉えれば、思春期から青年期くらいの反抗的な若者には熱量が高まるでしょうし、既に大人ならば、青い季節の貴重な思い出かもしれません。その意味では、素敵なタイトルだと思います。

リチャード・ギアの熱演で、彼の代表作としていつまでも語り継がれる青春映画の金字塔となり、ジョー・コッカーとジェニファー・ウォーンズが歌う主題歌 “Up Where We Belong” は映画のシーンと重なり、いつまでも人々の心の中に生き続けることでしょう。

それでは、物語のあらすじを追いながら、ザックはどのタイミングで大人へと旅立ったのかを解説してみます。

母親は、ザックが12歳の時に、父親の不実が理由で薬を飲み自殺します。幼いザックには何も告げない死でした。仕方なく海軍の兵曹だった父を頼り、スービック基地のあるフィリンピンで過ごします。

母を捨てフィリピン娼婦と暮らす父をさげすみながら、ザックは暗い思春期を過ごす。そして大学を卒業した今、ここシアトルでも父の荒れた暮らしは続いている。

そしてザックはある朝、ここから抜け出すためにバイクに飛び乗り海軍士官になる道を選びます。

仲間と協調し愛を受け入れ、尊敬される大人に成長する物語。

士官訓練学校では教官フォーリー軍曹の猛訓練が始まる。士官候補生は34人、入学初日から教官は徹底的に彼らを罵倒し精神を入れ替えさせる。フィリピンで腕に刺青をいれ、いきがるザック・メイヨに、フォーリーは “マヨネーズ野郎”と挑発し侮辱する。

そしてフォーリーは、候補生に忠告する。 基地の周辺にはパイロットの妻になろうとせまってくる女どもがいて、子どもつくることで結婚を実現しようとしているから、気をつけろと。

そして、13週間の過酷な訓練が始まった。

ザックは高い運動能力で訓練をこなすが、作業をさぼったり、小金を稼いだり、仲間を助けることもなく利己的で協調性がなく、いつも孤独だった。

入学当初のザックは仲間をだまし、利己心の強いはぐれものだった。

それでもなぜかシドとだけは、ザックはうまがあい友だちになっていく。6週間経ち、候補生は市民との懇親パーティに出席が許された。パーティ出席者の中には、士官候補生目当ての女性もいた。

ザックとポーラ、シドとリネット、さっそくカップルが出来上がった。

ザックは、思春期の嫌な思い出から、ポーラに士官候補生目当てかと冷たく応じる。ポーラは、ザックに精神的な心の傷を感じている。シドは、親も兄も軍人で、兄はベトナムで戦死しているが、その血筋がリネットにとっては可能性のある士官候補に映った。

それぞれのカップルは付き合いを始めた。

ザックとシドにとっては訓練期間中の束の間の恋で、ポーラとリネットにとっては士官と結婚して海外で暮らす夢をかなえる手段だった。

ザックは、女性不信でいつも孤独でいらついていたが、ポーラの優しく真面目な性格のおかげで、少しずつ心を打ち解けていく。訓練のプログラムは、さらに過酷なものになっていった。ひとりまたひとりとDOR<希望退学=drop on request>がでる。

ザックは、不正で手に入れた品々を天井裏に隠し持っていたが、フォーリーに発見される。

ザックの人間性を見破ったフォーリーは、ザックの暗く傷ついた過去など無視し容赦なくシゴく。そして規律を守らぬ自己中心的なザックに対してDOR<希望退学>を迫る。自己中心的で協調性がないザックには、士官になる資格は無い。フォーリーはザックが士官の資質を備えていないことを見抜く。

DORを承諾しないザックに、フォーリーは体力の限界を超える猛特訓を課して、士官になることを諦めさせようとする。それでも、ザックは地獄のようなシゴキに耐えて、改心することを誓い長い謹慎期間をへて復帰する。

ザックにとって士官になりパイロットになることは、精神的な劣等意識から抜け出す唯一の道であった。ザックには、この道しかないのである。

何とか這い上がろうとするザックを、勇気づけ励ましてくれたのは、シドやポーラやリネットでした。ザックは、シドを真の友人として感謝し、ポーラといることが唯一の心の安らぎとなる。

シドの友情や、ポーラの愛情を受けザックは変わります。

ある日、ポーラの家に招かれ家族と食事を共にするが、父親から冷たい視線を向けられる。聞けば、ポーラは母が愛した士官候補生との間に生まれた子で実の父親ではなかった。ポーラもまた、今のみじめな暮らしから旅立ちたかった。

リネットは、責任感の強いシドに妊娠したことを匂わせ、嘘をつき結婚を決断させようとする。死んだ兄の許嫁いいなずけと卒業後は故郷に戻り結婚を約束しているシドは悩み苦しんだ。

最後のサバイバル訓練。シドはリネットの件で混乱し、訓練に脱落してDOR<希望退学>をする。

シドは、親の期待や尊敬する兄の身代わりの結婚ではなく、自らの道を選ぶためDORして、リネットに婚約指輪を贈り結婚を申し込む。しかしリネットは士官の妻になることが前提での付き合いであり、結婚はできないと断り、子どもの妊娠は間違いだったことを明かす。

失意の中で、シドは自ら命を絶った。大切な友を失い、薄汚い女の魂胆に、ザックは絶望する。

ザックはやり場のない怒りを、シドのDORを受諾したフォーリーにぶつける。自らもDORするとフォーリーに暴言を叩きつけ、武闘場での決闘を挑む。肉体をぶつけ痛めあうことでしかザックには方法がなかった。

やがて13週間が終了し卒業を迎え、候補生たちは少尉に昇級する。軍曹の位のフォーリー教官は、新しい士官たちに敬礼をして卒業を祝う。

大切な友を失ったザックは、苦しみながらも卒業メンバーの中にいた。DOR前提でのフォーリーとの格闘は、利己からの行為ではなく、強い友情の証だとフォーリーは斟酌し、DORを受け付けなかった。

ザックは、このとき人を理解し、信じ、敬い、仲間と強調し、愛を信じる人間に変わります。

きみのことは忘れない、おかげで卒業が出来た」と感謝の言葉をつげるザック士官。

「分かっている、早く行け」と応えるフォーリー軍曹。

それは、厳しい訓練、仲間、友人を通じて学んだ自身の成長の軌跡だった。そしてザックは、ポーラを迎えに製紙工場を訪れる。働く仲間たちはその光景に驚く。リネットも二人を称える。

ザックは、ポーラを抱え上げ旅立つ、それぞれの境遇を越えて二人は結ばれた。

原題「An Officer and Gentleman」の意味と解釈。

Officerのほうは、日本でもたくさん使われています。例えば、企業ではCEO、COO、CMOなど全体の統括責任者や部門の統括責任者を意味しています。

この作品でのOfficerは軍隊組織の階級で最高位の「士官」を意味します。

続いてGentlemanですが、一般的には “紳士” となりますが、もう少し正確に言えば、この言葉は、紳士の国 イギリスが発祥です。ここでの紳士は、貴族ではないが、これに準じ人格や地位において平民を超えて高められた騎士道やヒューマニズム精神を持つ限られた人々との意味です。

「士官」は階級で、「紳士」は高潔な態度というわけです。

精神的なトラウマのせいで人間不信と女性不信のザックが、士官訓練学校での心身の鍛錬期間を通じて、文字通り士官であり、かつそれに足る人格を有したと言えるでしょう。

最期にザックたち候補生と教官のフォーリーの立場が入れ替わるシーンは、教練で逞しく巣立っていく儀式であり感動的です。