映画『アフター・アワーズ』|帰るに帰れない、不運な男のお話。

マンハッタン、仕事を終えて深夜のカフェで出会った女性、ほんの興味心のつもりが、次々に起こる不思議な因果。ソーホーで体験するついてない男の悪夢のような出来事の連鎖。帰るに帰れない不運な男ポール。ニューヨーク派のスコセッシ監督が贈るブラックユーモア。

解説

好奇心で足を踏み入れたソーホー、奇妙な夜から抜け出せない。

タイトルは、アフター・アワーズ。だから “勤務時間後に” ってことになる。

主人公のポールに起こった深夜から翌朝までの悪夢のような体験の連続。

マディソン街に勤めるプログラマーのポールは、仕事を終えて深夜のカフェで「北回帰線」を読んでいると、テーブル超しに一人佇む女性が「その本、好きよ」と声をかける。

「ヘンリーミラーは偉大な作家だ」と話す。すると女性は “これは本ではなく長い侮辱であり、芸術に吐きかけるツバだ、真実や美や神を汚して” と一説をそらんじる。

いい雰囲気になりそうと思いコーヒーを薦めるが、彼女はソーホーに住む友達の家に行くという。友達は、石膏細工のアーティストだという。

「石膏の文鎮をつくっている」と言うと、ポール「買いたいな」と話を合わせる。女性は友達の電話番号と名前を伝える、友達の名前は “キキ・ブリッジ”。

ポールは一旦、家に帰ってキキに電話をする。「文鎮の事で電話をしたんだ」と言うと、友達に電話を変わる、彼女はマーシーと言って、ポールの電話を喜ぶ。

マーシー「友達とひどい喧嘩をした」という、ポール「仲直りできるよ」と話す

「ほんとうに仲直りできると思う?」と念を押されるので、事情が分からないポールは、「よく分からないけれど」と答える。するとマーシー「こっちに来ない」と誘う。

時計の針は夜11:32。「いますぐ?」と聞くポールに、「そうよ!」マーシーは答える

住所を聞きだす、名前はマーシー・フランクリン。20ドルを握って、タクシーに乗りソーホーに向かう。土砂降りの雨の中、猛スピードで飛ばすタクシーが、左右に揺れる拍子に20ドルが風に飛ぶ。手許に残ったのは、小銭6ドル50セント。

これから、次々に因果が重なる不運な出来事が連続します。

帰りたいけれど、どうしても帰れない。奇妙な夜から、絶対に抜け出せない。

ニューヨーク派のマーティン・スコセッシが贈る都会のコメディ。あらすじを追いながらブラック・ユーモアを楽しみたい。

舞台はニューヨークのロウアーマンハッタンのソーホー。

今では高級ブティックやレストランが居並びますが、この頃のソーホーは売れない芸術家が住む場所でした、倉庫を改造したクラブハウスなどもありました。

ポールがタクシーで踏み入れたのはこのソーホーです。古く残る建築様式 (キャスト・アイアン建築) が、夜の光に浮かぶと悪夢の舞台としては不気味なダウンタウンです。

些細な出来事で因果が巡り、不幸が連鎖して繋がっていく面白さ。

因果の連鎖は、マーシー → キキ → トム → ジュリー → ゲイルといった人々の順番で起こり、周辺の関係者たちもいます。

トムの住むアパートの人々は自警団の主要メンバーで、ニールペピは夜のソーホーを徘徊する泥棒、でも二人はキキとは友達。石膏の細工は泥棒したのではなく、ちゃんとお金を払って買っています。キキは新進の前衛アーティストで、ジュリーも知っている。さらにマーシーとトムは恋人同士です。

こうなるとソーホーの人々は繋がっている。そこへアバンチュールを求めてやってきたポールに、シェットコースターのような悪夢が待ち受けるのです。

この映画は、帰りたい→帰れない→帰りたい→帰れない→帰りたい→帰れないの連続のお話なのです。

アパートに着き部屋に入ると、キキは石膏で “ムンクの叫び” を作っており、マーシーはドラッグストアに買い物に行っているという。

肩が凝るのでマッサージをしてくれと言い、ポールがマッサージをすると、キキ「体に傷が少ないのはめずらしく、醜い傷跡がある女もいる」と言う。そしてそのまま眠ってしまった、そこにマーシーが帰ってきた。

マーシーは思わせぶりにシャワーを浴びてくるという、時計は深夜1:40

何気なくポールは、バッグを覗くと「マーシー・フランクリン第2度 火傷」と書かれた薬袋があった。シャワーから出て、マーシーは火傷の塗り薬をもって部屋に消える。

何やらボソボソと話す声がポールには聞こえる、マーシーポールに誰かと話していたかと訊ねる。どちらも話していないと答えるが、確かに誰かが話していた。

二人は気分を変えるため珈琲を飲みに外に出る。ポールは表札の「フランクリン」が誰かをマーシーに質問する。マーシーは、夫で家主と答える。そして別れた夫の異常な話を聞かされる。

時計は深夜2:20 部屋に戻ると、ポールはまた誰かが囁く声が聞こえる。不気味で危険を感じ、マーシー辛くあたり混乱し部屋を出ていく。

外は、まだ雨が降り続いている。

家に帰ろうと地下鉄に向かうが、深夜料金の割増しでお金が足らない。無理に改札を飛び越え乗ろうとするが、守衛に止められる。雨の中、外へ逆戻り。

雨宿りに辿り着いたバーで、97セントしかなく休ませてもらう。

そこにウェイトレスが「助けて!この仕事きらい!」と注文票の裏にメモを残す

ポールは、マスターのトムに、金が無く帰れないことを話すと、金をあげると親切にも言ってくれたが、レジに鍵がかかり開かない

トムに頼まれ彼の部屋のキーを取りに行く。信用のため自身のキーを代わりにお店に置いていく。ポールトムの部屋を訪れ、カギをとり外へ出ると、男二人がキキの石膏細工を車に乗せようといていた。

どんなに頑張ってもなぜかちぐはぐで、すべてが裏目に出て帰れない。

ポールは制止して石膏細工をキキの所へ返しに行くと、ホルストというマッチョが出てきた。キキは盗られたのではなく、友達のニールペピに売ったのだという。さらにホルストはマーシーに失礼なことを言ったことを謝れという。

ポールは再度、マーシーに会って「男友達や火傷の話などが耐えられなかった」と詫びようとしたが、マーシーは睡眠薬で自殺していた。

キキに伝えようとするが、ホルストと一緒にベルリンクラブに行くとメモが残されていた。ポールは、警察に電話し死体があることを告げ、彼女の体を確認したが火傷の痕はどこにも無かった。

トムのカギを持ってダイナーに戻ると、あいにく“30分留守にする”との張り紙がある。途方に暮れていると、ウェイトレスのジュリーと再会する、彼女は店をやめたと言う。ポールジュリーの家で時間をつぶそうと思った。

ジュディの家につくと自身の髪型の感想を聞き、モンキーズを踊りだす

ポールトムに早く鍵を返して、金を借りて帰りたいが、ジュディポールの似顔絵を描きだし、自分はコピーショップでバイトをしていると話す。疲れているポールはつれなくあたる、するとジュディヒステリックになる。

そこにトムが帰ってきたので、ポールは店に行く。すると電話がかかってきてトムのガールフレンドが死んだという。名前はマーシーといい、ついさっき睡眠薬で死んだとのこと。ポールは茫然とする。

ポールジュディのところへ戻ると、プレゼントだと言って、キキ石膏でつくったパンの形をした文鎮を贈る、ポールはこれをはたいてしまう。ポールの焦燥と苛立ちはピークに達しているようだ。

ジュリーは、ひどく傷つき「仕返ししてやる」と言う、ポールは急いで外に逃げ出す。

ダイナーは、また閉まっていた。ポールトムの家に行くが、また泥棒と間違えられてしまう。仕方なく、ベルリンクラブに行ってみることにする

ベルリンクラブは “モヒカン刈りの夕べ” イベントで危うくポールもモヒカンにされるところを逃れた、そしてもう一度、マーシーの部屋を訪ねてみる。

部屋でキキの石膏細工に張り付いた20ドル紙幣をはぎ取り、外でタクシーを捕まえて帰ろうとするが、降りようとする女性客とぶつかり腕に怪我をする。手にした20ドルは行きと同じタクシー運転手に奪われた。またもや一文無しになり、落胆する。

その女性はゲイルと言った。事情を説明し電話を借りようとする。ゲイルはアイスクリーム売りで、営業車も持っているという。

怪我の手当てをさせてくれと言うので、看てもらうと、ポールの体に石膏細工を手伝ったときの紙粘土に貼りついた新聞記事に “昨夜、マンハッタンのソーホーで、男が、怒った暴徒によってバラバラにされた、被害者の身分は分からない、衣類は裂かれ身分証明書もなく、顔全体が打ちのめされて識別ができない”とあった。

ゲイルは家までポールを送るという、二人で外を歩くと柱に、手配ビラ・・・・が貼ってある。それを見たゲイルは笛を吹く、自警団がやってきた。ポールあわててそこを去る。

疲れ切ったポールは、通りを歩く男娼のマークに助けを求め家に立ち寄る。警察へ電話するが、いたずら電話として相手にされない。

窓からジュリーがポスターを電信柱に貼りつけているのが見える、降りて確認すると、自分の似顔絵と“捕まえろ!” の文字が書いてある

やっとの思いでポールトムと再会する、自分は泥棒ではないと説明をする。トムはキーを取りに行くといって出る。

そこに、モヒカンの女がやって来て、クラブ・ベルリンのビラをポールに渡す。

外に出たトム自警団に通報し、ゲイル先頭に自警団がダイナーに入ろうとする

クラブ・ベルリンに向かうポール、そこは誰もいなくなっていた。ただ一人、中年女のジューンが飲んでいた。ポールは気持ちを吐露しダンスに誘う。

石膏細工になって運ばれて、やっと辿り着いた先はオフィスの前。

そこに自警団が押し寄せる。ジューンポールを地下のアトリエの部屋に誘う。ジューンも石膏細工をやっており、彼女のアトリエに慌てて飛び込んだポールは、石膏の液を頭から被ってしまう。

自警団はジューンのいる地下室まで迫ってくる。

ジューンは一計を案じ、ポールを隠すために紙粘土と石膏で細工していく。やがて目穴だけを残したオブジェになった。

ゲイリーたち自警団は退却し、すんでのところで助かった。

ジューンが様子を見に階上に行った隙に、ニールとペピの泥棒二人組が入ってきて石膏細工のポールを担いで盗みだしていった。

石膏細工になったポールを乗せて、早朝のマンハッタンをソーホーからハドソン通り、八番街と走りマディソン街まで来てカーブの勢いで落としてしまい、固めた石膏が壊れた。

落ちた場所は、オフィスの前。石膏だらけのポールは、たいへんな一夜を過ごして早朝に自分のデスクについてパソコンをオンにした。

“おはよう”というメッセージが流れる。

こうしてぐるりと連環した一日が始まる。ポールにとって、やっと数珠つながりの不幸が終わる。

流れる音楽も、冒頭のバッハのG線上のアリアに始まり、タクシーのシーンでのジプシー・キング、ジューンの部屋のモンキーズ、最後のシューベルトと、ごちゃまぜながら、うまく成立している。